●江戸、火消達の魂の仕事
このお話は、一昨日のブログ(●火事を予知する少年)の続きです。
従って、一昨日のブログ(https://ameblo.jp/hirosu/entry-12377482152.html)
を先にお読みください。
そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ]
当初の電話相談では、ご主人の悩みが主だったのだが、
その問題が一段落すると、5歳になる息子さんの話をしてきたのである。
彼女いわく半年前に引っ越して来たという、現在のアパートに引っ越して来てから、
5歳になる息子が、近くで起きる火事を予知するのだと言うのだ。
このアパートに何か原因があるんじゃないかと言うのです。と言うのは、
息子さんがまだ2歳の頃、誰も居ない所を指差してお姉さんが居るとか言ったという。
確かに。引っ越して来る前は、まったく予知などしなかったと言うので、
原因はこのアパートにあるとまず疑うのは、私も同じである。
だとしたら、いったい、そのアパートに何があるというのだろうか。
最初に火事を予知したのは、このアパートに引っ越して来てから10日目の事だった。
急に息子が起きて来て、「何、何、ママ、何かあったの? 怖いよう。」
頭を撫でてやってると、急に外が騒がしくなったのです。
消防車が、けたたましくサイレンを鳴らして通り過ぎて、そんなに遠く無い所で止まった様でした。
2度目の予知は、それから約2ヵ月経った頃でした。
やはり夜中の11時頃だったと思います。主人と居間でテレビを見ていると、息子が、
「ママ、どこが火事?」と言いながら居間に入って来たのです。
それからものの2・3分経った頃でしょうか。急に外が騒がしくなったのです。
消防車のサイレンの音が聞こえ始め、それも1台では無い様でした。火事はココから
500m位は離れた場所で、ベランダから見ると斜め右下の方に火の手が見えました。
息子が起きて来た時には、サイレンは鳴っていなかったし、火事の現場も、
息子が寝ていた部屋の窓からはベランダが邪魔して見れない所だったからです。
それから3ヶ月後、息子の3度目の火事の予知があったのです。今度は明け方の3時頃だった。
息子が「ママ、ママ、起きて! 火事だよ。」と私を起こしたのです。
息子が予言した時点では、サイレンの音はまったく聞こえなかったのです。
3度に渡る火事の予知。たった5歳の子がそれらを予知したと言う。
さっそく息子さんに会いに行った。「タカシ君、火事が起きるのが分かった日、
そのミニカーの消防車のサイレンの音が聞こえたの?
消防車のサイレンの音が聞こえたから、火事が分かったのかな?」
「うん!」なんと、タケシ君はサイレンの音が鳴ったから火事だと分かったというのだ。
もしかしたら、タケシ君の耳は、犬並みに優れているのだろうか?
3度とも、サイレンの音が聞こえてからママの所に行って知らせたのなら、
これって!火事の予知じゃ、ねえな。ただガキの耳がいいだけかぁ。
子供は大人が聞こえない音を聞き取る事が出来るという。いわゆるモスキート音である。
しかし、私は同時にこうも思った。子供の方が大人よりも耳がいいのは分かるが、
消防車のサイレンの音が大人よりも3分も早く聞き取れるものだろうか?
そこで、もう一度だけタカシ君に聞いてみた。
「どんなサイレンの音がしたのかな?」
すると、タカシ君は、
「カン!カン!カン!って何度も聞こえた。」と答えた。
「カン!カン!カン!という音だけ?」と聞くと、
「うん。」とタカシ君。
「ウー!ウー!ウー! とは聞こえなかった?」と聞くと、
「カン!カン!カン!って聞こえた。」と言う。
多分、この辺のやり取りは、何が何だか分からないという人もいるだろう。
そこで説明すると、
余り知られていない事なのだが、
実は、普通、日本の消防車のサイレンの音は、3種類あるのである。
その3つとは、
■「ウー!ウー!ウー!」
■「カン!カン!カン!」
■「ウー!ウー!ウー! カン!カン!カン!」
である。
そして、その使い分けは、
まず、火事があって出動する時のサイレンは、
■「ウー!ウー!ウー! カン!カン!カン! 」である。
ちなみにその時の消防車のサイレンの音はこんな感じ。
https://www.youtube.com/watch?v=3U79-C-hKOU
■しかし、消防車は火事の時だけに出動する訳では無い。
例えば、交通事故で車に閉じ込められた時のレスキューなどにも出動したりする。
そんな火事以外での消防車の出動の時のサイレンは、
「ウー!ウー!ウー! 」だけになるのである。
■そして、最後が、
火事で出動した消防車が、
無事火消しに成功し、消防署に戻る時のサイレンの音が、
「カン!カン!カン! 」だけなのである。
つまり、タケシ君が、聞いたと主張する音が、
もし、「カン!カン!カン! 」だけなのであれば、
それは火事が終わった時のサイレンの音なのである。
なんともおかしな話になってきた。
タケシ君が、火事が終わった時のサイレンを聞いて、ママの所に行き、
その2分後に、ママ達は消防車が来る音を聞いて、
ベランダから見ると火事になっている現場が見えたという。
私はもう一度タケシ君に、「ウー!ウー!ウー! 」は聞こえなかったの?と聞いたのだが、
タケシ君は絶対「カン!カン!カン! 」だけだったと言い張るのである。
そこで、別の聞き方をした。
[タケシ君、「カン!カン!カン!」ってどっちの方から聞こえた?
あっちの駅の方からかな。
それとも、反対側のこっちの方からかな。]
すると、「分からな~い。」と言う。
「じゃあ、「カン!カン!カン!」って、段々大きな音になった?
それとも、「カン!カン!カン!」って段々小さな音になっていった?」と聞いてみた。
実は、同じ消防車の音であっても、
近づいて来るサイレンの音と、遠ざかって行くサイレンの音は違うのである。
近づいて来るサイレンの音は、音の波の周波数が速度の存在によって高くなり、
サイレンの音も段々と大きくなって聞こえてくる。
逆に、遠ざかって行くサイレンの音は、音の波の周波数が伸ばされ低くなり、
サイレンの音も段々と小さくなって聞こえるのである。
これをドップラー効果という。
しかし、タケシ君の答えは、そんな専門知識など打ち破るものだった。
「全部同じ音! 上から聞こえたぁ。」
全部同じ音? しかも、上から聞こえた?
上って、
誰かが屋上で「カン!カン!カン!」って鳴らしているって言うのか。
と、独り言を言いそうになった時、
タケシ君がまだ2歳の頃、
誰も居ない所を指差して、お姉さんが居るとか言ったという話を思い出した。
もしかたしたら、
タケシ君は、霊が鳴らした音を聞いたのかもしれない。と思った。
その昔、江戸(東京)は火事が多かった。
同時期の大阪と比べても江戸の火事の数は8倍以上の多さである。
江戸の町に火事が多かった大きな理由は、急激な人口増加である。
それによって、
■木造長屋などで、料理や照明のロウソクの明かり、タバコなど、火を使う事が多くなった。
■人口増加によって、思った様な職につけず、怨みによる放火や、
放火によって火事場泥棒をする輩が多く現れたのだ。
■そして、人口増加よって、江戸の町は飲料水が不足していたのである。
したがって、火事が起きても、貴重な水を沢山使って消す事が出来なかったのだ。
だから火消達は、火事が起きると、水をかけずに、
まず彼らがやったのは、類焼を防ぐ為に、まだ燃えていない家を壊したのである。
つまり、火元の火事場の風下で、まだ燃えていない建物を破壊してそれ以上の延焼を防いだのだ。
これを破壊消防と言った。
江戸の町は、こんな頼りない消火方法だったので、今から約350年前には、
江戸城の天守閣も焼いてしまうという明暦の大火という大火事が起き、
約10万人の方もが焼死したのだった。
ちなみに、この明暦の大火と、ローマ大火と、ロンドン大火を世界三大大火と唱える人もいる。
そんな火事の多かった江戸でも、
タケシ君が今住んで居る文京区は、特に火事が多かったという。
あちこちに、火の見やぐらが建てられ、
24時間体制で火消したちが江戸の火事を見張ったと言う。
そして火事を発見すると、「カン!カン!カン!」と、
火の見やぐらに取り付けてある半鐘を叩いて鳴らしたのである。
仕事熱心だった火消しは、自分の命さえ顧みず人々に火事を知らせる鐘を鳴らして、
火元に近かった人は、鐘を鳴らしながら焼け死んだり、
高い所から誤って落ちて亡くなる人もいたという。
まさに当時の火消達は、命がけの仕事をしていたのだ。
もしかしたら、タケシ君達が今住んで居るアパートも、
昔は火の見やぐらが有った場所だったのかもしれない。
そして、仕事熱心だった人は、亡くなった後もその仕事を続けている例も良く聞く。
例えば、教会に行くと亡くなった人の讃美歌が聞こえたり、
亡くなった後も、未だに病院で働いているという霊がいたりする。
タケシ君は、そんな火消したちが鳴らした魂の鐘を聞いたのかもしれない。と思った。
霊達は昼間よりも夜活発に動く。
その意味でも、タケシ君が夜だけ鐘の音を聞いたというのも納得出来る。
多分、タケシ君も初めて聞いた時は、何だか分からなくて驚いたはずだ。
皆さんは覚えているだろうか。
タケシ君が最初に火事を予知した時の言葉は、
「何、何、ママ、何かあったの? 怖いよう。」で、火事の事など一切言って無いのである。
そして、それが火事の合図だと分かると、2回目には、
「ママ、どこが火事?」と言いながら居間に入って来て、3回目の時には、
「ママ、ママ、起きて! 火事だよ。」となっているのである。
私は今回の相談を振り返って、
今もあちこで、江戸(東京)を守っている霊達がいるのだなぁ。と少し嬉しくなった。
実際、世の中には、怖い霊よりも
断然、優しい霊の方が多いのである。
END
