●死者の導き
今日のお話は、前回の話にも多少関係があるもので、
前回のお話を書いている時に、思い出した事件です。
これも当時と同じ時期頃に体験したものです。
依頼はこんなものでした。
引越してまだ1ヵ月位のアパートで、
時々真夜中に寝ていると、咳(セキ)が聞こえて気持ちが悪いというのです。
自分の気のせいか、隣や下の人の咳かと思い、友人に泊まってもらうと、
その友人も、真夜中に、確かにこの部屋で誰かの咳(セキ)らしい音が聞こえたといい、
その友人も、
「ここ、やばいよ!!
早く引っ越した方がいいよ!」 と、忠告したのもあり、
本来なら、気持ちが悪いので、私も一日も早く引っ越したいと思っているのですが、
なにしろ、引っ越したばかりで、
今は、余りお金の余裕が無く、どうしたらいいか困っています。
それで心霊相談をやっていると見て、お電話しました。
と、そんな内容の電話でした。
この頃は、私も雑誌に広告を載せていた訳では無く、
ポスティングや店に広告を貼らせて頂いていた時期なので、
心霊相談として電話を受けても、大抵は歩いていける距離からの相談でした。
だから、この案件も、同じ練馬区という事なので、
さっそく現場を診てみましょうという事になりました。
彼女は一人暮らしで、昼間は会社員として働いているので、
彼女の都合が良い時を見計らって、また電話します。という事になった。
この時点で、
家にまでは来て欲しくないという依頼者は、もう電話はかかって来ない。
しかし彼女の場合、再び電話がかかって来た。
来週の日曜日の午後、友人が来ているので、その時にお願いしますという。
住所もやはり、歩いていける距離だったので、
午後1時に私が彼女のアパートに行くという事になった。
常識で考えると、男性を独り暮らしの女性の家に招くというのは、
例え心霊相談であっても、抵抗があると思うのだが、
なぜか、私の声は信用してもらえる声らしい。
その後電話相談を始めた時も、「先生の声は癒される。」と言われたり、
毎週3回は相談してくるという方もいた。
確かに、私は今まで女性に手をあげた事はないし、
普段も、誰に対しても余り怒らない。
女性は、そういう所を声で判断出来るのかもしれない。
さて、約束の日曜日、
私は約束の午後1時よりも1時間早く現地に着いた。
毎回そうしているのだが、1つには遅刻しないようにという配慮である。
もう1つは早く現地に着く事で、落ち着いて現場が見れるという事である。
これは受験でも同じ事が言える。
1時間早く受験会場に到着する事で、普段の自分の力を発揮出来たりする。
まぁ私の場合は、それプラス。
アパートの隣や、付近の環境を見て回ったりする。
例えば、アパートの隣に川があったり、お墓や神社があるなら、
一応見ておいたり、アパートの外観を四方から見てみたり、
方角や日当たり、庭の様子を見ておいたりするのである。
こういう事は、お客に会ってからでも出来ない事は無いのだが、
お客を待たしているとなると、気になって落ち着いて診れないのだ。
約束の午後1時丁度、アパート2階の彼女の部屋をノックした。
もう既に来ていた、彼女のご友人とも挨拶を交わし、
さっそく部屋の中に通してもらった。
間取りは、2DKで、こんな感じのアパートだった。
引っ越して来てからまだ40日位だということで、
まだ開けていない段ボール箱が2・3あったものの総じて綺麗な部屋である。
私はまず、ドアが開いていたという事もあり、洋室に入ってみた。
特に絨毯などはひいてなく、ソファーと本棚とテレビが置いてある。
バルコニーに花の植木鉢が見えるのが、いかにも男性の部屋と違う所だ。
特に悪い感じは受けない。
次に、一旦ダイニングに戻ってから、和室のドアを開けた。
この瞬間が一番大事である。
人間は環境に慣れやすい。
だから、異変がある部屋に入っても、段々とそこに慣れる事がある。
部屋に入って、1分もすると慣れてしまう事さえある。
だから、部屋に入る時は、誰かと話ながら入るなんて事は絶対しない。
むしろ、呼吸もしないで、全身に神経を尖らせて入る様にしている。
最初の印象や、最初に感じる感覚が大事なのだ。
和室のドアを開けた瞬間、
若干だが、腕に鳥肌が立ちそうになるのを感じる。
また空気感が、洋室よりも重い感じがする。
臭いも、ややイグサとは違う臭いがするが、動物のものでは無い。
「咳が聞こえるのは、この和室ですか?」と彼女に聞くと、
「はい。そうです。」と言う。
そのまま3人とも無言で、この和室に10分位居続けただろうか。
二人は、黙って何か私が言うのを待っている。
私はというと、彼女が聞いたという「咳(セキ)」が私にも聞こえないかな。
と思って、耳をすませていた。
しかし、真夜中と昼間の午後の1時では、霊の力が全然違う。
相当力の強い霊でないと、昼間の午後1時には現れないだろう。
とりあえず、私達は一旦隣の洋室に戻った。
そして、当時の咳が聞こえた時の様子や、他に異変は無かったのかとかを聞いたのだが、
咳以外の異変は特に無いという。
そして、咳は弱々しく、何となくお年寄りの咳の様に感じたという。
また、
「ここを借りる時、事故物件だったとかの説明は受けましたか?」と聞いてみた。
しかし、彼女は、そんな事は聞いていないという。
当時は、それほど事故物件という事を次の借主に説明する不動産屋少なかった。
またインターネットもそんなに普及してなくて、
事故物件という噂や前例があっても、ばら撒かれる事も無く、
風化されていっていた時期である。
その時だった。
誰かが、玄関のドアをノックしたのだ。
彼女いわく、まだ引っ越したばかりで、他に知人はいないはずで、
ここに来るとしたら、今隣に居る友人しかいないはずだという。
「一体、誰だろう。」と彼女。
そんな事を聞くと、ちょっと気持ちが悪いので、
私達3人で、玄関の方に行ってみた。
すると、もう一度ノックが・・・
やがて、そのノックこそが、「死者の導き」だったのである。
後半は、明日のブログに続く。
