●うどんを食べれて涙を流す人もいる

 

 


占いの仕事をしていると、

 

 

例え自分の領域では無くても、

 

 

自分の利益にならなくても、相談者の為になると思えば、他の手立てを考える時がある。

 

 

それは折角自分を頼って病院に来てくれたのに、自分の範疇を超えると感じて、

 

 

他の医者を紹介する医者と似ているのかもしれない。

 

 

 

 

 

医者と比べたら、奥がましいと言われるかもしれないが、

 

 

ある日、こんな相談者が居た。

 

 

他はいたって健康なのだが、利き手を怪我して箸が持てないという。

 

 

先生は普段、ご飯を箸で食べるのが普通でしょうが、

 

 

私はご飯をスプーンでしか食べれません。

 

 

なんと味気ない事か分かりますか。

 

 

それに昔は御蕎麦(そば)が大好きでしたが、今は食べれません。

 

 

すみません。こんな愚痴を言うつもりは無かったのですが・・・・・

 

 


私は彼女に、ある特別な箸を勧めた。

 

 

 

 

 


その箸は、手に障がいがあり、震えてしまう方にも、

 

 

親指と人差し指が使えなくても、

 

 

ちゃんと握れる様な作りになっていて、

 

 

安定感もあり、握りや軽さなども工夫がされている、箸なのである。

 

 

障害者だけでなく、お年寄りや、力の無い子供

 

 

そして、箸の文化の無い外国人まで使える箸なのである。

 

 

 

 

 

 


それは今から24年前の事である。

 

 

 

 


一人の男が、鋳物工場で毎日働いていた。

 

 

工場では、 気体中に浮遊する粉塵などを集めて取り除く装置として、

 

 

集塵機が設置されている。

 

 

ある時、彼(中川さん)は、その集塵機についているミキサーに、

 

 

右手を巻き込まれてしまったのです。

 

 

気絶しそうな痛みが彼を襲いました。

 

 

なんとか機械から右手を引き抜いてみると、

 

 

なんと右手の中指がありません。

 

 

 

直ぐに病院に駆け込み、先生のおかげで何とか中指はつながりました。

 

 

しかし、指は繋がったものの、まったく動きません。

 

 

彼の右手は、箸が持てない手となっていたのです。

 

 

その後、腱を移植も行ったのですが、動くのは僅かでした。

 

 

彼は慣れない左手で箸を使って食べれる様に訓練しました。

 

 

しかし、慣れない左手で食べると、徐々に左手が疲れてきて、

 

 

疲労感が、彼の食欲を奪うのでした。

 

 

その後も、何とかして右手が動くようにならないかと、

 

 

3度も手術をしましたが、指が動く様になる事は無かったのです。

 

 

 

 

 


そんな時、彼はふと、

 

 

指が動かないなら、箸に何か工夫が出来ないかと思いついたのです。

 

 

彼はリハビリをしながらも、自分専用の箸を作り始めたのでした。

 

 

市販の箸にグリップを付けて手の中で安定させるという箸を開発すると、

 

 

何とかこの箸で食事をする事が出来る様になったのです。

 

 

その時、中川さんは改めて食べる事の大切さを学んだといいます。

 

 

この事を病院の先生に話すと、

 

 

貴方と同じように右手に麻痺がある患者さんが居るので、

 

 

良かったら、彼にも使えるか試してみてはと提案されたという。

 

 

 


その患者さんは、数年前に脳溢血(のういっけつ)で、

 

 

右半身麻痺となり、少しは回復したものの、

 

 

また脳溢血になり、今度は左半身麻痺になられた方で、

 

 

麻痺の残る右手でスプーンを使って食事をしている方でした。

 

 

勿論、食べる時に箸を使って食べるなど、あきらめていた人でした。

 

 

そこで、病院の食事のメニューが「うどん」の日に合せて、

 

 

彼に開発した箸を使ってみてもらう事になりました。

 

 

彼は恐る恐る中川さんが作った箸を手にとり、麻痺の残る手につけました。

 

 

 

するとどうでしょう。

 

 

今まで出来なかった箸で、うどんを食べ始めたのです。

 

 

そして、うどんを食べながら、突然泣き出したのでした。

 

 

「スプーンで食べるのが悔しくて情けなくて。

 

 

 それが何年かぶりに自分の手で箸で挟みながら食べられましたありがとう。」

 

 

中川さんは、患者さんからその言葉を聞くと、一緒に感動し、

 

 

改めて、箸にはすごいパワーがある事に気づかされたといいます。

 

 

そして、この感動を、多くの手が不自由な人に味わってもらいたいと思い、

 

 

それから仕事の合間に、養護学校や養護施設を回り、改良を続けたのです。

 

 

 


研究を開始してから2年たっていました。

 

 

 

彼は出来た箸を、多くの人に使ってもらおうと思い、

 

 

「作業療法士の全国大会」が東京の八王子であるのを知ると、

 

 

急いで新幹線に乗って、自分の開発した箸を出品したのでした。

 

 

すると、全国から来ていた先生方が、彼の箸を手にとってみて、

 

 

使ってもらうと、驚かれたり、感心されたりしてもらったといいます。

 

 

しかし、いざ販売するとなると、話は別でした。

 

 

そこにみえていた大手の会社のバイヤーの方は、一応は感心したものの、

 

 

「デザインが良くないね。」

 

 

「いかにも手作りで商品性が低い。」

 

 

「それに価格が高すぎるよ。」

 

 

「これじゃ、売り物にならない。

 

 いくら性能が良くてもウチでは扱わない」

 

 

との厳しい意見の数々だったのです。

 

 

 

 

 

また、箸を買う人の需要が無いという指摘もありました。

 

 

当時の福祉用品の業界、特に自助具の「箸」の市場は、

 

 

まったく無い言ってよく、

 

 

障害がある人は、箸など使わず、スプーンやフォークで食べればいいんだよ。」

 

 

という考えだったのです。

 

 

でも、想像してみて下さい。お刺身おソバ煮魚を、

 

 

スプーンで食べる味気なさ。  私がそう思った様に、

 

 

障害者の方だってきっと「お箸で食べたい!と思う人がいるはずです。

 

 

せめて、そんな小さな望みを、叶えさせてあげたかった。

 

 

 

 


しかし実際、彼が作った箸は、一膳一膳ずつ手作りだったので、

 

 

価格も5500円と高かったのです。

 

 

 

 

価格を安くするには、金型を作って大量生産するしかありませんでした。

 

 

しかし、彼にはそんなお金はありません。

 

 

彼は失意のまま、帰りの新幹線に乗り込みました

 

 

 

 


考えてみれば、障害者用の箸の需要が無いのに、

 

 

たった一人で、多くの人に喜んでもらおうとした自分が余りに無謀な事だったのです。

 

 

 


もうここが限界でした。

 

 

こうして、彼は障害者用の箸の普及を、断念したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなある日、

 

 

あるボランティア団体の会合で、一人の女性と知り合います。

 

 

彼女は、彼が「障害者用の箸」を研究している事を知ると、

 

 

「是非、息子に会って欲しい。」という。

 

 

 

彼女の息子さんは、高校2年生の時に、交通事故に遭い、

 

 

頚椎損傷で指が動かなくなり、スプーンで食事をしていたのです。

 

 

息子さんに会ってみると、

 

 

彼の親指は両手とも動かせず、

 

 

スプーンを親指と人差し指の付け根に差し込んで持って食べていました。

 

 

手首を外に曲げる事が出来、それにつれてわずかに親指以外の指が、

 

 

手のひらの方向に閉じることがリハビリの訓練によって可能となっていました。

 

 

 

 


そんな息子さんを持つ母親は、

 

 

「これから先、独りで生きて行けるように、

 

 

 先ず食べる事、そして簡単な食事が作れる様にさせてあげたい」と言いました。

 

 

 

息子さんの先行きを案じる母親の愛を感じて、

 

 

中川さんは、再び「障害者用の箸」の開発を始めたのです。

 

 

 


こうして、試行錯誤の末、出来た箸を息子さんに使ってもらいました。

 

 

その日の晩御飯に「そうめん」を食べてもらう事にしました。

 

 

息子さんが中川が開発した箸を装着してもらい、「そうめん」を摘まもうとします。

 

 

すると、そうめんが摘まめるのです。

 

 

摘まんだままではなく、挟んだまま汁に漬け、口まで運びます。

 

 

その場にいたお母さんの歓声、そして息子さんも照れた様な笑い。

 

 

家族の喜ぶ顔が、その後の中川さんの背中を押したのでした。

 

 

 

 

 

今年の1月、彼の今までの功績が新聞でも取り上げられた。

 

 

それが下である。

 

 

現在、京都で細々と、障害者の希望と共に箸を広める活動を続けている。

http://www.hashizokun.com/product.html

 

 

 

 

 

 

 

彼は言います。

 

 

 

 


お箸で食べる事。

 

 

 あきらめなくてもいいんだよ。」と。

 

END

 

 

 

参考:有限会社 ウインドのホームページ