●寝たきりの魔法使い
ある時、1年前に離婚したというシングルマザーの方から相談を頂いた。
別れた夫からは、養育費をもらう事になってはいたが、
家賃の事などを考えると、働きに出ない訳にはいかないという事で、
彼女は半年前から、約10年ぶりに働きに出たという。
しかし、久しぶりの仕事場は、体力がついて行かなかったり、
コピー機やパソコン類が、以前よりも格段に性能が上がっていたりして、
思っていたよりも、ハードだったという。
それに加えて、同僚の独身女性達からは意地悪されたり、
無視されるいじめも結構あるというのだ。
だから、彼女の相談というのも主に仕事の事だった。
でも、彼女の仕事に於いて、占いで出来る事には限界がある。
私が仕事場に乗り込んで行く訳にもいかなし、
彼女のスキルアップを手伝う事も出来ない。
そんな彼女と話しているうちに、彼女の実家の話になった。
現在実家でも、母親が病気で寝たきりになっていて近くの病院に入院しているといい。
だから、1週間に一回は父親の世話をしに実家に寄るのだという。
私が、お母さんのお見舞いには言っているのか聞くと、
入院した時と、あと入院したあと1週間位経った時にお見舞いにいったきりだという。
2日に一回は父親が行っているのと、
最後にお見舞いに行った時に、母親の方から、
「お前も大変な時だから来なくていいよ。」と言われたからだという。
私はそれを聞いて、
それは是非、明日からでもお母さんのお見舞いに行って、
貴方が今抱えている悩みを全て話してみてはどうかとアドバイスした。
幸い病院の面会時間を聞くと午後8時までだったので、
仕事を終え、一旦自宅に帰ってからお見舞いに行っても間に合う距離だった。
彼女は私のアドバイスを信じてか、次の日から毎日母親のお見舞いに行ったという。
そして、今仕事場で上手くいっていない事。
同僚に意地悪されたり無視されている事など、
毎日母親にその日あった良い事悪い事など全部報告したという。
するとどうだろう。
今まで仕事の不満やうっぷんを誰にも話せなかったのを、
誰かに聞いてもらえたというだけでも、気が楽になったのか、
それとも奇跡が起きたのか、
彼女が仕事場で抱えていた悩みが段々と、自然と解決していったのだという。
しかも、良い事はそれだけでは無かったと言う。
母親のお見舞いに行く時、息子も連れて行って帰りに、
好きなお弁当を買ったりしていたのだが、
その息子が、お祖母ちゃんに何か悩みを打ち明けると解決するというのを、
母親から聞いてか、自分も学校の悩みをお祖母ちゃんに相談したというのだ。
病室で息子がお祖母ちゃんに相談しているのを、何気なく聞いていると、
「人前でうまく話せないんだぁ」とか、
「友達ができないんだよね。」とか、
今まで息子に、そんな悩みがあったのも知らなかったという。
母は孫の相談を、とても嬉しそうに聞いていました。
「そうかい、そうかい」と相づちを打ちながら。
するとある日、息子がお祖母ちゃんの絵を描いたのであげに行きたいという。
理由を聞くと、お祖母ちゃんのお蔭で、人前でうまく話せる様になり、
友達も1人出来たので、お礼がしたいと言うのだ。
普通、病院や自宅に、病気で寝たきりの人がいると、
病気が悪化しないように、とか、余計な心配をかけない様にと、
悩みや相談事したくても、言わなかったり、隠したりするのが一般的かもしれない。
しかし、寝たきりの人を馬鹿にしてはいけない。
寝たきりの人は、24時間寝ている。
これは、普通に生活している人よりも、
夢を見る時間や考える時間が普通に生活している人よりも長い。
つまり、普通の人よりも「生霊を飛ばす」のである。
だから、よく妻の看病している夫が、
その間異常に仕事運に恵まれるなんて事もよく起きるのである。
それに寝たきりの人というのは、
実際は家族の重荷になっているのではないかと、常に不安になっているものだ。
それが、自分を頼って相談してくれたり、
家族の一員として普通に扱ってくれる事を嬉しく思ったりもする。
その気持ちも、何とかしてあげたいと生霊に乗っかる。
だから、彼女や息子さんにとって、願いを叶えてくれたお祖母ちゃんは、
ただの役立たずの病人ではなく、寝たきりの魔法使いだったのである。
「ボクね。学校で友達ができないんだ。」
「そうかい。じゃあ、
おばあちゃんが、友達が出来る様に祈ってあげようね。」
END