●加奈ちゃんの杖(つえ)


 

 

時々、障害者を持つ母親から相談を受ける事があります。
 

普通、障害者を見ると、可哀想と思う方が多いと思います。




 


でも、不思議と障害者の方を個々診てみると、
 

心が強くて人間が出来ている人が多いのは何故でしょうか。




 


私はそんな人達を診て、こう感じる時があります。


 


それは、前世までに、きっと全ての事を成し遂げてしまい、
 

今世では、もっと困難な人生を体験しに生れて来たのだろう。と。


 


いわば、勇者なのだ。
 

まるで、マラソン選手が、自分を鍛錬する為に、
 

足に重りをつけて走る事に臨むかの様に、
 

障害という個性を持った人生にチャレンジにやってきた勇者なのである。



 


辛い事も、いじめや悪口も甘んじて受け、
 

あえて困難なレースに出場した、勇者なのだ。



 


そして、それは本人だけではない。


 

そんな勇者を支えようと、親として名乗り出た魂こそ、両親なのだ。
 

ある親は、もしかしたら、前世で、
 

その子に命を助けてもらい、今世ではその恩返しとして親になる人もいるだろう。
 

またある人は、前世までに様様な子育てをこなし、
 

今世では、一段上の困難な子育てに挑戦しに生れて来た人もいるはずである。


 


だから、障害を持った子も、素敵な人が多いのなら、
 

またその両親も頑張り屋で、素敵な人が多いのにも納得がいく。



 

 

そして、もう一つ言わせてもらえば、
 

そんな勇者と、その勇者を支えようと生れてきた親を、
 

身近に持つ、兄妹やクラスメイトもまたラッキーな運の元にあると言っていい。


 

 

なぜなら、彼らの生き様は、
 

どんな教科書にも載っていない、生きた教科書である。


 

それは普通の人生を超えた、ゲームで言えば、
 

一つ上の、次のステージで戦っている戦闘を見学させてもらっている様なものである。

 

 


私はいつも、彼らを診ると、
 

そんな感じを受けるのである。




 

 

 

 

 

 

最後に、



 

ある小学校の話を。




 

その学校のある低学年のクラスには、
 

2人のいじめっ子がいて、時々問題になっていました。
 

その男の子達は、女の子のスカートはめくる、
 

女の子のランドセルを隠して、困っている様子を見て笑うなど、
 

自分よりも弱い子をターゲットにしていました。


 

1人の子は、とても体格がよく太っていて、
 

とても小学生の低学年には見えない体をしていたので、
 

誰も、その子のいじめや悪ふざけをとがめる子はいませんでした。
 

もう1人のいじめっ子はメガネをかけて勉強は出来る子なのですが、
 

もう一人の太った子と一緒になると、すぐに悪ふざけをする子でした。



 


そんなクラスに、
 

女の子の転校生が入って来ました。


加奈ちゃんといいました。
 

彼女は事故で、右足が不自由で、杖を使って歩いていました。




 


やがて、弱い彼女がいじめのターゲットになるのに、
 

そう時間は経ちませんでした。




 


足が不自由な加奈ちゃんは、給食当番の時は、少ししか運べず、
 

行動もノロノロしていて、たちまちノロというあだ名が付きました。



 

 

体育の時間では、彼女がいる列は常に順番が遅くなり、
 

そんな時、2人の男の子達は、わざと彼女に聞こえる様につぶやきました。


 

「あ~あ。ビッコと同じ列かよ。

 

 みんなに迷惑なの知ってんのかなぁ。」






 


そんなある日、決定的な出来事が起きます。




 

あの男の子達が、加奈ちゃんの杖(つえ)を隠してしまったのです。


 


加奈ちゃんは泣いていました。

 

お母さんに買って貰った大事な杖だったといいます。





 


それを聞いた担任の女の先生は、急いで教室に行くと、


 

今までは、少し大目に見ていた男の子達のイタズラも、
 

今回ばかりは、許してはいけない大事な時と思い、

 

直ぐにクラス全員の子を集めました。








 


しかし、先生は杖を盗んだ犯人探しはしませんでした。
 

その代わり、こんな話をしたのです。





 


まず、太ったいじめっ子に声をかけて、

 

「今日も、アメちゃんと持って来た?」
 

すると、太ったいじめっ子は、「うん、持ってる。」

 

実はこの子は、幼稚園の時から1型糖尿病で、
 

常に、アメかブドウ糖を持ち歩いていました。
 

低血糖になった時にすぐにブドウ糖を補う為です。




 


「そう、もしそのアメが誰かに取られてたら、嫌でしょ。」
 

「う。う~ん。」


 

先生は、もう1人のいじめっ子にも言いました。
 

「誰かが、貴方のメガネを隠してしまったら、嫌でしょ。」
 

「はい。」

 


そして、先生は最後にこう言ったのです。




 

「ある人は、体が悪いから常に、アメやブドウ糖を持ち歩くの。
 

 そして、ある人は、目が悪いから、メガネを持ち歩くの。
 

 それは、加奈ちゃんの杖(つえ)と一緒なのよ
 

 加奈ちゃんは、足が悪いから、杖を持ち歩いているの。
 


 みんないい子だから、分かるよね。
 

 みんな同じなの。

 


 みんな、なにかしら、杖をもって生きているのよ

 


 誰か、加奈ちゃんの杖を見た人はいない?
 

 
 いたら、教えてくれない?」


 

 

すると、
 

太っちょが、静かに手をあげました

 

「裏庭の草むらに落ちているのを見ました。」


 


先生は言いました。
 

「ありがとう。助かるわ。」


 


その後、このクラスには、いじめが無くなったという。

 

 

END