●呪われた土地
私をひいきにしてくれている社長は、
不動産の仕事もしている。
たまに食事に誘ってくれ、不動産の事も色々話してくれるのはありがたいが、
私にとっては、余り不動産の話は興味が無いし、そんな金も無い。
社長いわく、今の不動産屋で生き残るのは、
ネットを駆使しているところと、
地主の為に色々考えて行動出来る不動産屋だそうだ。
とにかく、不動産屋にとっては、
自分に任せてくれる地主様の数によって、生きるか死ぬかが決まる。
私が知る限り、この社長はその点こまめに動く。
地主の葬儀には、必ず参列して香典を置いてくるし、
地主に霊現象が起きると、私に電話が来て相談に乗ってやってくれとなる。
また、毎年夏には地主を招待して、年寄達を温泉旅行に連れてっている。
たまにその旅行に同席を頼まれ、過去には、
温泉旅行占い付、などと言う迷惑な企画まで立てられた事もあった。
そんな社長さんから、また私に依頼が飛び込んできた。
いつもお世話になっている地主さんの親族の方で、
同じく沢山の土地を所有している人からの相談だという。
この話に、社長は大乗り気だった。
普段は同行しない社長だが、
今回ばかりは、私と一緒に現地に行くと言うのだ。
なにしろ、新規の大地主様と親しくなれるチャンスである。
依頼内容は、
彼が所有しているかなり大きな土地に、
飲食店様の居抜き物件があり、
この仲介をお願いしたいという。
皆さんは、居抜き物件とは、どんな物件かご存知でしょうか。
実は私も社長の下で働き始めて初めて知ったのですが、
例えば、ある人が、
イタリアンレストランを始めたとします。
ところが、うまくいかず1年後に倒産してしまいました。
普通はここで、そのレストランの建物を壊して、まっさらな土地にするのですが、
建物を壊すって、けっこうお金がかかるものです。
そこで、イタリアンレストランの建物を残したまま、
誰かに借りてもらおうという方法が、居抜き(いぬき)です。
こういう物件を居抜き物件といいます。
地主にとっては、建物を壊す費用が浮きます。
また借りる方は、建物を建てなくて済みますし、
もし同じ業種、例えばフレンチレストランを開こうとしている人なら、
前のイタリアンレストランの外装や内装を少し変えるだけで、
厨房施設やイスや机などをそのまま使えて、かなりお得です。
へたをすれば、明日にでも開店出来るというものです。
だから、余りお金を持っていない人は、
自分の夢にあった居抜き物件を探す場合が多いのです。
例えば、ラーメン屋を開きたい人は、
元ラーメン屋の居抜き物件を探すし、
美容院を開きたい人は、
美容院の居抜き物件を探すという具合です。
また、今注目されているものの1つに、
古民家を買い取り、そのまま民宿にしたり、飲食店にするというケースです。
これも一種の居抜きと言えましょう。
さて、私と社長は、さっそくその物件のある場所に向いました。
千葉県のほぼ中央に、
国道16号という車の往来の激しい道があります。
話では、その国道16号に面している店だと言うのです。
なるほど、ヘンピな土地にあるのならまだしも、
車の往来が激しい国道に面している土地なら最高の場所です。
社長が乗り気なのも分かる気がします。
てか、そんなにいい土地なら、私は必要無いのではと思いました。
車は千葉をまわって穴川にさしかかった頃、
私は社長と同席して車に乗った事を後悔しました。
なにしろ、社長はお気に入りの民謡しか聞かないのです。
車の中は、発車した時から今まで、
お気に入りの民謡ばかりが流れます。
それも同じ曲をオートリプレイ。
地獄だぁ。
滅多に車に酔わない私も、なんか気持ちが悪い。
早く現地に着け!
早く現地に着け!
帰りは絶対、電車だぁ・・。
そんなご機嫌な社長は、
今回の取引がうまく行けば、専属にしてくれるそうだ。
と私にどうでもいい事を話します。
ちなみに、専属とは、専属専任媒介契約の事です。
みなさんは、家か土地をお持ちでしょうか。
もし、お持ちなら、将来売るかもしれませんね。
その時の為に覚えておくと、いいです。
貴方が不動産を売る時、
当然、どこかの不動産屋に頼む訳ですが、
その時に、不動産屋と契約を結んでから、
不動産屋は貴方の不動産を売る行動に移ります。
つまり、
貴方は土地が売れるはるか前に、まず不動産屋さんと契約するのです。
なぜなら、そうしないと、
不動産屋さんが頑張って買い手を探したら、もう売れてますよ。なんて言われたら、
ただ働きのくたびれ儲けですよね。
そこで不動産屋は、売る行動に出る前に貴方と契約書を交わす訳です。
実はこの時、その契約書には3種類あるのです。
下心ありありの不動産屋で、貴方が何も知らないと感じれば、
契約書は1つしか出さないでしょう。
でも実際は3種類あるのです。
それは、
■一般媒介契約
■専任媒介契約
■専属専任媒介契約
の3つです。
■一般媒介契約は、
貴方は沢山の不動産屋にお願いする事が出来ます。
■専任媒介契約は、
目の前にいるその不動産屋にしかお願い出来ません。
■専属専任媒介契約
目の前にいるその不動産屋にしかお願い出来ません。
しかも、貴方が家族や友達に売っても、
目の前にいる不動産屋に既定の手数料を払わなければなりません。
ただし、いずれの契約も貴方が更新しなければ3ヶ月で切れます。
当然、不動産屋は最後の■専属専任媒介契約にしてもらいたいと思いますよね。
この■専属専任媒介契約を略して、専属と言った訳です。
でも、場合によっては、
■専属専任媒介契約にした方がいい時もあります。
例えば、早く売りたいという時は、
不動産屋にとっても専属専任媒介契約の方がやる気が出ますし、
3ヶ月間、大きな広告を出して宣伝出来ます。
ただ、やる気の無い不動産屋とこの契約を結んでしまうと、
3ヶ月間ほっとかれ、かといって他の不動産屋にも頼めないという状況に。
だから、もし貴方が持っている物件が、
希少な物件だったり、人気のある場所なら、
■一般媒介契約にして、沢山の不動産屋に声をかける方がいいのです。
すみません、話がだいぶ脱線してしまいました。
要は、これから行く物件がまとまると、大変嬉しいという、
社長にとってのエサがだいぶ、ぶる下がっているという事です。
ただ、
美味しいエサが沢山ある所には、
危険な物が潜んでいる事が多いのです。
何だか心配になってきた私は、
社長に聞いてみました。
「今回、どうして私を?」
すると、社長は民謡を聞きながら、
「なんかその土地ねぇ、
呪われた土地らしいんだよ・・・・」
マジか!
車の中に流れる民謡が、地獄の歌に聞こえて来た。
後半は、明日のブログに続く。