●もう1つの「家族






 


このお話は、一昨日のブログ(●カブトムシの幽霊)の続きです。


 

従って、一昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-12099585189.html



 


を先にお読みください。


そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ



これは私が手掛けた相談で唯一、昆虫の幽霊が出たという相談でした。

なんと、カブトムシやクワガタの幽霊が出るというのです。

その家は加藤さんと言って大宮の実家の近くに住んでいる、

昔からの大地主の方だそうで学校にも時々寄付を頂いている、力のある方なので、

小さな相談とはいえ無下に出来ないとの事でした。その家の6歳になる男の子が、

ある日、2階の子供部屋にカブトムシがいると言い出したのが発端でした。

母親が急いで子供部屋に行くと、窓は閉まっています。

「どこにカブトムシがいるの?」と聞くと「そこだよ!」と壁の方を指差します。

でも、そこはただ白い壁があるだけで、カブトムシは見えませんでした。

「どこにもいないじゃないの!」と言うと、

「あっ、今、カナブンも来たよ。」と言うではありませんか。

息子は真剣そのもので、壁の方を見ているのです。

今まで息子は嘘をついた事も無く、冗談で人を驚かす様な子でも無いといいます。

そしてしばらくすると、「あっ、消えた!」と言うのです。

それは1回や2回ではなく、そんな事が20回はあるといいます。

カブトムシが多いのですが、時にはクワガタがいると言ったりするそうです。

ただ不思議な事に息子が指差すのは、決まって、2階の子供部屋の窓際の壁と、

1階の居間の窓際の壁だというのです。

カブトムシの幽霊は、その2ヵ所だけに現われるのだというのです。

私が電話の中で、まず彼に聞いたのが、「息子さんの言う事が本当だとして、

 また、カブトムシの幽霊がいるとしてだけど、

 その息子さんって、昆虫採集なんかで、 沢山カブトムシやクワガタを殺した事ある?」

すると、その6歳の息子さんは、昆虫採集はした事が無いという。

ただ、お母さんには気になる事が2つあるのだという。

それは、息子さんは昆虫採集をした事が無いのだが、

お祖父さんは、かなり昆虫採集に凝っていたらしいのだ。

カブトムシを沢山捕っては、昆虫の標本にしていて、

昔はカブトムシだけ雄雌20匹の標本が家に飾られていた時もあったという。

もちろん、クワガタもカナブンも沢山標本にされて飾られていたという。

その怨みが、孫に来ているのではないかというのだ。

もう1気になるのは、現在、お祖母様が自宅で病気療養中だそうなのだが、

時期的に、息子さんがカブトムシの幽霊を見始めたのは、

お祖母様が病気になってしばらくしてからだという。何かそれに関係しているのか。

この家に悪い事が起きはじめているのではないか。

そんな心配もあって、誰かに相談したかったのだという。

お祖母さんの病気と共に現れる様になったカブトムシの幽霊。

それは、彼女が心配している様に、この家の悪夢の始まりなのか。

そもそも、この世に、カブトムシの幽霊など、いるのだろうか。

2ヵ所だけに現われるというカブトムシの幽霊。なぜ、そこだけに・・・

そして、なぜ、カブトムシの幽霊がこの家に出るのだろうか。

その子に会ってみたい。そして、自分で現場をみてみよう。

私は、大宮に行ってみる事にした。

時間があったので、バスを乗り継いで、そこからは歩いてみた。

私は地図さえあれば、どんな所にでも行ける。

そんな訳で、加藤さんの家も、ほぼ迷わず一直線に、見つける事が出来た。

門のベルを鳴らさず、しばらく外から加藤さんの家を眺めて見た。

大きい庭である。ただ、何となくだが、寂しさを感じる庭である。

家は2階建てのがっちりという感じの家で、全室に朝日を浴びる建て方となっている。

ベルを鳴らすと、さっそく奥さんが出迎えてくれた。

「お邪魔します。」居間に通され、待っていると、

電話で予めお願いしていた、息子さんが2階から足音を立てて降りてきた。

私はこの家で、最初にカブトムシの幽霊が出たという、

子供部屋に、まず案内してもらう事にした。

2階への階段を上がり、最初に訪れる部屋が、問題の子供部屋だった。

息子さんが、ドアを開けてくれた。すでにカーテンが全開に開けられて、

部屋の中に朝日が差し込んでいる。そして、窓の外に小さいバルコニーがあり、

その先に、先ほど見て来た大きな庭がある。

さっそく息子さんに、「カブトムシはどこに居たの?」と聞いてみた。

すると、窓際の白い壁を指差して、「そこ」と教えてくれた。

私は指のさされた壁付近に近寄ってみた。普通の白い壁にしか見えない。

私の方に駆け寄ってきて、「ここだよ。」と教えてくれた。

その子が、教えてくれた壁の場所は、私のオヘソ辺りの高さなのである。

この低いという高さが、何か関係あるのかもしれないと思った。

しいて、例えるなら、もしそこにカブトムシが出たのなら、

その息子さんが、手を伸ばして取れる位置という事になる。

カブトムシの幽霊が出るというもう1ヵ所が居間なのだが、

その居間でカブトムシが現れる場所も同じくらいの低い高さの窓際の壁なのである。

両方とも、カブトムシが出るのは、低い壁なのだ。

「なんか、捕れそうな所に出たんだね。」とその子に言うと、

「捕ろうとしたら、捕れなかった。」と言うのだ。

なんと、この子はカブトムシの幽霊を捕ろうとしたというのだ。

聞くと、何度も手を伸ばして捕ろうとしたけど捕れなかったのだという。

なんと、低いという高さの他に、もう1つ、

カブトムシが現れる場所に共通点があったのである。

それは、現れる壁の位置が同じなのである。つまり、居間に現われる窓際の壁を、

一直線上に上がっていくと、子供部屋に現われた窓際の壁の位置と重なるのだ。

「いきなりカブトムシが現れたの?」すると、違うという。

最初は、壁がドロドロしてきて、色が変わり、しばらくしてから、

カブトムシやらカナブンやらクワガタが、そこにやって来るのだというのだ。

つまり、カブトムシが来る前に、まず壁が変化するというのである。

そういえば、お母様は、もう1気になる点として、

現在、お祖母様が自宅で病気療養中だそうなのだが、

時期的に、息子さんがカブトムシの幽霊を見始めたのは、



お祖母様が病気になってしばらくしてからだと言っていた。

そこで、お祖母様にもよかったら話を聞かせてもらいたいとお願いした。

お祖母様は、居間の隣の畳の部屋で病気療養中だった。

その部屋も日当たりが良くカーテンを開けると広い庭が一望出来る良い部屋だった。

病人は、緑が見えて、日光が射す部屋の方が病が治りやすい。

ここはその点でも、とても良い部屋ですね。っと、私がそうお祖母様に言うと、

お祖母様は、それに対して、一言いったのだが、私はその言葉に、耳を疑った。

それこそがこの家にカブトムシの幽霊が出た元凶だったのだと感じたのである。

なんと、お祖母様が病気になったのと、

息子さんがカブトムシの幽霊を見たのには、密接な関係があったのだ!

























 

 

 

 

 


私も長期入院した事があるので、よく分かるのだが、

病院には、大部屋というのがある、

私が入院した時は6人部屋だったが、

どの場所も同じと思うかもしれないが、

実は、緑の風景が見えて、太陽が射す窓際が、

一番病気が治りやすい場所である。

挟まれた真ん中が、両側に気を使ってしまい一番良く無い。

まぁ。人体に及ぶ影響はさほどではないので、

5日位の入院なら、関係無いだろうが、

何ヶ月もの入院となると、塵も積もればとなる。





 

 

そしてそれは自宅療養の場合も同じである。

窓から緑が見え、太陽が射す部屋で療養している人の方が、

窓が無い部屋で療養している病人よりも、早く治るはずである。







それで、私がお祖母様に、

「緑が見えて、日光が射す部屋で良い部屋ですね。」と言ったのである。






すると、お祖母様は、

「少し前までは、この部屋には太陽の光がまったく入らなかったんですよ。

 でも、息子が太陽が入らない部屋での自宅療養は、良く無いと言って、

 私が自宅に戻ってくるまでに、庭にあった木を切ってくれて

 太陽が射す部屋にしてくれたんです。」





なんと、この部屋に太陽の光が射す様に、

庭にあった木を切ったというのだ






なんか嫌な予感がした。









そこで、庭の木を切る前の写真があるというので、

見せてもらうと、結構な大木である。

幹も結構太く、樹齢50年と言ってもいいかもしれない。







それが今は、庭に行くと、切株しか残っていなかった。

切株もかなり大きい切株で、やはり樹齢50年くらいはいっていそうだ。



「これは何の木ですか?」

クヌギです。」と奥さん。


「樹齢はどのくらいのものか分かりますか?」


「樹齢?」

「木の年齢です。切ったクヌギの木はどのくらい前に植えたものか分かりますか?」


しかし、奥さんは分からないという。





 


そこで、再びお祖母様の所へ行き、同じ質問をした。



すると、お祖母さんは、

あのクヌギの木は、曾祖父が孫の為に森から取って来て植えたものです。

だから、100年位はしていると思います。というのだ。



一般の家の庭の木で、100年を超えているというのは、すごい。






木には精霊が宿っている。


そして100年など長く生きていている木には、

特別な精霊が宿っていて、勝手に切ったりすると、

霊障が起きたり、その家が滅んだり、災難がおとずれたりするのである。






「その木を切る時に、何かお祓いとか

 お礼とか、謝ったりしましたか?」と聞くと、



「何もしなかった様です。」とお祖母さんと奥さん。





聞くと、地元の業者さんに頼んで切ってもらったというので、

業者さんによっては、木を切る前に手を合わせて切る業者もいる。

しかし、残念ながら、樹齢100年級の木となると、

その場限りで手を合わせた位では、とても十分とは言えないのである。






本来なら、その木を切る2週間前から、

今まで家を守ってくれて、どうもありがとう。とお礼をいい、

根元に半分に薄めたお酒をかけ、

こういう理由で、切らなければならなくなりました。と理由をいい、

どうか許してください。とお願いしなければならない。





そして切る日は、木の根元に半分に折ったお線香を灯し、

ごめんなさい。と家族全員で謝る。


そして、可能なら、切った木片を何かの棚にするなどして有効活用して、

時々思い出してあげる事である。









私は、これがカブトムシの幽霊の原因だったのだと感じた。








私も昔は、森に行ってカブトムシを捕りに行った事がある。

みんな森に入ると、まずクヌギの木を探すのである。

クヌギの木は、毎年昆虫が好きな樹液を出すので、

特に幹に傷がついて蜜が出ているクヌギの木には、

沢山のカブトムシやクワガタが集まってくるのである。

だから、クヌギを見つけると、ワザと傷をつけたり、

よくカブトムシが捕れる木を、みんな秘密の場所として、

仲間以外の人には教えなかったものである。








お祖母さんの話に寄ると、

ここから森に行くまでには、昔は川があったり、マムシが出たりして、

危険だったので、曾祖父がカブトムシが好きな孫の為に、

森からいいクヌギの木を採ってきて、庭に植えたのだそうだ。

そして、夜はライトを照らし、クヌギの木に飛んできたカブトムシを、

毎年孫は喜んで捕っているのを、曾祖父は笑顔で見ていたという。







そんなクヌギの木を、曾祖父は大事し、

クヌギの木も、そんなこの家の家族を温かく見守り、楽しませてきたのである。









動物もそうだが、

木も長い間一緒に暮らしていると

まるで自分がこの家の家族の一員の様に思ってくるのである。

大きな木は、台風が来た時は、

オレがこの家を強風や豪雨から守ってやるんだと頑張っていたり、

暑い日は、家族が暑くならない様にいい加減に日陰になるようにしたりして、

100年もの間、この家族を見守ってきたのだ。





自分も家族の一員かのように

 

そんな木を、何の前触れもなく切ってはいけない。





 

では、今回の様に切ってしまった場合は、どうしたらいいか。





私が加藤さんにアドバイスしたのは、

まず、切る前にするべきだった事を、残った切株にする事。




しかし、それだけでは不十分だろう。

霊障も起きている事だし・・・・





そこで、加藤さんにクヌギの小さい苗木を切株の側に1本植えてもらう事にした。

これは命の継承という方法である。


切られた木の怒りの精霊を、新しい命を育てるという方向に誘導するのである。

どうか許して下さい。

そしてこのクヌギとなって生まれ変わって下さい。と。








 

それから直ぐに、加藤さんはご主人と共に、みんなで全ての事を実行した。





すると、息子さんはそれ以後、カブトムシの幽霊は見なくなったという。










きっと、あのカブトムシやクワガタは、

100年生きたクヌギの精霊が見せた幻覚だったのだろう。



そして後から図面を見て分かった事だそうが、



カブトムシが現れた壁の中には、

一階の居間から2階の子供部屋まで、1本の木の通し柱があるそうである。

推測だが、その通し柱をクヌギの木の精霊が何かしらして使ったのかもしれない。













 

最後に、

1つだけ疑問が残った。




 

それは、樹齢100年も生きた木を切ると、

死者が出たり、かなりの災いが起きる事が多いのだ。



木を切った直後に家に来た病気のお祖母さんなんか、



一番体が弱いので、命を失ってもおかしくない状況である。





それなのに、



なぜ、この家では、カブトムシの幻覚が見える程度だったのだろうか。









逆に子供が、カブトムシの幻覚を見て喜ぶかもしれないくらいだ。









 

 

しかし、その疑問もお祖母さんの言葉を聞いて、

ある程度納得出来た。









病気療養中のお祖母さんは、最後にこんな事を言っていたのである。










毎朝、彼女は起きると、カーテンを開け、

庭の切株に向かって、こう言っているという。







「私の為に切られてしまって、ごめんなさいね。

 今までありがとうね。クヌ美ちゃん。」







彼女はこの家に嫁に来た時から、庭にそびえ立つ、

そのクヌギの木を、クヌ美ちゃんと愛情を込めて呼んでいたという。








 

 

そう、

この家で、たった一人だけ、



 










 

 

 


あのクヌギの木を、




家族の様に扱っていた人がいたのである。


「今までありがとう。クヌ美ちゃん。」

END