●気になった地下室
このお話は、昨日のブログ(●ルームメイトはゴルゴ13)の続きです。
従って、昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-12089754827.html)
を先にお読みください。
そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ]
これは私がアメリカに留学してしている時の話である。
当時、私は単身アメリカに留学していたので、大学の寮で生活していました。
2年目のルームメイトは、背が高くがっしりしたタイ人がルームメイトとしてやって来ました。
知り合ってみると、けっこういい奴でした。大学4年生で、勉強もかなり出来た人でした。
意外だったのは、彼は普通の学生ではなく、タイの軍人さんだというのです。
だから、タイに帰国したらお国の為に軍隊で働くのだと言っていました。
国ではライフルも撃った事があるのだといいます。
そんな彼には叔父が居て、ここシアトルで暮らしていたので、
彼を頼って、この大学に留学して来た様でした。
彼とは1年も一緒に暮らしていながら、大した思い出は無いのですが、
一度だけ、彼の役に立った事がありました。
ある日の事、彼は普段から余り驚いたりはしないのですが、
電話で話している彼は、明らかに動揺している感じでした。
彼は私に一言いって、直ぐに叔父さんの家に飛んで行きました。
「叔父さんの娘さんが、誘拐されたみたいだ!」
アメリカでは、皆さんが思っている以上に誘拐などが多い。
1年間に行方不明になる18歳未満の子供は、なんと80万人だという。
その内、最も多いのが、離婚した親による子供の奪い合いで、
年間20万人の子供が一方の血縁者によって誘拐されている。
それでも年間60万人の子供が、何らかの事件に巻き込まれている可能性があるのだ。
その日は、ルームメイトは帰宅しなかった。
悲しみに暮れる叔父家族の側にいてあげたのだろう。
彼が寮に戻って来たのは、3日後だった。
依然として娘さんは行方不明なのだが、
1つだけ明るいニュースがあった。
それは、その後警察が調べた結果。
娘さんの友達の証言から、娘さんは誘拐されたのではなく、
家出した事が、有力となったのだ。
叔父さんの家にも、この数日身代金などの電話も無かった事から、
警察も撤退していた。
誘拐では無かったという事は、叔父家族にとっては、
ひと安心な事態ではあったが、
それは同時に、1つの大きな疑問でもあった。
普段はおとなしく良い子だった娘が、なぜ家出を・・・・
今までそんな家出などした事が無い娘が、なぜ?
娘の部屋をくまなく探したが、置手紙らしいものは出てこなかった。
娘の友人に聞いても、
学校でいじめられている様子も無く、
学校が嫌だという話も出てこなかった。
ただ友人には、「逃げ出したい!」と言い残して駅に向かったという。
娘は何から逃げ出したかったのだろうか。
家に居るのが窮屈になったのだろうか。
だとしたら、家族の接し方が悪かったのだろうか。
家出という状況が、逆に家族を責め続けていたという。
それから1ヵ月の月日が過ぎたが、
娘さんは依然行方不明のままだった。
その頃からルームメイトのタイ人も、週末は叔父の家に泊まっていた。
そんなある時、
彼は自分のルームメイト(私)が、占いをやっていると叔父に話したそうである。
すると、八方手をつくしても娘の行方をつかめなかった叔父さんは、
ワラをも掴みたかったのだろう。
私に一度会ってみたい言ったという。
しかし、私は断った。
実は占い師にも、得意不得意があるのだ。
私の場合、人探しや物探しは不得意分野なのだ。
それでも食事だけでもいいからと、
彼に押し切られて、この週末、
彼と一緒に叔父さんの家に行く事になってしまった。
シアトルを南下すると、ケント(Kent)という町がある。
叔父さん一家は、そこで暮らしていた。
私が彼の叔父さんの家を訪れた時は、
もう娘さんが行方不明となってから1ヵ月半が経とうとしていた。
はたして、人探しが不得意な私に、
どれだけの事が出来るか分からないが、
意を決して叔父さんの家に入った。
さっそく叔父さんと軽い挨拶を交わした後、
行方不明となっている娘さんの部屋に案内してもらった。
高校生だといういなくなった娘さんの写真を見せてもらったが、
極普通の娘さんである。髪が長く、目の大きい黒髪の女の子だった。
一応、娘さんの全ての写真を見せてもらえる様に頼んだ。
個人のアルバムから、学校の卒業アルバムまで全部出してもらった。
そして、私がまず最初に調べたかったのは彼女のパソコンである。
家出の場合、携帯やパソコンにその前兆や動機など、
家出の痕跡が残されている場合が多いのである。
また、家出後に行きたい場所を検索するなどする事が多いのである。
家出の場合、警察はそこまで調べてくれないだろうし、
家族もそこまで気がつかない場合が多い。
現在はパソコンにもロック機能があるが、当時のパソコンは、
電源をオンにさせると、すぐに見れるものだった。
しかし、特に不審になるようなものは無かった。
誰か見知らぬ人と、メールのやり取りをしていたとか、
行きたい場所を検索した様なものも無かった。
年頃の女の子の家出の原因で多いのは、異性関係である。
そこで彼女の日記や写真、パソコンなのを調べた。
ルームメイトには、日記をくまなく調べてもらい、
私はパソコンと写真類を調べたのだが、
それらしい男の影は無かったのである。
他にも、叔父さんに色々質問したのだが、
娘さんが家出する兆候が見当たらないのである。
通常、覚悟の家出をする場合、
自然とその兆候が表れる場合が多い。
例えば、
■急に親と会話をしなくなる。避ける。
■学校を無断欠席する事がある。行きたくないと言う。
■独り言を言う事がある。
■自室から余り出なくなる。
などであるが、
叔父さんは、娘にはそのどれにも当てはまらないというのだ。
残された彼女の写真の中で、一番新しいものは、
行方不明になる一週間前に撮られた、17歳の誕生日の写真だった。
それ以前の写真と比べたのだが、特に変化は無い。
暗い感じも受けなかった。
つまり、私が調べる限り、
彼女は突然、思い立った様にいなくなったのである。
結局、最初に思っていた通り、
週末を費やして調べてみたのだが、
私は何の役にも立てず、彼の叔父さんの家を後にした。
ただ、一つだけ、滞在中に気になる事があった。
それは、叔父さんの家に居る時に、
地下室も見せてもらったのだが、
地下に通じる階段を降りている時から、
何かゾッとするものを感じたのである。
しかし、その地下室には娘さんの物はほとんどなく、
あるのは叔父さん趣味の道具や、奥さんの父親の遺品などであった。
私の専門は、どちらかというと写真なので、
一応、地下室にあった写真だけ見せてもらった。
いずれも古い写真だったので、娘さんの手がかりになる様な物は無かった。
でも、何か地下室が気になった事は確かである。
それに、叔父さんは地下室もどんどん調べて下さいという感じだったの対して、
叔父さんの奥さんは、常に迷惑そうな素振りで、
そんな他人に地下室まで見てもらいたくないという雰囲気がプンプンしていたのである。
それも何となく気になった。
私達はダウンタウンでバスを乗り継ぎ、
学生寮に戻った時は、ギリギリキャンティーンの夕食時間に間に合う時間だった。
彼とは約半年一緒に暮らしているが、
キャンティーン(食堂)で一緒に食べたのは、この時が初めてだった。
食事をしながらも、話の話題はもっぱら娘さんの事だった。
実は彼も、私が地下室が気になっていた事を分かっていたみたいで、
「地下室で何か感じた?」と、逆に聞いてきたのである。
私が、「うん、ちょっとね。」と答えて、
何か言おうとしたその瞬間である。
彼が、「ちょっと待って!」と言って、
「ここじゃまずいから、部屋で・・」と言ったのである。
ここじゃまずいとは、いったいどういう事だろう。
不思議に思いながらも、私達は部屋に戻った。
やがて、彼から恐ろしい事実を聞かされるとも知らずに・・・
最終話は、明日のブログに続く。