●ケンタッキー州の女の子
このお話は、一昨日のブログ(●人形離れしない娘)の続きです。
従って、一昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-12084295153.html)
を先にお読みください。
そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ]
小学生になる娘さんが、なかなか人形離れ出来ないで困っているというのである。
彼女のご主人は、貿易の仕事をなさっていて、
ヨーロッパをはじめ、東南アジア、北米を行き来しており、
毎月どこかの国に出張なさっているという。
そんなご主人は、アンティークの人形を集める趣味があるという。
だから家には、約20体を超えるアンティーク人形が飾られているそうである。
20体と言うと少ない様にみえるが、より良い人形が手に入ると、
前の人形はオークションで売ってしまい、良い人形と入れ替えるのだという。
問題の兆候は、約1年前に起きたという。ご主人が、アメリカ出張から戻った時、
また1つ、アンティーク人形を買ってきたのである。
ご主人は出張の疲れも忘れた様に、帰宅するとさっそく
買ってきたアンティーク人形を旅行カバンから出して眺めた。
すると、もう寝ていたはずの娘さんが起きて来たという。「お父さん、お帰りなさい。」
そして、しばらくご主人が眺めていた人形を遠目に見ていたのだが、
段々と近づいて来て、そっとその人形に触ったという。「抱いてもいい?」
今までは、ご主人が人形を買って来ても、
まったく興味を示さなかった娘が、初めて人形に興味を持ったという。
ご主人も自分の趣味が初めて娘に認められた様な気がして、
「ああ、いいよ。」と人形を娘に渡した。娘さんは人形を受け取ると、
まるで赤ちゃんを扱う様にして、両手で大事に持ち、
頭を撫でてから、抱きしめたという。
しばらくして、ご主人が、「もういいだろう。」と言うと、
娘さんは、「もうちょっと。」と言ってなかなか離さないという。
20分も経った頃だろうか、ご主人が、お父さんにも見せてと言って、
人形をとりあげようとすると、
急に娘さんが、「これミクに、ちょうだい。」と言い出したのである。
こんなに娘がご主人の人形に興味を示したのは初めてだった。しかも欲しいという。
そこで、ご主人はこの人形と入れ替えるはずだった前に買った同じ種類の人形を、
飾ってあるケースから出して来て、
娘に「はい。じゃあ、これをミクにあげようね。」と言って差し出した。
しかし、娘さんは、「こっちの方がいい。」と言って買ってきた人形を離さない。
同じ種類の人形で大きさもほぼ同じ、
若干今回買ってきた人形の方が古い時代に作られたもので、
人形を作ったメーカーが違うという物だったという。
価値としては、今回買ってきた方が、今まで飾ってあった人形よりも高い人形だった。
ご主人もやっと探して来た人形だけに前の物ならあげられるが、こっちは勘弁して欲しいと、
奥さんにも頼み、娘を説得してもらったが、
それでも娘さんは、頑として新しく買ってきた人形がいいと、泣きだしたという。
これはに2人とも困ってしまい、とりあえずその夜は娘さんに人形を預ける事にした。
明日娘が幼稚園に行っている間にでも、古い人形と取り換えようと夫妻は話したという。
ところが、娘さんは翌日から人形を持って、幼稚園に行く様になったのだ。
それは幼稚園だけではなかったという。食事の時も隣に人形を置き、
お母さんと買い物に行く時も、その人形と一緒。
寝る時も一緒なら、トイレに行く時も一緒なのだと言う。
人形を取り換える時が無いという事で、ある日娘さんが寝ている時に、こっそり入って、
人形を取ろうとしたのだが、娘さんがギュっと人形を抱きしめていたという。
そこで手を解いて、人形を何とか取って前の人形と取り換えた。
ところが、翌日娘さんが怒って起きて来て、
直ぐにケースから買ってきた方の人形を取り出して、部屋に閉じこもってしまったという。
奥さんは、もうしないからと、何とかなだめた。
しかし、娘さんの機嫌が治るまで、3時間もかかったという。
ご主人も、いつか飽きるだろうと思っていたのだが、
その状態が1年続いても変わらなかった。娘さんはいつでも人形を離さなかったのである。
やがて、深刻な問題が浮上した。娘さんが小学生になったのである。
小学生になると、さすがに学校に人形を持って登校するクラスメイトはいなかった。
やがて先生から電話があったという。
奥さん達も、学校の周りのみんなが人形など持って登校しないと分かれば、
娘も恥ずかしがって、持っていくのを止めるだろうと、安易に考えていたという。
しかし、娘さんは周りの目などまったく気にしない様で、
先生に注意されても学校に人形を持っていくのを止めなかった。
その時から、お母さんは児童相談所など色々な所に相談に行ったという。
人形を可愛がるのはいい。でも四六時中一緒というのは幾らなんでもおかしい。
娘はどうなってしまうのか。
私も、奥さんの話を聞いていて、何点かおかしいなという感じた所はあったのだが、
実は奥さん、もう1つ、私に相談してきた理由を話してくれた。
それは、テレビで見たのだというが、
テレビに同じような人形が出ていて、思わず恐怖に慄いたという。
同じ人形だったからである。その人形の名は、「アナベル」。
このアナベルという人形は、アメリカ製の布製の可愛い抱き人形で、
ラガディアン人形と呼ばれているものである。
しかし、アナベルは、実際にアメリカで起きた霊現象で、
史上最も恐ろしい人形と言われているものです。
そして、今回の依頼者の娘さんが持っている人形も、
このアナベル人形と同じラガディアン人形だというのである。
彼女から詳しい話を聞いて、私がこれは少しおかしいと思ったのは、
■まず、彼女の娘さんは、
今回の人形に固執する以前は、人形にはまったく興味をもっていなかった点である。
それが、この人形が家に来てから、急に人形にはまるというのも不思議な話である。
つまり、以前から彼女の家には人形が20体もあるのに、興味を持っていない娘が、
この人形が家に来た途端に変わるというのが解せない。
■次に、まったく同じラガディアン人形があるのに、
両親に逆らっても、新しく来たラガディアン人形に固執するというのも異常である。
■そして、最後はやはり他人の目をまったく気にせず、人形を学校に持っていくという点である。
以上の点から、やはりご主人が買ってきたラガディアン人形には、
以前の持ち主などの念か魂が入っていると思った。
最悪の場合、アナベル人形の様にタチの悪い悪霊が憑いている可能性もある。
なぜなら、下記の共通点があるからである。
■ラガディアン人形という抱き人形である事。
■アンティークショップから買った中古の人形である。
■アメリカ本土から買ってきた物である。
■少女が人形に好かれ、憑りつかれているかもしれない状況。
神社に人形を持っていくと、娘は死ぬと言い出したそうである。
完全に娘さんの心を、人形が支配している感がある。
決定打と思われた、人形供養が封じられている!
もう有効な手段が思いつかなかった。
何しろ、依頼者のご自宅を聞くと、長崎だという。
とても尋ねて行ける距離ではない。
私は現物を見る事も出来ないし、人形供養も出来ない。
おまけに、人形を買ったのが外国なので、
その人形にどんな悲惨な過去や因縁があったかも知る事が出来ない。
電話相談の限界だ。どうする?
私はしばらく考えていたが、
正直どうしたらいいのか、まったく分からなかった。
そして、電話をしてくる相談者からの情報も、
もうこれ以上期待出来なかったので、
残念ながら、
私は電話を切った。
ただし彼女に、こう言っておいた。
娘さんに、人形の事をなるべく詳しく聞いて下さい。
そして、娘さんが人形に話しかける会話をメモしておいて、
娘さんが、どんな事を人形に話しかけているのか教えてください。
奥さんは、娘さんが常に人形を手放さない事に気味が悪く、
今まで娘さんに人形の事を聞く事は無かったという。
それから2週間位経った頃だろうか。
彼女から再び電話来た。
娘さんから聞き出せた事は、次の通りだったという。
■人形の名前は、エミリー。
■3歳の女の子で、両親はどこかに行ってしまい帰ってこないという。
■時々寒い、寒いと言うので、抱いてあげるのだという。
いずれの事も、夢の中で教えてくれた事だと娘さんは言ったという。
娘さんが人形に話しかける内容は、
■おはよう、エミリー
おやすみ、エミリー
行くわよ、エイミー
等の普段の挨拶。
■じゃあ、一緒に行きましょう。
これから、一緒に食べましょうね。
一緒に出掛けましょうね。
等の何かの行動を起こす前の声掛け。
この2つのパターンが多いそうだが、
ただ1つ、娘がお風呂に入る時だけ、
他の時の会話と少し違っているという。
娘がお風呂に入る時は、さすがに濡れるので、
人形は脱衣所に置いて入るのだというが、
その時の会話は、
■あと5分で出るから。
私はここにいるからね。
貴方を捨てたんじゃないから。
すぐ戻るから。
等、他の時とちょっと違う感じの会話をするという。
聞いてみるものである。
かなりの情報を得る事が出来た。
まず、夢の中でとはいえ、
人形が自分の名前を教えたというのは、少し安心した感がある。
絶対とは言えないが、
昔から悪魔は、自分の名前を教えたがらない傾向があるので、
まぁウソの名前かもしれないが、良い傾向である。
少なくとも、アナベル人形の中にいた悪魔はいないかもしれない。
また下記の事から分かるのは、
■3歳の女の子で、両親はどこかに行ってしまい帰ってこないという。
■時々寒い、寒いと言うので、抱いてあげるのだという。
前の持ち主は、多分3歳で亡くなったのだろう。
凍え死んだのかもしれない。
あと、風呂場での会話がやはり一番気になる点だ。
多分、唯一彼女と人形がお互い見えない距離にある時間なのだろう。
娘さんは、人形に、さかんに安心感を与える言葉をなげかけている。
「ちなみに、ご主人はこの人形をどこで買われたと言っていましたか?」
「アメリカです。」
「アメリカのどこですか?」
「ケンタッキー州です。」
日本でケンタッキーと言えば、フライドチキンしか思い浮かばないが、
アメリカにはケンタッキーという州がある。
確かニューヨークの斜め下辺りにある州である。
アメリカには全部で50の州があるが、
その中でも5本の指に入る、貧しい州と言われている。
その事を考えると、
この人形の持ち主の3歳の女の子は、
育てられなくて、両親に捨てられたのかもしれない。
思えば、娘さんが常に人形を持ち歩くというのは、
確かに異常な行動で、困ってしまう。
だが、人形を買ってから1年以上も、
それ以外の災難や病気や怪我。事故などは起きていないという。
もしかしたら、そんなに悪い人形では無いのかもしれない。
3歳の女の子が考える事。
それはもしかしたら、
ただ親からの愛情が欲しいだけかもしれない。
そんな感じがしてきた。
私は彼女に、こうアドバイスした。
今日から、家族みんなで、
その人形に、優しい愛情のこもった声をかけてあげてください。
その日から、
娘さんだけでなく、
お母さんも、ご主人も、4歳上のお姉さんも、
みんなで、人形に優しく接する様になったという。
お母さんは、料理が出来ると、
「エミリーも食べる?」と小さな皿に少しあげ、
お姉さんも、
「エミリー、一緒にテレビ見る?」と声をかけたり、
お父さんも、
「エミリー、今日は珍しいお菓子を買ってきたよ。」
と人形の前にお土産を置くという風に、
家族全員で、エミリーを愛してあげたという。
やがて、2週間もすると、変化が現れたという。
娘が人形を、学校に持っていかなくなったのだ。
多分、家族の愛情が人形にも伝わったのだろう。
その頃から、声掛けと同時に、
時々、暖かいミルクとお線香を3本焚き、
「エミリー、どうか成仏して、
今度生まれ変わる時は、幸せになってね。」という文言を、
追加して言ってあげるようにアドバイスした。
きっとエミリーの霊は、少しずつ成仏の道を歩み始め、
段々と、普通の人形になっていくはずである。
「来世は、両親に捨てられない、
幸せな子になるんだよ。」
END