●卒業祝いの腕時計
占い師にも、得意不得意がある。
私の場合、人探しや物探しは不得意である。
人探しや物探しが得意な人は、地図を使う事が出来る。
地図の上に手をかざす事によって、パワーの強弱を読み取る事が出来る人が多い。
特別な地図を使っている訳では無い。
要はその占い師についている守護霊や先祖霊が、
地図を読み取る力がある守護霊かどうかである。
生前、方向音痴だった人や、地図を読み取れない人だった方が亡くなった場合、
その人が守護霊となっても、地図で人を探す能力も持てない。
そんな私にも、占い師の仕事をしていれば、
どうしても人探し、犬探し、探し物の依頼が時々来る。
大抵の場合、不得意な分野なのでとお断りするのだが、
ある時、こんな探し物の相談があった。
その方はOLの方だったのだが、
生前父親から買ってもらったという、
卒業祝いの腕時計をとても大切にしていたという。
その時計を贈られた時には、もう父親は病床にあり、
その後亡くなったのだが、
いつもその時計を見ると、
父親が一緒にいてくれると思って勇気づけられたという。
だから父が亡くなって10年、ずっと会社にも毎日つけていった。
ところが、2週間前、
右腕にはめているはずの形見の時計が無いのである。
家に帰って来て、初めて気が付いた。
電車の中で落としたのかしら。
それとも駅から歩いている時に落としたのかしら。
でも、腕にはめていた時計である。
落ちれば必ず気が付くはずだ!
じゃあ、カバンの中に落ちたのかしら。
彼女はカバンの中や、家の中を探したが無い。
急いで駅までの距離を戻って懐中電灯片手に探したが、無かった。
その後、会社をくまなく探したが無く、
電車の落し物所にじかに出向いたが、届けられていなかった。
10年も使い古した女性用の時計である。
たいして価値がある様にも思えないので、
誰か拾っても自分のものにはしないだろうとは思ったが、
その後、2週間経っても電車の落し物所や、交番に届けられる事は無かったという。
こうして彼女は、
あの時計は、とても大事な時計だったんです。
なんとか占いで、どこにあるのか分かりませんか?
と私に相談してきたのだった。
私は、とうぜん断った。
ちょっと物探しは不得意な分野なので、お役に立てないと思います。と。
ところが、彼女が言った一言が、
私の心を、ちょっとだけ動かした。
「その腕時計は、父の形見なんです。」という。
「形見?」
形見となると、少しだけ話が違ってくる。
そこで少し質問してみた。
「いつまでは腕時計があると分かっていますか?」
「木曜日の朝、家を出る時にはありました。」と彼女。
「そして腕時計が無いのに気が付いたのは?」
「金曜日の夜、8時20分です。」
そうなると、木曜日の朝から金曜日の夜8時20分までの間に無くなった事になる。
「あれ? 金曜日の朝は気がつかなかったのですか?」と気になったので聞くと、
「それが、金曜日の朝の事がすっかり記憶から消えてて、覚えていないんです。」と言う。
「そうですか。
じゃあ、木曜日の朝から金曜日の夜8時まで、
どこか、危険な所や、危ない場所に行っていませんか?」と彼女に聞いた。
すると、
その二日間、
どこにも危険な所や、危ない場所には行っていないという。
そう言われると、もうそこで終わりなのだが、
たった二日間だったので、
一応、その日の行動を詳しく聞いてみた。
■木曜日:
朝出勤。午後五時半退社。
彼氏とデート。
横浜中華街で食事。
■金曜日:
朝出勤。午後六時退社。
川崎で買い物。
川崎で友人と食事。
帰宅。
確かに、危険な所や、危ない場所には行っていない。
最後に、「じゃあ、怖かったとかという時は無かったんですね。」
と念を押して聞いてみた。
すると、彼女は、
「少しだけスリルがあった事は、ありました。」という。
「それは、いつどこでですか?」
と、聞くと彼女は核心部分を話し出したのである。
実は、木曜日の日、
彼氏とデートして、中華街で食事をとった後、
帰宅途中に、良い夜景があると彼氏に言われて、
横浜○○ブリッジを通って帰ったという。
その時に、横浜○○ブリッジの上でホンの1・2分だけ車を停めて出て、
みなとみらいの夜景を二人で眺めたというのだ。
ただ、風が強くて少しだけスリルがあって怖かったという。
実は、横浜○○ブリッジは隠れた自殺の名所なのである。
当時、余り表には出ていなかったが、占い師の間では時々話に出ていた。
その後、タクシーで横浜○○ブリッジを通る様に指示して、
橋の上に来たら、気持ちが悪くなったので停めてくれと言ったサラリーマンがいた。
運転手が車を停めると、そのサラリーマンは、急にドアを開け、
運転手に手を振りながら、「バイバイ」と言って飛び降りたという。
そんな話などが出て、有名になってしまった橋である。
多分、彼女もそんな死者が飛び降りた場所に、車を停めたのかもしれない。
私は彼女に、
もうあの橋の上で、車を停めてはいけませんよ。と忠告してから、
多分、貴方の父親からもらった形見の腕時計は、
その橋で失くしています。
でも、落としたのではありません。
貴方の身代わりになったのです。
時として、形見の品が身代わりとして無くなる事がある。
それは、亡きお父さんが、彼女を守ってくれたのである。
私は彼女に、
「お父さんに、守ってくれてありがとう。」とお礼を言う様に勧めた。
もし、貴方にも、
亡くなった親族で、貴方を守ってくれそうな人の物があるなら、
それが形見でなくても、
普段、カバンにでも入れて持ち歩く事をお勧めします。
それは貴方が知らない所で、
貴方を守ってくれるかもしれません。
そして、ひっそりと、
無くなっているいるかもしれません。
貴方の無事と引き換えに。
END