イギリスの南西部に、グロスタシャーという州がある。
ここは、知る人ぞ知るバドミントン発祥の地であるバドミントン村がある。
ここに仲の良い姉妹が住んでいた。
姉ジョアン。妹ダイアン。
決して裕福という家庭では無かったが、
6歳の姉は、妹の為に自分で物語を作り、読み聞かせて喜ばせていた。

そんな優しい姉であったが、
転校して、厳しい小学校に入学してから様子がおかしくなった。
先生は厳しく、学校の規律も厳しかった。
感性が豊かだったジョアンは、対人恐怖症になり、
やがて社会不安障害になってしまう。
病気は中等学校時代になってもずっと続いた。
クラスの前でスピーチしようとすると、
緊張して、吐いてしまったらどうしようと心配していたら、
急に気持ちが悪くなって、なんと本当に皆んなの前で吐いてしまったのだ。
皆んなに笑われ、
恥ずかしさからそのまま家に逃げ帰った。
それから彼女は、不登校になってしまう。
社会不安障害の症状は更に強まった。
悪い事は重なるもので、
母親アンが多発性硬化症にかかり入院した。
母が衰弱していくのを見ると、ジョアンの病状は更に悪くなった。
それでも彼女は、母の入院費を稼ぐ為にも、
大学に行く傍ら、派遣社員として働いた。
しかし、社会不安障害の為に一ヶ所での仕事が長続きできず、
何度も職を変えた。
そんなお母さんも10年も闘病生活を頑張ったのだが、
最後は自宅で亡くなった。45歳だった。
彼女は、愛する母を失った悲しみから、イギリスを離れてポルトガルの地に移る。
そこで出会ったジャーナリストと結婚して、女の子を出産した。
ところが、
夫の姑と一緒に暮らす結婚生活は思った様なものではなかった。
彼女は、わずかな所持金しか与えられずに、
乳飲み子を抱えて、イギリスに逃げ帰った。
しかし父親は、8歳年下の秘書と恋仲になっていて結婚していた。
もう父親の元にも戻れない。
彼女は、ホームレス一歩手前だった。
この子が居なければ、ホームレスに身を甘んじていたかもしれなかった。
この子の為にも、何か食べる物を買うお金を稼がないと。
彼女はなんとか教会で働き始めた。
しかし、
意外と世間の目は冷たかった。
彼女を見ると、「ふしだらな未婚の母!!」と、
ワザと皆に聞こえる様に罵倒された。
彼女は、せっかく得られた教会の仕事を辞めた。
子どもに食べさせるため、自分は何も食べない日が続いた。
彼女は、生活苦、そして子育ての将来の不安から、
うつ状態になっていた。
もうこれ以上、無理。
自殺しよう。
すると、娘がわずかな食糧なのに、
とっても幸せそうな笑顔で、私に微笑みかけた。
この子は、こんなにひもじいのに笑っている。
もう少し私も頑張ってみよう。
娘が居なかったら、自殺していたかもしれないと彼女は後に語っている。
そうだ。
お金は無いけど、
この子の為に、昔私が妹の為に作ってあげて様な物語を書いてみよう。
町中の人達が、クリスマスの準備で忙しい12月21日。
彼女は娘を抱きながら、生活保護を申請に行った。
生活保護を受けながら、彼女は必死に娘を支えに生きた。
お金も無い。手に職も無い。コネも無い。
ただ1つ。
小さい頃から物語を書くのが好きだった。
これがダメなら、その時は娘と・・・
しかし、周りの人達は相変わらずそんな彼女を批判的に見ていた。
世に出るかどうかも分からない小説なんか書いて!
もっとまともな職業について地道に働くべきじゃないのか!と。
やがて彼女は、外にも余り出れなくなり、ひきこもりとなった。
そして鬱病(うつ)になり、数ヵ月治療することになってしまう。
そんな時だった。
妹のダイアンに、今また物語を書いているのよ。と話すと、
ぜひ書いたものを見せてほしいと言ってきたのである。
小さい時、妹が喜ぶ顔見たさに書いた小説。
「もし妹が喜んでくれなかったら、その時はもう辞めよう。」
すると、
妹が笑った。
「お姉ちゃん、続きが読みたい!!」
やがて彼女は、娘と妹の存在に助けられてうつ病を克服、
2年がかりで小説を書きあげた。
31歳になっていた。
すぐにイギリスの大手出版社12社全部に持ち込んだ。
しかし、
現実は厳しかったのだ。
12社もあった大手の出版社は、どこもとりあってくれなかった。
「物語が長すぎるんだよ。!!
こんなの子供が読めるか!!」
「これは子供には難し過ぎるだろう。
だから女が書いた物はダメなんだ!!!」
「女が書いたものだと、
男性読者の受けが悪いんだよね。悪いけど無理。」
編集者の中には、長い小説を前に、
半分読む気が無いという男性担当者もいたという。
愛する娘が喜ぶ様な物語を書きたいと思い書いた物は、
大人の男性には、理解出来なかったのかもしれなかった。
しかし、彼女は諦めなかった。
大手は無理でも、
小さい出版社なら・・・
ところが、
そこで奇跡が起きるのである。
持ち込まれた小さい出版社の編集長が、
彼女の原稿を家に持ち帰った時だった。
彼はその原稿を一切読んでもみなかった。
しかし、
近くにいた8歳の娘に読んでみるかと渡したのである。
その女の子は、「うん」と言って自分の部屋に持っていった。
あんな長い小説、難しくてダメだろう。と思っていると、
1時間後、
娘のアリスが部屋から出て来た。
「パパァ!!
これは他のどんな本よりも、ずっと素敵だわ!」と言ったのである。
余りの娘の反応の良さにびっくりした編集長は、
試しに出版してみる事にした。
ただし彼女には条件をつけた。
それは、
女が書いた物だと、男性の読者が読まない可能性が高いので、
書いたのは男性だと臭わせて欲しい。
貴方の名前、ジョアンはヤメテくれ。
それでも彼女は嬉しかった。
始めから期待もされていない小説だったので、
刷った部数も少なく、
わずかな原稿料だけが支払われただけだったが、彼女は大満足だった。
これで少しは、娘と生きていける。
ところが、ここでまた奇跡が起きる。
小規模な出版社から、わずかしか印刷されなかった本だったが、
あっという間に売り切れると、
あの本は無いのか?
あの本はどこで売っている?
あの本の続きはあるのか?
という子供達や親からの問い合わせが殺到したのである。
急きょ増刷に増刷となった。
なぜ、彼女の小説がこんなにも子供達に人気が出たのだろうか?
ある雑誌が子供達にインタビューした。
「なんで、この本が好きなのかな?」
子供は、すぐにこう答えたという。
「だって、自分が魔法の世界に行った気分になれるんだもの。
ハリー・ポッター だ~い好き!」
その後、あっという間にベストセラーとなり、世界中の賞を総なめにする。

娘と自殺しなくて、良かった。
実は、彼女は物語の中で、
女性の主人公、ハーマイオニーを通して、
読者の女性達にメッセージを送っていると言われている。
女性は自分を、そんなに過小評価しなくていいのよ。
男性に遠慮せず、自分の能力を伸び伸びと発揮していいの。
それは現代の女性への応援メッセージとして、
ハーマイオニーというキャラクターと、その言葉に込められている。
その後、彼女は、
母子家庭の為の慈善活動であるGingerbreadの大使となり、
多額の寄付や活動を行って、
数々の挫折と差別を乗り越えてきた彼女は、
愛する娘に、こんな教訓としての言葉を残している。
「その男性の人間性を知りたければ、
その人が自分よりも弱い立場の人を、
どう扱っているのか、見てみる事よ。」
J.K.ローリング
小説が長過ぎるとか、女が書いたものは売れないと、
大手出版社12社の全てに断られた彼女だったが、
現在および、過去の世界の歴史上を通しても、
彼女よりも稼いだ男性作家は、
ひとりも、いない。
END



