●穴だらけのボロ靴下
このお話は、昨日のブログ(●ストッキングを集める男)の続きです。
従って、昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-11976903091.html)
を先にお読みください。
そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ]
男性が結婚相談に来る事は滅多に無い。
これからお話しするものは、
そんな男性の結婚相談の中でも、世にも不思議な相談だった。
ある日、知り合いの社長の紹介で、ひとりのご婦人がみえた。
相談内容は、30歳になる息子さんの結婚についてだった。
肝心の息子さん本人ではなく、母親が来るというのは特に珍しい事では無い。
以前にも何度かあった。
都内の会社に勤務しているというごく普通の会社員の息子さんだ。
写真や生年月日からみても、特に問題は無い感じの男性だった。
しかし、母親から詳しい話を聞きに従って、
息子さんの結婚問題は、あらぬ方向に進み始めたのだ。
それは彼女の、この一言で始まった。
「息子は、ストッキングを集めているんです。」
家には、もう300足以上あるというのに、未だに出かけると、買ってくるという。
私が、趣味で集める分にはいいんじゃないですか、というと、
母親は、でも問題はそれだけじゃないという。
地元のデパートやショッピンセンターに行くと、
女性のストッキング売り場に何時間も見て回り、噂になっているというのだ。
これでは、息子は結婚できないし、結婚できても、こんな変な趣味があったのでは、
離婚してしまうのではないかと、彼女は心配しているのだという。
妹さんがいるそうだが、お兄ちゃん気持ち悪いと言っているという。
彼女は変な事を言い出した。
「息子は、下着泥棒か何かの霊に憑りつかれているんですよ。」と言い出したのである。
息子は度胸が無いから、泥棒はしていないが、
きっと変な霊が息子に憑依しているに違いないと言うのである。
彼女は息子さんにどうしてそんなにストッキングばかり集めるのか聞いてみた事があるという。
すると、なぜだか分からないけど、なんとなく買いたくなってしまうというのだ。
また、ストッキングを買ったのに、自分で履いたりはしないのだという。
なるほど、確かに少し変な気もする。
結局、彼女の家に行って、本人に会ってみる事になった。
この時点で、私には事の真相がまったく分からなかった。
なぜ、息子さんはストッキングをここまで集めるのか。
翌々日、彼女の家に行ってみた。
旦那さんと息子さんは、いつも仕事から7時頃に帰って来るという事だったが、
万が一、ストッキングのコレクションを見せてもらえないという可能性も考えられたので、
それよりも1時間早くお宅におじゃまして、
先に息子さんのストッキングのコレクションを見せてもらう事になった。
「お邪魔します。」
すでに、娘さんも帰っていて、
お母さんと一緒に、息子さんの部屋に案内された。
ドアを開けると、いたる所にストッキングがあるのが分かる。
本棚は、縦に置かれたストッキングが、まるで本の様にズラリと収められている。
本棚の横には、衣料用のケースが積み重なっていて、
そのどれにもストッキングが入っているという。
なるほど。ストッキングも300足となると、すごい数だ。
中を開けたと思われる品が半分、買ったままの新品が半分位だという。
また、娘さんが調べたところ、ほとんどが違う物で、
同じ商品やダブっている物は余り無いという。
そして、妹さんやお母さんが履いているストッキングなどにも興味を示して、
時々じっと見る時があるという。
「息子さんは、いつ頃からストッキングを集め始めたのですか?」
「バイトを始めた頃だから、大学生になってからです。」
つまり、自由に出来るお金が入る様になってからという事になる。
ちなみに、お母様が心配していた下着泥棒の霊に憑りつかれているという事だが、
彼のストッキングのコレクションを見ると、
どれも新品を買ったものだ。
もし、下着泥棒なら、使用済みに価値があると聞いた事があるので、
少なくとも下着泥棒の霊ではないだろう。
ではなぜ、ストッキングを集める?
さっぱり分からない。
ただ、夢遊病とか、
訳が分からないけどストッキングを買ってしまうというものでは無い。
なぜなら、同じ物をダブって買っていない。
これは何か目的を持って、買っているはずだと思った。
とりあえず、ストッキングのコレクションを見せてもらった。
今の所、唯一の手がかりである。
本棚に入れてあるストッキングを見ると、
確かに色々な物がある。メーカーも色々で、
中には海外の物まであった。どうやらメーカーにコダワリは無い様だ。
ところが、私が本棚の横はあった衣料用のケースを見ていた時だった。
中のストッキング類を見ていて、ふと何か違和感を覚えたのである。
衣料用のケースは4段あり、
その一番下の段の衣料用のケースを開けた時だった。
なんと、そのケースには、ストッキングが入っていない。
では何が入っているかと調べてみると、
靴下である。
妹さんによると、100足位の靴下があるという。
やはり色々な種類の靴下がケース一杯に入っている。
五本指のソックスから、足袋の様な靴下まで・・・
つまり、息子さんが買い集めていたのストッキングだけでは無かったのである。
ストッキングに魅かれるのは分かるが、
特にそれを自分で履く訳でも無く、
また、ストッキング以外の靴下も集めるという。
しかも、聞くと、最初の頃は靴下を主に集めていたというのだ。
つまり、コレクションは靴下から始まり、現在はストッキングにご執心だという。
そこが、何となく引っかかった。
やがて、玄関の門が開く音がして、
息子さんが帰って来たので、私達は急いで1階に降りた。
都合上、私はお母さんの知り合いとなっていた。
「お邪魔してます。」と挨拶。
その後、旦那さんも帰宅して、
一緒に夕食をご馳走になった。
その間、ずっと息子さんを観察していたが、
特におかしい所は無い。
前の日に、お母さんに聞いていたが、
憑依されている時に現れやすい、食べ物の好みが変わったとかも無いし、
目つきが変わったり、言葉使いが変わったという事も無いという。
一応、タイミングをみて、息子さんにズバリ聞いてみた。
「あのう。さっき聞いたのですが、
なぜ沢山靴下やストッキングを集めるのですか?」
すると、息子さんは、
「特に理由は無いけど、なんとなく」という。
お母さんに聞いていた通りだ。
ストッキングとはいえ、あれだけの数を新品で買えばけっこうな金額になる。
それをなんとなく買ってしまうという答えはおかしい。
やはり憑依か。
でも普通の憑依現象が無いというのはどういう事か。
悪い憑依霊では無いという事か。
そんな自問自答をしていると、
やがて息子さんは食事を終わり2階の自室へと行ってしまった。
この時点でも、さっぱり分からい。
私が悩んでいると、娘さんが、
「そう言えば、お兄ちゃん、
昔のすいとんが食べたいなんて言った事があったね。」と言う。
私はそれを聞いて、何かハッと思い聞いてみた。
「あのう、誰か亡くなったご先祖で、
ストッキングに関係していた人はいますか?」
すると、いないと言う。
「では、靴下に関係していた人はいますか?」
すると、いると言うのだ。
聞くと、御祖父ちゃんが生前靴下を制作する会社に勤めていて、
女性の靴下の企画制作を担当していたという。
また、亡くなった時の様子を聞くと、
会社で心不全で亡くなったというが、その時に、
新しい靴下の開発を手掛けていたという。
私はそれを聞くと、
息子さんの一連の現象は、その御祖父さんの影響だと感じた。
御祖父さんの魂は、
今も靴下の開発途中で亡くなってしまった事を悔んで、
息子さんの体を借りて働き続けているのだろう。
これは憑依現象とは若干違う。
例えば、貴方のひい御祖父さんが生前とてもおでんが好きだったとする。
そしてある日、貴方は特におでんが好きでは無いのに、
急におでんを食べたくなったとしよう。
これは、貴方の側にそのひい御祖父さんの霊が来ていたり、
そのひい御祖父さんの霊が、仏壇におでんを供えてと望んでいる時に起きる現象である。
その現象と今回は似ている。
規模の大きさは違うが、よほど後悔と悔しさがあった方だったのだろう。
私は彼女に、
特に御祖父さんの供養を今日から3ヶ月するように勧めた。
その際に、仏壇の前に毎回違う靴下やストッキングを置き供養してあげる様に言った。
「今までご苦労様でした。御祖父ちゃん、
どうかもう仕事の事は忘れて成仏なさってください。
生まれ変わって来世でまた靴下作ってくださいね。」
供養後、息子さんが、靴下やストッキングを買わなくなったら、
その中の大切そうな物10個位を残して、
オークションなどで売っても大丈夫な事を付け加えた。
幸い半分が新品なので、安くすれば売れるだろう。
最後に奥さんは、こんな御祖父ちゃんの思い出を語ってくれた。
御祖父ちゃんは生前、よくこんな事を話してくれたという。
戦時中、戦後まもなくの頃は、
食料不足だけでなく、
着る物も不足していたという。
そんな時、国民に衣料切符という物が配られたという。
なんと、配給制は食料だけでは無かったのだ。
私もこの時、初めて知った。
国民は下着が買いたくても、この衣料切符が無いと買えない状態だったという。
しかし、買えたとしても靴下の質は悪く、すぐに穴が開いてしまう粗悪品だった。
それでもあれば良い方で、
新品はすべて、主人や子供優先。
お母さんは、穴だらけのボロ靴下を2重にして履いていたという。
彼は、子供ながらにそれを見ていて、
いつか、いつか きっと母さんにも、
いい靴下を履かせてやりたい。
お母さんの足も、温かくしてやりたい。
だから、靴下を作る会社に勤めたんだと。
御祖父ちゃんには、そんな仕事への原動力があったのである。
人は時として、小さい頃の思い出が、
その後の人生を決める事がある。
「かあちゃんに、絶対いい靴下を履かせてやるんだ!」
そんな御祖父ちゃんの子供時代の姿が、薄らと浮かんだ。
END