●居ても居なくてもいい社員
12月も後半です。皆さんも最後のスパートでお忙しい事でしょう。
今日は年末らしいお話にしましょうね。
随分前になりますが、
私が広告代理店でアルバイトをしていた時の事です。
当時、父の友人が六本木で広告代理店を営んでいました。
地下鉄を降りると、交差点にアマンドがあり、
近くに防衛庁がありました。(現在は防衛省に格上げされています。)
広告代理店で働いていると言うと、聞こえはカッコいいのですが、
私は父親同士の計らいで、お手伝い程度の事しか出来ませんでした。
大学で美術は専攻しましたが、広告代理店などで通用するものではありません。
当時ビルの1階にあった事務所で働いていたのですが、
私の仕事は、まず出社すると、窓ふきです。
そして、全員の社員の机を拭き、掃除。ゴミ捨て。
まあ、極端に言えば、居ても居なくてもいい社員でしょうが、
父は彼に、時々仕事を依頼していたようです。
ちょうどデスクも、一台空いているという事もあったのでしょうが、
多分、裏には大人同士の計算があったのでしょう。
それでも私は朝一の窓ふきは好きでした。
事務所の大きな窓は、南向きで、
10時の太陽がオフィスいっぱいに注ぎ込む環境にありました。
その南向きの窓を掃除するのが、運を向上させる事は知っていました。
だから、その太陽がよく入る様に、
オフォスが10時の太陽でいっぱいになるようにと、
窓を綺麗にするのが、好きだったのです。
普段は、窓には上から下までブラインドがかかっていました。
でも、私は社長に言って、
せめて10時の太陽がオフィスに入る間だけでもいいから、
窓にかかっているブラインドを全開にする事を提案しました。
私が行った頃の広告代理店は、多くの書物やポスターなどがあり、
それが紫外線などで色落ちしない様にと、常にブラインドが下りていたのです。
また、私が勤めるまで、
掃除や窓ふきなどする様な余裕は無かったといいます。
でも、いくら南向きの良い家相でも、
10時太陽がブラインドで、その太陽光を全て遮断していたのでは、
良い家相を余り生かせず、もったいないのです。
社長は、しぶしぶ、午前中だけならと、
その日からオフォスには10時の太陽が、いっぱいに入る環境になりました。
私は、窓をふきながら、オフィスにいっぱい、いっぱい太陽が入る様にと、
毎日お願いしながら磨きました。
居ても居なくてもいい社員の昼食は、
コンビニのおにぎりです。
当時賃貸アパートに一人暮らししていた私にとっては、
ワンコインランチも、痛い出費でしたので、おにぎり2つと水が定番だったのです。
そんな仕事場でしたが、
1ヵ月が経ち始めた時です。
急にこの広告代理店にデカい仕事が入り始めたのです。
東京にあるこの事務所に、神奈川県の大手鉄道会社が、
広告の年間契約を頼みに来たり、
那須の別荘地のパンフレットなどが次々と決まり、
不思議と次々と、仕事が舞い込んでくるという感じになりました。
それは翌月も続き、
なんと厚生省からも仕事が来るという栄誉です。
私も当時の厚生労働大臣に会ったりと、
居ても居なくてもいい社員の仕事も、
掃除から書類の受け渡しや原稿の回収・別荘地でのカメラ撮影など、
多用になってきました。
そんな私に、ある日社長が、
「君が来てから、なんか会社が順調で凄いよ。」と言ってくれ、
かなり儲かったのでしょう。
その日から、ランチを一緒に奢ってくれるようになりました。
社長は、いつも昼はイタリアンレストランが多く、たまにうなぎとかでしたが、
その全てが美味しく、さすが六本木だと感激したのを覚えています。
居ても居なくてもいい社員は、居てもいい社員となっても、
毎朝の窓ふきと、ブラインドを全開にする事はだけは続けました。
会社が順調になったのは、私のお蔭では無い事は知っていました。
あるとすれば、南から照らす朝の太陽がオフィスに降り注いだお蔭なのです。
やがて、会社の利益は飛躍的に増え、
デザイナーをもう一人、専属で雇う事になりました。
これでこの会社も、より飛躍すると皆喜びました。
そんな中、
私は辞表を書きました。
今まで、空いているデスクがあったから、
居ても居なくてもいい社員が居る事ができたのは、私が一番良く知っていました。
私が居なくなれば、優秀なデザイナーが使えるようになります。
今までお世話になったのです。
きっと、父との約束もあるでしょうから、
私から辞表を書かなければ、困るだろうと思ったのです。
渡りに舟だと思ったかもしれません。
社長は、居ても居なくてもいい社員を引き留める事はありませんでした。
こうして、
居ても居なくてもいい社員は、居てはいけない社員となり、
静かに、オフィスを去っていきました。
去り際にオフィスを見ると、
皆来週くるデザイナーの話しで、いっぱいでした。
多分、居ても居なくてもいい社員が
今日が最後の出勤だと気付いていた人は、いなかったでしょう。
私は、「じゃあ、また」と言う同僚に、
「私が居なくなっても、
朝の1時間だけは、ブラインドを全開にして、
太陽の光をオフィスにいれてね。」
とお願いして、オフィスを最後にしました。
翌月、私は途中で辞めたので、
お給料を取りに、久しぶりにオフィスを訪れました。
すると、
事務所は忙しいのでしょう。
窓はだれも掃除した様子がなく、
また、10時なのにブラインドも降りたままです。
私は、残りの給料を受け取ると、
勝手に窓をふき、ブラインドを上げ太陽をオフィスにいれました。
忙しそうなので、邪魔になると思い、
誰にも声をかけずに、ひっそりと帰りました。
それが、私がそのオフィスに行った最後です。
その後、
風の便りで、
新しく来たデザイナーが、盗作疑惑を起こし、
神奈川県の大手鉄道会社の仕事を失くしたと聞きました。
そして、その1年後、
社長が脳溢血で倒れたのです。
一命は取り留めて、今も働いていますが、
かなりパワーダウンした様で残念です。
これから年末、大掃除する人へ。
&
面倒だから、大掃除したく無い人へ。
朝10時の太陽が一番最初に射す窓だけでもいいですから、
綺麗にして下さい。
その時は、ブラインドやカーテンを開け、
太陽の光を家の中に、オフィスの中に入れて下さい。
そして天気の日には、少しその窓を開けて風を部屋に入れましょう。
これは自宅でも会社でも、共通して言える事です。
つまり、
忙しくても、最低でも南向きの窓と、東南の窓は綺麗にする、
そんな大掃除にしてくださいね。
きっと、
貴方の家や会社に、
幸運を運んでれる光と風になる事でしょう。
END