リスのチッチ



今日は普通のブログです。




私は大学時代、アメリカで過ごしました。


そこだけ切り取ると、みんな凄いと言うけれど、




本当は、日本の大学に行きたかったのです。


でも、


高校時代をアメリカンスクールで過ごした私の学力では、


日本の大学に入るという選択肢はありませんでした。




ワシントン大学は、大雑把に言うと、


アメリカでも太平洋に面し、カナダとの国境付近にあるシアトル市にあります。


シアトルは昔、アメリカで一番住みよい町に選ばれたほどの場所です。




寮生活は、基本2人一部屋で、


私は1年目はアメリカ人と、


2年目はタイ人と、同室となりました。


4人部屋もあり、ある4人部屋では、男女同居もあり、


驚いた事があります。




寮での食事は、豪華です。


毎日食べ放題の様な感じで、好きな物を好きなだけ取れるという感じでした。


ただ、そこには、


ベジタリアン用の、サラダとヨーグルトだけのプレートも常に用意されていて、


アメリカらしいなと思いました。




自分が受ける授業も、全て自分で選べます。


私は、外国人用の国語と、数学、理科、美術などを選択しました。



理科の地層などの授業は、英語と合わさって、


私には難しいものでした。


当然、試験は落第コース。


でも、そこは救の手もあります。


先生の実験の手伝いをすると点をもらえました。


例えば、スライドをひたすら2時間見て、感想を言ったり、


アンケートに1時間しっぱなしで、先生の研究の実験に協力するのです。




そんな授業は、移動が大変です。


数学がある校舎から、理科の講義がある校舎まで、


車で5分です。


東京ドーム60個分の敷地に200を超える建物があります。


従って、私は移動の為に自転車を買いました。




キャンパス内には、あちこちに自然の森が残されていました。


そして、ビルとビルの間にも、木々や芝生が敷き詰められ、


春には桜が咲き、花もあちらこちらに咲くキャンパスでした。




そんな森には、野生のリスもたくさんいました。




ある日、


私の帰国の半年前の事でした。


私が自転車でキャンパスへの近道にと、木々が沢山ある公園の森を通りました。


すると、


リスが2匹じゃれあっています。


私は自転車を止めて、しばしその様子に見入ってしまいました。




気が付くと、私のすぐ傍まで近寄って来ているリスがいました。


見ていると、可愛く立って、何かを欲しがっている感じです。


そのリスは、片耳が友達に噛まれたのか、少し欠けています。


何かエサでもあげたいのですが、


リュックの中には、教科書とノートしか入っていません。


「何も無いんだよ。」そう言うと、自転車を走らせました。




その日の夕食、



「そうだ、あのリス達に何か持っていってやろう。」


その日の献立の中で、パンやらチーズやらを選んで、


翌日、あのリス達がいた公園に向かいました。





私が自転車を止めて待っていると、


来ました。来ました。


まず一番先に現われたのは、この前片耳が怪我していたリスです。


私はそのリスの前に、パンを投げました。


すると、器用に両手でそれを持って立ったまま急いで食べています。


まだ、ほっぺたの中につまっているのに、


次を欲しがるように、立ってこっちを見ています。


「ほれ、リンゴはどうだ」


すると、最初はリンゴを両手でもってクルクル回しながら食べていたと思ったら、


種だけ取って、ポイです。


「ん? 種だけ? 


 人間とは逆なんだなぁ。


 今度は違うのを持ってきてあげるからね。」



また明日な。





こうして、授業が終わって帰る時には必ずリスの所に寄る様になっていました。


難しい授業の後の、癒しの時間にもなっていたのです。





色々な物をあげている内に、


リス達はナッツ類が一番好きそうな事が分かりました。





私はスーパーに行くと、ピーナッツの袋を一袋買い、


毎日リュックに入れて、大学に通いました。




1週間ほど、リス達の所に通うと、


もう私の自転車の音を覚えたのか、


別にエサも出していないのに、私の自転車目がけてリス達が走って来ます。


先頭はいつも、あの片耳を怪我したリスでした。


私はそのリスに、「チッチ」と名付けました。





チッチは最初に出会ったリスで、


一番私に慣れていました。


最初は1m先にいるチッチに、ナッツを投げていましたが、


その頃になると、チッチは私の手の上で、


ピーナッツを食べ放題状態でほうばるようになっていました。




器用に私のズボンに飛び移り、ヒョイヒョイと登ってきます。


そして、手の中のピーナッツを取ると、


右肩に登りそこでゆっくり食べるのが、いつものパターンとなりました。




そんなある日、


チッチが友達を2人連れてきました。



3匹で、私の体に登ってきて、それぞれピーナッツを取ると、


友達2人が私の両肩に、


そしてチッチはというと、


なんと私の頭の上に陣取り、ピーナッツを食べるのです。


これには、そばを通った学生などが、


「凄い! ミラクル!」などと言ってきます。



チッチに影響されたのか、恐る恐る近づいて来る野生のリスもいました。


そんなリスには、ナッツを投げてやりました。


チッチは特に耳が良いのか、


私の自転車が公園に入った途端に、


どこからともなく走って来ます。



私も自転車と並走して走って来るリスを見ると、


ああ、チッチだなと思い、嬉しくなりました。


「チッチ、今日は奮発してお前が大好きなクルミだぞ!」




この頃になると、


私の自転車の音だけで、10匹くらいが集まって来ました。





ところがある日、


私がいつもの場所に行くと、


1匹のリスが、死んでいます。


一瞬チッチかと思いましたが、違いました。





しばらくすると、チッチが元気に私の所にトンで来ました。


いつもの様に、私の右肩でピーナッツを食べています。


ただ、一緒にいた友達が1人だけになっています

私は、もしかしたら、死んでいたのはチッチの友達かと思い、


近くに埋めてあげました。





やがて、


なぜその場所でリスが死んだか分かる日が来ました。






それはある日、


私が受けていた授業が少しおして、いつもの場所に行くのが遅れた日でした。




私の随分前を1台の男性が自転車を走らせていました。


すると、その自転車に向かってリスが2匹走って行きます。


自転車がベンチの前で止まると、


リス達は、私にやっていたように、その男性のズボンに飛び乗りました。


するとビックリした男性は、


そのリスをはらいのけると、思いっきりそのリスを蹴ったのです。


その後も、その男性はリスに石を投げていました。




なんとリス達は、私以外の自転車にも反応していたのです。


きっと、自転車で来る人は、エサをくれる人だと思ったのでしょう。







私は後悔しました。



私が現れなければ、きっとあの子も死ななくてよかったはずだ。





私のせいだ。





その日以来、私は鬼になりました。







リュックにはピーナッツではなく、うちわを持ち歩くようになりました。



そして、毎日いつもの場所を自転車で通ると、


寄ってくるリス達を、うちわで追い払いました。


ズボンを登ってくるリスには、うちわでペンペンと叩き、


決してエサはやりません。





「お前ら、自転車は怖いんだぞ


 もう寄って来るな! いいな!」



それでも、どうしてもいつも寄ってくるリスがいました。






チッチでした。





とてもお腹が空いている感じでした。


私が止まると、2m先で立ってもの欲しげに私を見つめます。



「ごめんよ。


 もうお前たちにはあげられないんだよ。」


それでも近寄って来ようとします。





そして、


なんで、急に冷たくなったの?」


と言っている様な悲しい目をして、私を見るのです。






私は半分涙目になりがなら、


「もう、お前が嫌いになったんだよ!


 だから、寄って来るな!」


と言いながら、うちわをやみくもに振り回しました。





でも、私がうちわを、チッチの目の前で振り回しても、


ただ悲しそうな目をして、私を見るだけで、


チッチはなかなか逃げてくれないのです。



「そんな目で見ないでおくれ、


 もうお前にあげられるものは、無いんだよ。」




本当は、すぐにでも抱きしめて、


ピーナッツを沢山沢山あげたかった。



しかし、私は何もあげず、冷たくその場を立ち去ったのです。







チッチ達が、もう近づかなくなるまで、


私は帰国するまで、何度も繰り返しました。



しかし、


私がリスをウチワで追い払っている様子を、寮の誰かが見たのでしょう。



私がリスを虐待していると、噂が立ちました。


それによって、


私が帰国する日の私の送別会は中止になっていました。



そして、みんなの間では、


「かやは、リスに冷たい冷血人間だという事が、ふれまわっていました。」



しかし、英語ではうまく言い訳も出来ず、私はひとり帰国しました。





最後の日、タクシーで、


チッチがいる公園の近くを通ってもらうと、


たくさんピーナッツをまいてきました。




「元気で生きるんだぞ。


 さよなら、チッチ


 思い出をありがとね。」


END