●死にたい小学生
これは近所の子供の話である。
近所と言っても、私の自宅から600mはあるのだけど、
母親が私の母の歌友達で、
時々スーパーなどで見かける程度である。
一人娘が、小学生3年生で、
早くも将来女優になると言っている子であった。
仮にユキちゃんとしておきます。
ある日、
そのユキちゃんが入院しらしいと母から聞いた。
病状はよく分からないが、
アナフィラキシーとか言っていたという。
どうやらアレルギーの一種らしい。
それから二日後の事である。
母がその後の様子を携帯で聞いた所、
病状は安定しているとの事。
それは良かった。良かったという事になった。
しかし、その夜、
今度は向こうの母親から母に電話があった。
病気の方は一安心らしいのだが、
ユキちゃんの様子がどうもおかしいという。
今日になって、
急に死にたいと言ったのだという。
娘さんの病気は、手遅れの時は死ぬ場合もあるらしいのだが、
病状は安定し、もう心配ないレベルだという事だった。
母親がユキちゃんに、
どうして死にたいのと聞いても、黙ったままだという。
また彼女は意外な事を心配していた。
それは病室の事である。
娘さんは一人部屋に入院しているらしいのだが、
その部屋が、入院当初から気持ちが悪かったのだという。
彼女が言うには、
何か悪い霊が娘に憑りついて死ぬと言わせているのではないか。
そう心配しているのである。
それで、私が占い師と知っている彼女は、
一度娘を診て欲しいと母に言ってきたのである。
大抵、母を通しての依頼は、タダ働きである。
しかし、娘さんが死にたいという状態では、
私も心配である。
断る理由は無かった。
翌日、さっそく行くことになった。
面会時間は2時からという事だったので、
昼食をとってから行こうと母が言ったが、
私は食べなかった。母だけ食べる様に言った。
なぜなら、
食事をとって、お腹が一杯になった後と、
食事前の状態を比べると、
食事前の方が、直感が冴えるのである。
私たちは、病院の一階の待合室で奥さんに会うと、
2階の病室に案内された。
病室にはたいした物は無かったが、
お母さんが持ってきたのだろう漫画の本や、
身のまわりの物いれた袋が数点あるだけだった。
病室は、
2人部屋でもおかしくない部屋に、ベッドがひとつの個室である。
部屋には壁一面の大きな窓があり、景色も良く、
部屋全体も明るい。
パッと見だが、気持ち悪い雰囲気はしない。
ユキちゃんは、横になり、
窓の方を向いたまま、
私たちが入って来てもこちらを向こうともしない。
まぁ、悪く言えば完全に無視である。
私とも何度か会って、挨拶を交わしているのだが、
あの愛らしく元気だった頃の彼女の面影は無かった。
さっそくだが、
ベッドの脇にある机に、
彼女のお婆ちゃんの写真を飾ってもらった。
前日電話で、持ってきてもらう様に頼んだものである。
そのお婆ちゃんは、
亡くなるまで娘さんをとても可愛がっていたと聞いたからである。
もし悪い霊がいても、
お婆ちゃんが写真を通して守ってくれる事がある。
また、部屋の四隅に盛り塩をした。
ただ、なんとなく原因は部屋以外の事にある様な気がした。
でも念の為だ。
そんな事をしていた時、
ユキちゃんがこっちを向いた。
内心少し驚いた。
目が腫れあがり、
片目がつぶれた様に開けられないでいる。
唇も腫れて大きくなっていた。
多分、女優を目指していた彼女には病気そのものよりもショックな事だろう。
「こんにちわ」と言うと、
また直ぐに窓の方を向いて、黙ったままだった。
でも、1分後、
小さな声で「こんにちわ」と言って来た。
本当はいい子である。
側に母親がいるので、何も話さないのかもしれなかった。
すると、母親が気を利かせてか、
ちょっと下に買い物に行ってくると部屋を出て行った。
私と母とユキちゃんだけになったので、
私はユキちゃんに、少し雑談をしてから、
「どうして死にたいって言ったのかな?」
と聞いてみた。
すると、彼女はある出来事を話し始めたのである。
それは、昨日の午後の事である。
彼女が、売店に行った時の事だと言う。
彼女が色々と商品を見ていると、
父親と子供が、何かを買いに来た。
親子はユキちゃんの顔を、ジロジロと見ていたという。
親子は御煎餅を買うと、
自動販売機の方に飲み物を買いに行った。
しかし、その間子供はずっとユキちゃんの事を見ていたという。
ユキちゃんは、漫画の本を買って、
病室に戻ろうとしたその時である。
売店の隣に設置してある自動販売機の陰から、
さっきの親子の会話が聞こえた。
「ちゃんとお薬飲まないと、
さっきの女の子のみたいな
お化けみたいな顔になっちゃうぞ!!」
そのなにげない一言にユキちゃんはショックを受けた。
部屋に入ると、泣いた。
沢山泣いた。
母親が来ても、ただ死にたいと言ってしまった様だった。
原因は、霊では無かった。
たった一言の、心無い言葉が少女をここまで追い詰めていたのだった。
もしかしたら、
人の言葉は霊よりも怖いものかもしれない。
詳しくは覚えていないが、
当時、私はユキちゃんにこんな事を言ったと思う。
「大丈夫、ユキちゃんの顔は1ヵ月もすれば元の可愛い顔に戻るよ。」
「ユキちゃんは、女優になるんだよね。」
「多分、ユキちゃんは、女優さんになる運命なんだよ。」
「女優さんってね。
色々な役をやるでしょ。」
「ある時は、お姫さま。
ある時は、乞食。
だから、女優になる運命の人は、小さい時に色々経験するんだよ。」
「ユキちゃんも今は、嫌な事、悲しい事を経験したよね。
それはきっと将来女優になる為の勉強なんだよ。」
「ああ、悲しい事ってこんな気持ちになるんだ。
人が傷つけられるってこんな感じなんだって。」
「将来、女優になる人が死ぬなんて、言っちゃダメだよ。」
その後まもなく、彼女は退院した。
現在、中学生の彼女は、
演劇関係のクラブに入って頑張っているという。
「心の傷をバネにして、
人の痛みが分かる、良い女優になって欲しい。」
END