●マフラーの老女
このお話は、昨日のブログ(●ニューヨークの はきだめ)の続きです。
従って、昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-11304483329.html
)
を先にお読みください。
そしてから下をお読み下さい。
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大都市ニューヨークにも、実は、裏の顔がある。
貧困と犯罪ひしめく、悪名高い場所、それが、サウス・ブロンクスである。
あちこちに、焼け焦げたアパートやビルが目立ち、車で通るのも危ないと言われ、
街のあちこちに、暇そうな女性が立っている。売春目的だという。
中にはまだ子供らしき子もいるという。この街でエイズで亡くなる子供も多いという。
そんなサウス・ブロンクスにも人の生活はある。
そこで産まれ、そこで育つ。そこで学校に行き、大人になる。
そこにある低所得者用公団アパートで暮らすある家庭に、可愛い女の子が産まれた。
彼女はジーナと名付けられ、その可愛らしさから「はきだめに鶴」と言われ、
薬物中毒の父親も、喜んだ。2歳年上の兄と、仲良く学校に行ったという。
ジーナは産まれた時から、なぜか猫が好きで、
よく死にそうな子猫を家にもって帰ってきては、父親に怒られていた。
ある時、道で車に轢かれて、死にそうな猫がいた。
そんなもう虫の息の猫など、助ける人は誰もいなかった。そこにジーナが通りかかった。
小さいジーナには、その猫を助ける方法も知らなければ、助けるお金も無い。
ジーナはその猫の近くに行くと、その猫をなでて、
その猫の息が絶えるまで、ずっと側にいて、その猫の為に、歌を歌っていたという。
ひとり寂しく死なないように・・・と。
彼女が6歳の時、父親が亡くなった。貧乏だったのが、極貧乏になった。
兄はゴミをあさった。ジーナは、猫のエサを食べたという。ジーナ7歳の時である。
そんなジーナが9歳になった時、悲劇が起きた。
悪がき達が、一匹の猫にリンチを加えて死にそうだった。
ジーナは学校で使うペンと消しゴムと、死にそうな猫を交換してもらった。
猫は首に深い傷があり、死にそうだった。きっと今まで人から嫌われて生きてきたのだろう。
猫好きのジーナも触らせようとしない。相当な人間嫌いの猫の様だった。
何も出来ないジーナは、いつもの様に、その猫の為に歌を歌い始めた。
しばらくすると、不思議と猫がおとなしくなり、そんな猫をなでながら、歌を歌った。
30分位たっただろうか。ジーナが猫の顔を覗き込んだ時だった。急に猫が暴れ出し、
ジーナの顔を思いっきり、引っかいたのである。「キャー!!」
右ほおは、猫の爪でひっかかれたとても深い傷が3本出来ていた。
その時から、はきだめの鶴と言われ、美しかったジーナは、
みんなに、化け物ジーナと呼ばれるようになった。
ある子は、ジーナの顔の傷を気味悪がって近づかなかった。
ある子は、ジーナの傷が移ると言って、ばい菌扱いした。
ギャングのアル・カポネも顔に傷があったことから、ギャングだとからかった。
可愛かっただけに、母親もたいそうがっかりした。
その日以来、ジーナに新しい服を買って来る事も無くなったという。
友達も、潮が引く様にいなくなっていった。
そんな中、
ペンキ屋で子供でトミーという子だけは、
ジーナの顔の傷に関係なく、いつもの様に声をかけてきてくれた。
校庭の隅で落ち込んでいたジーナに近寄って行き、
「ジーナ、
ボクが行っている教会で、コーラスの部員を募集しているんだけど、
君は歌が好きだろ。
一緒に行ってみないかい?」
「うん。
ありがとう、トミー。
でも私、顔に傷があるけど、大丈夫かしら?」
「大丈夫さ!
顔なんて、歌に関係ないよ。
もし、顔で落とされたら、オレが文句言ってやるから!!」
二人は、学校が終わると直ぐに教会に申込みに言った。
コーラスの募集人数の制限は無かったが、簡単なテストがあった。
神父さんが、二人に聞いた。
「歌は好きかい?」
「はい。大好き!」ジーナは答えた。
「それでは、これ歌ってみてくれる。」
案の定、神父さんはジーナの顔の傷など眼中に無いという感じでテストを始めた。
ジーナは歌を習った事は無かったが、
いつもの様に猫達に聴かせるように、優しく独自の感覚で歌った。
神父さんは、しばらく目を閉じて、ジーナの声に聞き入っていた。
歌が終わると、
「君は、どこで歌を習ったのかな?」
「習ってません。ただ猫達に歌ってあげてただけです。」
「猫に?」
テストの結果は、ジーナ合格。でもトミーは落ちた。
「おめでとう。ジーナ。
絶対受かると思ってたぜ。」
「でも、トミーは?」
「オレの事は気にするなよ。
オレなんか、歌よりペンキ塗ってる方が似合ってるのさ」
でも、
ジーナはトミーの将来の夢が歌手だという事を知っていました。
「神父様、どうかお願いします。
トミーを合格させて下さい。
私は不合格でいいですから、
私の代わりに、トミーを合格させてあげて下さい。お願いします。」
「君は不合格で、いいんだね?」
「はい。」
神父さんは、少し考えてから、
「いいだろう。
明日から、二人とも来なさい。」
「ありがとうございます。」
その後、必死で練習した二人は、
やがて、コーラスの中でも中心人物になる程になっていきました。
そして、ジーナが高校を卒業する年のある日、
神父さんの計らいもあったのか、
ある人物が、ジーナの歌を聴きたいと言って教会に来るという。
ジーナは、どんな人が来るのかちょっと期待しました。
もしかしたら、音楽関係者の方かしら。
しかし、
ジーナの歌を聴きたいと訪れて来たのは、
1人の老女でした。
白髪の背中がまるまった、杖でようやっとあるいている老女でした。
暑いのに、首にはマフラーをつけ、サングラスをしていていました。
でも、
ジーナは、そのたった一人の観客の老女の為に、
心を込めて歌いました。
30分ほど歌うと、
老女は目に薄らと涙を浮かべ、
何も言わずに帰って行きました。
ジーナは言います。
未だに、その老女が誰だったのか知りません。
でも、
翌日、奇跡が起こったのです。
神父さんが、ジーナを呼んで、ある事を伝えたのです。
昨日の老女が、
以前からずっと貴方の声を評価していて、応援してくださると言っています。
誰かは言えませんが、その方の意思を受けてあげてはどうですか?
それは夢の様なお話でした。
絶対無理だとあきらめていた。大学への学費の援助だったのです。
それも、アイオワにある音楽大学でした。
そして、もうひとつ。
顔の手術の費用の援助と、
その道のエキスパートと呼ばれる医師への紹介状でした。
その後、彼女の顔は元の美しい顔を取戻し、
プロの歌い手となったのです。
彼女は自分の半生を振り返って言います。
もし、私の顔に傷が無かったら、
母は、私に売春をやらせたかったみたいです。
多分私も家計の為に、してたでしょう。
そしたら、今頃エイズにかかって死んでいたかもしれません。
また、顔に傷が出来てから、
本当の友達だけが、残ったし、見える様になりました。
今では、あの猫に感謝しています。
あれは幸せの傷だったんです。と。
最後にジーナは、こんな不思議な事を言った。
今でも夢の様です。
私が高校を卒業した時、
援助してくれた、あの老女にとても感謝しているのですが、
未だに、どこの誰だったのか分かりません。
それだけが心残りです。
ただ、あの時、
白髪で、
暑いのに、首にマフラーをつけ、
背中がまるまった老女の前で、歌った時、
不思議なんですが、
なぜか、
昔、私の顔に傷をつけた
首に怪我をして、死にそうだった
あの白猫の前で、歌っている様に思えたのです。