●社長の右腕




このお話は、昨日のブログ(●本堂を見ない男)の続きです。




従って、昨日のブログ(http://ameblo.jp/hirosu/entry-11259772220.html




を先にお読みください。


そしてから下をお読み下さい。
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突然、こんな事を聞かれた。


「神社にお参りに行く時、本堂の方を見ないで進んだ方が、


 願いが叶うっていう、そんな事聞いた事ある?」、と。


彼が務めている会社の社長は、大変な幸運の持ち主で、


仕事はとても順調で、多数の取引先に好かれ、新しくやる仕事も全て当たるという。


そんな社長は、毎月、近くの神社に参拝に行くというのだ。


社員のみんなも、社長の幸運にあやかろうと、社長と一緒にその神社に参拝に行くという。


ところがそこで、その社長は不可解な行動をするのだというのである。


普通、神社の鳥居をくぐると本堂を見ながら参道を歩いて行くの普通である。


しかし、社長は鳥居をくぐると、本堂の方を決して見ずに、うつむきながら、


ゆっくりとゆっくりと参道を歩くのだと言う。


あまりに社長がゆっくりと歩くので、他の社員達は、全員お賽銭をあげ参拝を終え、


ずっと、社長を待っている状態なのだという。


そこで、次回、その社員たちも、社長を真似て、


本堂を見ずに歩いたり、時間をかけてゆっくり参道を歩いてみた。


しかし、社長の様に幸運が訪れた者は無かったという。


こうして、冒頭の私への質問となったのである。


「神社にお参りに行く時、本堂の方を見ないで進んだ方が、願いが叶うって事ある?」、と。


私もそんな事は聞いた事が無かった。参拝する時に、本堂のどこかを見てはいけないのだろうか?


結局、社長の行動と、神社の幸運の関係は分からず仕舞いで彼らとは別れた。


私も不思議だと思いながらも、深く考える事も無く、それから1年が過ぎた。


そんなある日。偶然にも、その神社の近くを通る事があった。


私はあの時の事を思い出し、時間もあったので、その神社に参拝していく事にしたのである。


大きな鳥居をくぐった。特に変わった感じはしない、ごく普通の神社だ。


しいていえば、普通の神社よりも自然が多い感じで人も少ない。


そんな事を考えながら、私も参道を歩いて、本堂の方に向かった。


しかし、その時、私はある事に気が付いたのである。


あれ?そういえば、私も、本堂の方を見ていないじゃないか!


しかも、多分、他の人から見たら、


きっと、私も随分ゆっくり歩いている様にみえるのかもしれないなぁ!!


そうか、そうだったのか!


社長の行動と、幸運の謎が分かったように思えたのだ。


私にはそれ以外には、考えられなかった。
































その神社は、先に述べたように、


普通の神社に比べて、やや自然を感じさせる神社だった。





その神社の参道を歩いている時、



私は、本堂を見ずに下ばかり見て歩いていた。




それもゆっくりと、


それはまるで、あの時の社長と同じではないかと気づいたのである。








そんな私の足元には、

























たくさんのアリさん、忙しく駆けずり回って食べ物を探していた。






そうである。






その神社の参道には、


アリがたくさんいたのである。






私は、なるべくアリさんを踏まないように、踏まないように歩いていたのである。






それは多分、


あの社長も、同じであったのだろう。









社長もアリさんを踏まないように、




ゆっくりと、私よりもゆっくりと歩いたに違いない。








もちろん、アリを踏まない事と、


神社の御利益とは直接結びつくものは無いだろう。







でも、






例え、小さな命でも大切にする。






そんな気持ちは、


普段の生活や付き合いにも、なにげに出る物である。






それが、


結果、良い運、良い友、良い仕事に結びついているのではないだろうか。






また、アリとはいえ、神社にいるアリである。


何も無いとは言い切れない。










そういえば、同窓会の時、


彼はこんな事を言っていた。










ある日、


社長が長年、目をかけてきたある社員が辞めると言い出した。






もっと給料の高い所に転職し、


夜も働くのだという。







どうやら


その社員の母親の手術費用を稼ぐ為だったようだ。








しかし、


社長にとっても彼が辞めるのはショックだったようだった。





長年、目をかけてきただけに、


裏切られた思いだったのだろう。






翌月、行く予定だった社員の慰安旅行も、


急に行かないと言い出した。







また、


会社の中で出していたコーヒーやケーキなども中止となり、


社員の中には、


「楽しみにしていたのに、やる気出ないスよぉ。」とか


「暑い中、オヤツタイムだけが楽しみだったのに、がっかりだ」


という声が相次いだ。








社長は、急に社員に冷たくなった。 そう思われた。











やがて、


その社員が辞める日がやってきた。









その時の社長の言葉が、今でも忘れられない。









社長は言った。








母親を大切に、


新しい仕事場では、頑張って下さい。






いつでも戻ってきていいから、その時は歓迎するからね。



そして、少ないけど、


母親の手術代の足しにして下さい。






私の今月の給料と、


あと、ここにいる社員全員が、慰安旅行をキャンセルして、


毎日のオヤツを削ってくれた福利厚生費の合計です。


みんなの気持ちです。受け取って下さい。






そう言って、彼にお金を渡したのです。







正直、恥ずかしかった。



私達は社長を責めるだけで、


そんな事はいっさい考えなかった。




でも、社長は社員みんなからだと言って渡したのです。







それから何年かして、




その社員は再び社長の元に帰ってきた。


他の会社の技術を学んで。




今は社長の右腕として、会社を支えている。