●夢遊病の釣り師
このお話は、ある釣り好きな夫に関する相談でした。
釣りが好きである事は、別に変わった事ではありません。
毎週、週末になると朝3時頃に起きて、
海釣りに出かけるそうです。
そんな前の日には、エサや釣具の用意に余念がなく、
夜遅くまで準備をした後、友人と明日の釣り場の事などで電話しているといいます。
奥さんとしては、
たまには何処かに連れてってよ。と内心思っているそうですが、
今では、もう半分諦めているそうです。
そんなご主人に異変が起き始めたのは、
ある中古の釣竿を買ってからだといいます。
それはある日曜日、
その日は朝から夕方まで粘ったのに坊主だったという。
ちなみに坊主(ぼうず)とは、ここでは寺の僧侶の事ではなく、
釣り人の間で使われる用語で、
魚が一匹も釣れなかった事を「坊主」と言うそうです。
それで、ご主人は悔しかったのか漁村近くにあった中古釣具店で、
長年欲しかったという高級釣具を買ったそうです。
それはかなり高価な釣具だったようで、手持ちの現金では足りなく、
クレジットカードを使って買ったといいます。
それでも通常の半額以下という超お買い得品だったと、ご主人は自慢していたといいます。
今から思うと、
その釣具を買ってから、
ちょっとした異変はあったといいます。
それは、今まで釣具を家族の前ではあまりいじっていなかったのですが、
その釣具を買ってからは、たびたび
食卓で食事を待っている間に、釣具を触ったり眺めたりするようになり、
テレビを見ながらも、その釣具をいじったりしたという。
まぁ、それだけだったら、
長年欲しかった釣竿が安く手に入ったのだから、気持ちも分らなくはなかったというが、
異変はこれだけでは無かったのである。
それはある夜、起きたという。
夜中の2時半頃だったという。
奥さんが、トイレに起きると、ご主人がベッドにいないかった。
「トイレかしら」と思い、しばらく待っていたが、
なかなかトイレから戻ってこない。
「まさか、トイレで倒れているんじゃ?」と思い、
トイレに行ってみると、
トイレの電気は暗く、誰も入っていない。
ところが、応接間から
「シャーッ」という音がしたという。
応接間のドアを開けてみると、
真っ暗闇の中、あの釣具をいじっているではないか!!
しかも、
その釣具に話しかけているのだった。
「海に行こうな」みたいな。
彼女が電気を点けて、「あなた?」と話しかけると、
普段の夫では無い様な、目で私を睨んだという。
「あなた、電気も点けないで何やってるの?」
「・・・・」
やがて、釣具を置くとぐったりと、その場に倒れたという。
「あなた?」
起すと、それまでの事をまったく覚えていないというのだ!!
そして、翌日も
同じように暗闇の中、応接間で釣具をいじっている音がしたという。
その時は、声をかけなかったが、
朝までにはベッドに戻ってきて、何事も無く寝ていたという。
しかし、朝食時に昨夜の事を聞いても、
そんな事はしていないと言うのだという。
奥さんは、夫が夢遊病になったと感じて、
医者に行ったらと勧めても夫が否定するので、強く言え無いままにいた。
こうしているうちに、あの日がやって来たのである。
それは、
その釣具を海にもって行くと言う週末がやって来たのである。
その朝、奥さんはなんか嫌な予感がしたという。
よっぽど、「その釣具は持っていかないで!」と言いたかったのだそうだが、
その為に買った訳で、それを持っていかないで。とは言えなかった。
奥さんは、仏壇に、
「どうか主人をお守りください!!」
と祈るのが精一杯彼女に出来る事だったという。
しかし、
奥さんの嫌な予感は、当たってしまうのである。
やがて、一本の電話が奥さんの元へ。
後半は、明日のブログに続く。