●病院のベッドが怖い
これはある私がお世話になっている会社の部長の奥さんからの依頼だった。
娘さんが長期入院されている方で、
空き部屋が無いという事で、個室に入院していた。
しかし、
娘さんは、個室は淋しいから嫌だといって、
ずっと、大部屋の空きを待っていたのだという。
やがて、大部屋に空きが出た。
そして今日、荷物をまとめて
いざ大部屋に移動しようとした時であった。
部屋の移動の手続きが終わって、
移動先の部屋の前に来た時である。
何を思ったのか、
娘さんが急に、
部屋を移るのは嫌だとゴネ始めたのである。
理由を聞いても、何も答えない。
ただ、今日は移りたくないというだけなのである。
看護婦さんは困って、母親に来てもらったのだが、
娘さんの意志はかたく、理由も言わない。
「あんなに個室は嫌だって言ってたじゃないの?
移らなくていいの?」と聞くと、
「移りたいけど、今日は嫌だ」と訳の分らない事を言うのだ。
「今日は嫌だって、どういう意味?
明日ならいいの?」と聞くと、
娘さんは分らないという。
実は部屋の移動の手続きが終わっていて、
運悪く、もめている間に、
元の個室には他の人が入る手続きが終わっていたのである。
こうして、もう元の部屋にも戻れなくなっていたのだ。
状況を話すと、家に帰ると言い出した。
すっかり困ってしまったお母さんであったが、
やがて、
その理由が分る時がやってきた。
しばらくして、
看護婦さんが、部屋から出て行った時である。
すると、
娘さんは、お母さんに嫌がった理由を話し始めたのである。
話は3日前にさかのぼる。
彼女は病院内で、ある女の子と親しくなった。
その女の子は彼女よりも1ヶ月長く入院していて、
彼女よりも病院内の事に詳しかった。
そして、その子いわく、
210号室の通路側のベッドに入院する人はよく死ぬのだという。
もしかしたら、
連鎖的に次から次へとあの世に連れて行くのかもしれないと言うのだ。
そして、今、
入院しているおじさんも、きっと近い内に死ぬよと言うのだ。
そして、そのおじさんが死んだ。
つまり、
今日、大部屋が空いたというそのベッドは、
そのおじさんが、亡くなったばかりの210号室の通路側のベットなのである。
まだそのおじさんのぬくもりが残っている様なベットなのである。
そこで寝ると、
夜中に、亡くなったおじさんが来て、
自分もあの世に連れて行かれると言うのだ。
娘さんは、かたくなに知り合いの女の子が言っていた事を信じていた。
何よりも、女の子の予言が当たって、
おじさんが亡くなったという事実があるだけに、
お母さんがどんなに、そんな事は無いと説明しても耳をかかさないのだ。
亡くなったおじさんの霊が、私を迎えに来るという娘さん。
そんな事は無いというお母さん。
二人の意見は交わる事はなく、
お母さんはすっかり困ってしまったのである。
そこで、私が呼ばれたのであった。
お世話になっている会社なので、ここは電話で済ませるよりも。と、
私は、直ぐに病院に行く事にした。
実例を目の前にしているだけに、
娘さんを納得させるには困難が予想された。
後半は、明日のブログに続く。