●ある自閉症の子供の前世
夢の事を鮮明に覚えている人がいる。
「先生、私この前こんな不思議な夢を見たんです。」
と相談に来る人もいる。
ある時、
こんなリアルで不思議な夢を見たというご婦人が来られた。
これからお話するのは、
信じられない話かもしれないが、
まったくあり得ない話とは言えない何かを感じたのである。
水を一杯飲むと、
彼女は、自分が見た不思議な夢の話を、語り始めた。
場面は、
ある貧しい村だったという。
その村の外れに、一軒の母子家庭の家があった。
母親の名前は、とめ。
娘の名前は、雪といった。
ほとんど食べ物が無かった。
その時、誰かが扉を叩く音が聞こえる。
「雪さん。ボクです。」
雪が扉を開けると、
そこには、ちょっと育ちの良さそうな青年が立っていた。
彼は腕の中に、
魚とか芋とか沢山の食べ物を持っている。
「勇樹さん!!」
彼は、影ながら雪を好いていた。
しかし、家柄が違うという事で、両親から交際を反対されていて、
結婚出来ない仲だったのだ。
「勇樹さん。こんな所に来てはダメですよ。
またご両親に殴られますよ。」
「大丈夫、父は仕事で隣町に行っているんだ。」
そう言うと、勇気は、
持ってきた魚を焼き始めた。
「御母さん、美味しい魚を食べて早く元気出してくださいね。」
「ありがとう、勇樹さん」
雪は、時々食べ物を持ってきてくれる勇樹が心配だった。
もし食べ物を持ってきて貰えなかったら、
きっと私も母もとっくに飢え死にしていただろう。
でも、
いつか勇樹が大変な事になってしまわないか心配なのだ。
結婚できない私に、
こんなにしてもらってすまないという気持ちで一杯だった。
勇樹は、3日に1回は、
沢山の食べ物を持ってきてくれた。
「今日は山に行って来たんだ、
この薬草はきっと御母さんに効くと思うよ。」
そういうと笑顔で帰っていった。
母さんは勇樹の後姿に向かって、合掌して何度もお礼を言っていた。
そんなある時、
1週間経っても、勇樹が来ない。
食べ物はどうでもよかった。
それより勇樹の身の上に何か起こったんじゃないか。
雪は、
心配で、心配で夜も寝れない。
彼の家に行ってみよう。
翌日、
雪は、勇樹の家に行ってみた。
しかし、
門番が居て中に入れない。
「勇樹は元気かしら?」
ただそれだけでも分ればよかったのだけど。
4時間程、門の外で待ったが誰も出てくる気配が無かった。
雪は、帰るしか無かった。
それから1ヶ月が過ぎた。
雪はなるべく自分は食べずに、母に食べさせた。
自分は3日に一度でいい。
勇樹さんの事は毎日、無事であるように祈っていた。
そんなある日、
雪が畑仕事を手伝っている時である、
他の人が話している噂話が耳に入った。
ある大名の息子が蔵から食べ物を何度も盗んで、
お仕置きを受けて監禁されているというのである。
「勇樹さん」
雪には直ぐにそれが勇樹さんの事だと分った。
「勇樹さん。
ごめんなさい。
私達の為に・・・・」
家に帰ると、母が倒れていた。
薬も無く、薬草も無く、
ろくな食べ物も食べていなかった為に病状が悪化したのだ。
母親はその3日後に亡くなった。
悲しみと空腹と寂しさが雪を襲った。
翌日、
粗末な葬式をしている時である。
いきなり2・3人の男達が、雪の家の上がりこんできた。
「これからのお前の面倒は俺達がみてやるよ。
来い!!」
男達は、乱暴に雪を連れ去った。
まだ若くて可愛い雪が、
天涯孤独になったという話を聞きつけて、
その村を取り仕切っていると思われる偉い人が、
雪に目をつけたのである。
身内が誰も居なくなった娘をさらっても、
誰も気にしない世の中だった。
村の偉い人は、
雪を慰みものにする為に部下にさらわせたのだった。
雪は豪邸の蔵に一時的に閉じ込められていた。
夜が来た。
「汚されるくらいなら、いっそ死にたい。
勇樹さん。」
その時だった。
暗闇にかすかな音がした。
鍵を開ける音だった。
「雪さん?」
勇樹だった。
「君がさらわれたという噂を聞いたんだ。
大丈夫かい?」
「勇樹さ~ん。」雪は泣いた。勇樹の腕の中で泣いた。
勇樹は大金をここの屋敷の見張りに渡して鍵を手に入れたのだった。
「早くここを出よう。
逃げるんだ。」
「ふたりで逃げよう。」勇樹は言った。
「でも勇樹さんは・・・」
「オレは家を捨てる」
ふたりは逃げた。
雪は勇樹と一緒にいるだけで幸せだった。
川の近くまで逃げた時、
豪邸付近が急に明るくなり、騒ぎ始めた。
雪が逃げたのがバレタのだ。
沢山の馬が走る音がする。
ふたりは素足だ。
このままじゃ追いつかれる。
「船に乗ろう!!」
船着場にある船のロープを持ってきた短刀で切る勇樹。
しかし、
追っ手が船着場に居るふたりを見つけた。
ギリギリ船に乗ること出来たが、
追っ手が馬で追いかけながら、矢を沢山放ってきた。
勇樹は、
「大丈夫だよ。雪さん。
この川は流れが速くて、
それにもう少し行くと渓谷だから、追っ手は来れないよ。」
そう言うと、雪の体の上にかぶさった。
矢が雪に当たらないように、自分の体を盾にしたのだ。
「私が貴方を守ります。
一生守ります。雪さん。」
ふたりはそのままのかたちで、いつしか眠ってしまった。
船は夜明けには、
渓谷を通っていた。
両側のきりだった岸壁は、追っ手が来れない事を表していた。
「勇樹さん。もう大丈夫かしら?」
しかし、
勇樹の返事がない。
「勇樹さん。」
恐る恐る勇樹を見ると、
なんと、
勇樹の背中に2本の矢が刺さっていた。
どんなにか痛かった事だろう。
勇樹は、雪に心配かけないように、痛みを我慢していたのだ。
「勇樹さん、勇樹さん!!」
勇樹は虫の息だった。
「勇樹さん、私の為にごめんなさい。ごめんなさい。」
命が尽きようという最後の瞬間、
勇樹は、
「君の事が好きでした。
幸せにしてあげられなくて、ごめんね。」
「いや、死なないでください。
私は幸せでした。
貴方に会えるだけで、幸せでした。
勇樹さん。勇樹さん・・・・」
勇樹は、雪の腕の中で息絶えた。
雪は、勇樹の亡骸をいつまでも抱いていた。
ここで、夢は覚めたという。
ご婦人は話終えると、
「なぜ、こんな夢を見たんでしょうか?」と尋ねてきた。
私は「なぜでしょうねぇ」
しばらく考えてから、
「夢で現在とはまったく違う世界の様子が出てきて、
その場面にまったく覚えが無い時、
人は希に、
自分の前世の事を、夢の中で見ている時があります。」
「私の前世を夢で見たのでしょうか?」
「そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。
でも、
もし、そうだとしたら、
夢の中の主人公の雪は貴方でしょう。
そして、
貴方を守った勇樹という男性がもう一人の主役です。
貴方が見た夢はこの2人の人生を表していますから。」
「どう解釈したらいいのでしょうか?」と婦人。
「もし、貴方が見た夢が貴方の前世なら、
雪は貴方、そして、
貴方を助けた勇樹は、
現在、
貴方の近くにいる人の可能性があります。」
「私の近くに?」
「そうです。
例えば、男の人で、
名前に「勇」か「樹」がつく人が近くにいるとか・・・」
すると、彼女は急に泣き出した。
私の近くにいます。
私の子供です。
勇介と名づけました。
「勇」の字をつけたのは私なんです。
話を聞くと、
彼女の子供は自閉症で、育児がとても大変で悩んでいたという。
つらくて、悲しくて、
一時期、死ぬ事もふっと考えた事もあったという。
そんな時、
決まって勇介が笑顔で側によってきたという。
無垢な笑顔が、何度彼女を力付けたことか。
もしかしたら、そんな彼女に守護霊が、
不思議な縁を、夢で見させたのかもしれないし、
または・・・・・・
彼女は帰りがけに、
今度は私が助ける番です。
勇介を大切に育てます。
ありがとうございました。と言って帰っていった。
または・・・・
本当に、今の彼女と子供が、
雪と勇樹の生まれ変わりなのかもしれない。
「今度は私が勇樹を助ける番です。」
といった彼女の言葉が今でも忘れられない。