●行方不明とチィちゃんのパン




東日本大震災悲しみが深いのは




1万5000人以上が、まだ行方不明になっている事である。






自衛隊の捜索チームに、


息子の安否を生死に関わらず お願いする夫婦や、






子供の死亡は確認できたが、


孫の行方が分らないので、


今も、朝から晩まで探し続けているお爺さん。


彼は言う。


「見つかるまで、探し続けますよ。」







また、


震災当日が午後2時46分だっただけに、


親と子が離れてしまっているケースも少なくない。








ある保育園で、


今もお母さんが迎えに来てくれるを待っている女の子がいる。


チィちゃん(仮名)の両親も行方不明だ。




近所の人の話では、


チィちゃんのお母さんが津波にさらわれるのを目撃したという情報もあるが、



チィちゃんには言っていない。






震災当日、


保育園では、お昼寝時間だったという。




大きな揺れで、先生達は子供達を抱きかかえたり、手をひいて高台に逃げた。



しかし、2日たっても、3日たっても、


チィちゃんのお母さんは迎えに来ない。




いつも、仕事帰りに


チィちゃんの大好きなパンを買って迎えに来てくれるお母さん。




そんなお母さんが、


迎えに来てくれる時間になると、


今でも門の辺りまで探しに行く時があるという。




家に帰してあげたいところだが、


チィちゃんの家は、津波で流されて、何も残っていない。







一週間たった時、





チィちゃんがポツリとつぶやいた。







「チィ、ママに捨てられちゃったのかなぁ」






それを聞いた先生は、





「そんな事ない!


 そんな事ないよ!!チィちゃん!!




 きっと、迎えに来る。


 必ず、迎えに来るよ。



 チィちゃんの大好きなパンを、たくさん、たくさん、抱えて、


 迎えに来るからね。




 必ず、迎えに来るんだよ!」




と言ってしまった。





それを聞くと、少し元気を出して、


「チィも、ママにパンを作ってあげる」と言い出した。




その日は全員でパンを作った。



チィちゃんも、自分の分とママの分のパンを作った。



しかし、


みんなが食べるのに、


チィちゃんだけパンに手をつけない。



どうして食べないの?と聞くと、




「お母さんと一緒に食べる」と、きかないチィちゃん。



先生は、なんとかチィちゃんをなだめすかして、自分の分だけでも食べさせた。




「先生、よく出来たでしょ?」


「とってもよく出来たわよ。お母さんもきっと喜ぶわね」




チィちゃんは、パンの横にお母さんへの手紙も添えていた。




先生はその手紙を見て、


泣かないようにするのが精一杯だった。




「チィはいい子にしてます。





 
 捨てないでください。」











先週、


チィちゃんのお母さんらしき遺体が見つかったので、



本人確認に来て欲しいという電話が入った。




しかし、


誰が、チィちゃんに、


「これは貴方のお母さんですか?と、聞けるだろうか


 変わりはてた死体に会わせられるだろうか?」






先生が代わりに確認しに行った。


結局、人違いだったが、ほっとしたと同時に、


このままずっと行方不明という将来にも危惧したという。






行方不明は亡くなっていると確定している訳ではないので、


死んだとは言えない。



この先、


あきらめさせるタイミングなど、あるのだろうか。






最後に、先生は言う。




「私に出来る事なんて、こんな事ぐらいしかありません。」



そう言うと、ひとりパンを作り始めた。






チィちゃんは時々冷蔵庫をチェックしているんです。





だから、チィちゃんが寝ている間に、こっそり









冷蔵庫に入っている、チィちゃんがママの為に作ったパンが、


腐りかけてきたのを、新しいパンに交換してあげていた。