●待っている母親
桜島が見える所で、一人の男の子が生まれた。
しかし、
出生後まもなく、
インフルエンザになる。
「つよし! 生きて!」と母が祈る。
生死の境をさまよう、つよし。
医者が「今夜が山」ですと言う。
翌朝。
「生きてた!」
つよしは、生きてた。
「よう頑張った」と涙の母。
幼い頃は体が非常に弱く、
つよしは、よくゼンソクの発作を起こした。
そんなひ弱なつよしの生活は、病院通いが常だった。
母をどんなにか心配させたことだろう。
高校時代、
通りすがりの二人組みの学生に、
何でか知らないけど
「顔が気に入らない」って蹴られた。
理由が「顔が気に入らない」って、
「世の中って理不尽だな」と、つよしは思った。
それから強くろうと思った。
いろんな方法考えた。
それ以来、口癖は、
「今にみてろ。」
ある日、
母が、がんに侵され痴呆症になった。
その頃、つよしは苦労の末、歌手になっていたが、
つよしは、まわりに母の痴呆を隠そうとはしなかった。
痴呆の母ちゃんに宛てた歌を作って、みんな披露もした。
痴呆がなんや、母ちゃんは母ちゃんや。
母ちゃんに話しかける歌も作った。
そんな母の危篤(きとく)を知った時、
つよしは、遠く、ハワイにいた。
「母ちゃん、今帰るで、
必ず帰るで、
まだやで、頑張ってくれ」
しかし、
母がいる病院からは、
あと24時間も持つかどうかと言ってくる。
「今帰るから、死ぬなよ、母ちゃん!」
直ぐにでも帰国したかったが、日本への便がなかった。
キャンセル待ち。
時間だけがむなしく過ぎてゆく。
中国人のチュウさんが、必死に駈けずり回ってくれた、
そして、
たまたまハワイに来ていた日本人がチケットを譲ってくれた。
みんな、ありがとう。
もしかしたら、という奇跡を信じて飛行機に乗る。
「母ちゃん、頑張ってくれ、死ぬなよ!
母ちゃん、ふんばれ!」
飛行機が無事成田に着く。
しかし、
その時、病院から電話、
血圧45、もうアカン!!
人工呼吸に変わったと連絡が来る。
「母ちゃん、ぶんばれってくれ!」
「死ぬなよ!」
タクシーに飛び乗る。
「まだや、
まだやで、母ちゃん!」
病院に到着した時にはもう意識がほとんどない。
看護婦さんが、
「早く、早く」
つよしは、病室に入ると、一直線に母の手を握った。
「母ちゃん、帰ったで、母ちゃん!」と何度も母の手を握りしめた。
きつく握りしめた。
まだ温かい!
「生きてた!生きてた!」
「かあちゃんが、生きてた!」
「母ちゃん、頑張ったな、よう頑張ったな。」
「よう頑張ったで、母ちゃん、よう頑張った!」
「つよしやで。」
最後の最後に、
母ちゃんは、つよしの耳元に、
必死で、
それはもう必死で、
息をふり絞り、
小さく何か、
言ったような息を吹きかけた後、
亡くなった。
「もういいよ!」
「もういいよ!母ちゃん」
「よう頑張った!」
「ゆっくり休んで!」
小さい頃から、
母ちゃんは、
最後まであきらめるなと教えてくれた。
そして最後までも、
こんな奇跡を・・・
「オレも、あきらめんかったやろ。」
「ありがとう。偉大な母ちゃん」
その後、長渕剛さんは、
その時の様子を5枚の原稿用紙にして発表している。
私の好きな長渕剛さんの歌
https://www.youtube.com/watch?v=hrBR7PCsqbE
END