●帰ってくる箸
帰ってくる箸(はし)とは、どういうことか、
箸は生き物ではない、
なのに、帰ってくるとは、
これは信じられない話ですが、
実際に昨年起こった事です。
友人の父親が亡くなった。
死後それ程たっていない時の事である。
朝、ゴミを出すのは、
どこの家でも見られる光景でしょう。
その友人の家でも、
その日も、
母親がゴミをまとめて、
息子がゴミ捨てに行くという日常であった。
息子はまとめてあったゴミを持つと、
ゴミ捨て場へと向かった。
歩いていると、
ふと、
ゴミ袋を持つ手に、当たる物があるのを感じた。
木の枝かな?
それを取り出して、
よく見ると、
それは、
父親の箸だった。
あれ?
箸が1本だけこんな所に、
息子はたいして気にならなかった。
多分、
母が片一方を無くしたか、
折ったかしたのだろう。
ゴミをゴミ捨て場に置いたら、
またその箸を袋に刺して捨てておこうと思い、
箸を左手に、
ゴミ袋を右手に持って、ゴミ捨て場に向かった。
すると、
ゴミ捨て場に近づくにつれて、
右足に、また当たる物があった。
その当たる物は、
ゴミ捨て場に近づいた時、とうとう袋から顔を覗かせた。
なんと、
それは、
「父親の箸だ!」
さっきのもう片方の箸だったのだ。
さすがに、驚いた息子は、
私に電話してきた。
私は彼に聞いた。
「もしかして、君のお父さん
まだ、亡くなってから49日迎えていないんじゃないのかい?」
「はい、あと20日で49日だけど・・」
「それ、偶然じゃないと思うなぁ」
「君のお父さん、まだ家族と一緒に居たいんだと思うよ」
「一緒に食卓につきたいんだよ」
実は、
人は亡くなってから49日を迎えるまで、
家で家族と一緒に、
普通に過ごしたいと願っている。
ほとんどの場合、
自分が亡くなった事は感じているようだが、
家族と共の日常を過ごしたいと思うようだ。
そんな時、
自分が毎日使っていた食器や靴や洋服・箸などを
捨てられるのは、ともて悲しいのだ。
「まだ、僕の箸、捨てないでくれよ」
と言う心の叫びが感じられる。
私は彼に言った。
「少なくも、
父親が普段愛用していた物については、
49日が過ぎるまでは捨てないであげて」っと。
その後、
彼の家では、
49日を迎えるまで、
父親が居ると思って、食事時には、
父親の分も食器を出して、食べたという。
父親の笑顔が見えるようだ。