●亡くなったアーティストの未練
私がアメリカに留学している時の話である。
毎年クリスマスになると、
海外からアメリカに来ている留学生のうち、
帰国できない留学生は、
学生寮で1人クリスマスを過ごすのは可愛そうだということで、
現地のアメリカ人が、
自宅に招待してくれる制度があった。
まぁ、私も帰国できない可愛そうな留学生ということで、招待されていた。
そういう学校ボランティアの人は沢山いるのだが、
私を招待してくれた方は、
70歳位のおばあさんだった。
一人暮らしのおばあさんにとっても、
沢山の若者と一緒にクリスマスを祝いたいのだろうと思った。
おばあさんは、腕によりをかけて、
アメリカのクリスマスを留学生達に体験してもらおうと、
すごいご馳走を作ろうという気合が入っていた。
リビングには暖炉があり、焚き火が燃えていた。
アメリカの家には暖炉がある家が多い。
暖炉の上は棚になっていて、
沢山の綺麗なクリスマスカードが飾ってあった。
リビングはやや暗く、
そこに大きなクリスマスツリーがあった。
おばあさん、こんな大きなツリー、みんなの為に飾ったんだなぁ。
私を含め、10人位の留学生たちは、
そのツリーのネオンと飾りにしばし見惚れていた。
そして、一人づつ、招待してくれたおばあさんに お礼として、
何かしらのプレゼントをツリーの下の置いていった。
私も、日本から持ってきた扇子と服が入った包みを置いた。
と、その時だった。
私は、後ろから誰かの視線を感じて振り向いた。
しかし、
後ろは壁だったのだ。
でも、たしかに誰かの視線を感じた気がした。
「・・・・・・・」
壁には1枚の写真だけが飾ってあった。
名前が書いてあり、
それから察するに おばあさんの子供と思われた。
写真の男性はバイオリンを持っていた。
私は、おばあさんの手伝いに来ていた親戚の子に聞いた。
「この写真の人は、おばあさんの息子さんですか?」
「そうですよ。」
「10年前に亡くなったんですが、バイオリニストだったんですよ。」
もし、
この人の視線を感じたのが本当であれば、
成仏していないのではないか。
そう思った。
失礼だと思ったが、
その親戚の子に聞いてみた。
「このGeorgeさんは、どんな亡くなり方をされたんですか?」
「心臓発作だったんだよ」
「心臓発作?」
そうか、心臓発作か。
じゃあ、気のせいだったかな?
と、そう思っていたら、
「でもね、
可愛そうだったんだよ。
夢だった憧れのドーム公演の直前での急死で、
泣きながら亡くなったんだよ。」
「そうなんだ。」
そんな話をしていると、
「みんなぁ、お待たせしました。
OK!!ディナータイム!」という声がして、
夕食になった。
おばあさんは、はりきって、大きな七面鳥を焼いてくれた。
七面鳥の中には、
スタッフというパンと内臓を煮たものが入っていて、とても美味しかった。
楽しい時が過ぎるのは早い。
あっという間に帰る時間となった。
私は、食事中もずっと、迷っていたが、
おばあさんには直接言わず、
親戚の人に、おばあさんに伝えてもらうことにした。
「後で、おばあさんに伝えてください。」
出来れば、2つの事をしてあげて下さい。
1つは、
壁にかかっている息子さんの写真を、
ドーム公演が行われる予定だった所に持っていってあげて下さい。
そして、その時、バイオリンも持っていってあげてください。
もう1つは、
息子さんの命日には、
写真の前に、
愛用していたバイオリンとドーム公演で演奏する予定だった楽譜も一緒に置いてあげてください。
きっと喜びますよ。
そして、おばあさんにもきっと良い事がありますよ。
とお伝えください。
玄関でお別れの時、
みんな、おばあさんとハグした。
アメリカ流だ。
「今日はどうもありがとうございました。」
「料理とても美味しかったです。」
さよなら、おばさん。
いつまでもお元気で・・・
私は、おばあさんに、
息子さんが成仏していないかもしれない という事は言えなかった。
いや、言ってはいけないと感じた。
人は、時に大きな未練を残して亡くなると、
成仏の妨げになる時がある。
でも、
もし、アドバイスの事をしてもらったら、成仏できるかもしれない。
その後、おばあさんとは会っていない。
異国での、
良いクリスマスの思い出を、
どうもありがとう。