●ピンクのリボン
宮崎県にある、
牛を育てる農家に、一匹の子牛が、生まれようとしていた。
「がんばれ!」
「もう少しだ!」
小さな命が、まさに今、生まれた瞬間である。
この家でも、
うちの牛はみんな自分の子供だと思ってる。
という気持ちで牛に接していた。
しかし、
そんな大切な子牛が生まれたというのに、
家族全員が沈んでいた。
というよりも、
むしろ、
生まれた事が、よりいっそう家族の悲しみを深くしていた。
なぜなら、
この家では、牛に口蹄疫は見つかっていない。
それなのに、
病気でもない牛を殺さなければならないのには納得がいかなかった。
しかし、
この地域全域の牛の全頭殺処分が決まっていたのだった。
そしてその殺処分が今日だった。
「かわいそうに」
「今日生まれて、今日殺されるなんて」
「父さん、子牛にお母さんのおっぱい飲ませてあげようよ」
「そうだな。お母さん牛も喜ぶだろう。」
子牛は生まれて初めてお母さんのおっぱいを飲んだ。
「たくさん飲むんだよ。たくさん・・・」
子牛は、可愛い顔をして、
また明日飲むよ。という顔してこっちを見ていた。
涙が出た。
この子の皮肉な運命に涙が出た。
そして、何もやってあげられない自分達にも。
やがて、
殺処分のトラックがやってきた。
子牛はこの世に生を受けて半日しか生きられない運命だった。
奥さんが家の奥から走って出てきた。
何かを昨日夜なべで作っていたものだ。
「誕生日プレゼントだよ」
「こんなプレゼントで、ごめんよ!」
そう言うと、子牛に、
ピンクのリボンをつけてあげた!!!
やっぱり女の子だねぇ。
とっても可愛いよ。
それは大きく、
沢山の牛が居ても、
直ぐに、そこにピンクのリボンの牛が分るというものであった。
お父さんが、運転手に頼んでいた。
「父さん、何頼んだの?」
「子牛を助手席に乗せてもらんだよ。」
「どうして?」
「この子、今日産まれただろ、
一度だけでいいんだ、
一度だけでいいから、
走った気分にさせてやりたいんだよ。」
「今度生まれてくる時は、自分の足で走るんだよ!」
子牛は、特別に助手席に乗せてもらった。
「よかったね。助手席に乗せてもらって」
ピンクのリボンをつけた子牛は、助手席の高い所からまっすぐ前を見ていた。
お別れの時が来た。
奥さんは泣きながら、
子牛に語りかけた。
「今度生まれてくる時は、幸せになるんだよ。」
「ごめんね。」
「ごめんね。」
奥さんは、
最後に、
牛を殺処分する人に頼んだ。
「どうか、お願いします」
この子が今付けているピンクのリボンと、
同じピンクのリボンをしている、お母さん牛が後ろにいます。
この子の、お母さんなんです。
どうか、一緒に、
どうか、一緒に、
埋めてあげてください。
おねがいします。
一緒に・・・
最初で最後の
親子でおそろいのピンクのリボンだった。
涙でトラックが、段々見えなくなる。
「ごめんね。・・・さようなら。」