彼はオーブンから出したばかりの、まだ砂糖が固まっていない温かいシナモン・ロールを出した。彼はバターとバター・ナイフをテーブルの上に置いた。パン屋は二人と一緒にテーブルについた。彼は待った。彼は二人がそれぞれに大皿からひとつずつパンを取って口に運ぶのを待った。「何かを食べるって、いいことなんです。」と彼は二人を見ながら言った。「もっと沢山あります。いっぱい食べて下さい。世界中のロールパンを集めたくらい、ここにはいっぱいあるんです」
……
読み返すたびに、玄関の灯りに辿り着いたような小さな温かさを感じずにはいられない箇所だ。わたしの大好きな。人生には、思いもよらない時点で思いもよらない局面に出くわすことが何回かあるだろうけど、ふと目を凝らしてみると、そのときに魂みたいなものの深い闇が見えるのかもしれない。それが救いになるのかどうかなんて、もちろんわからないのだけど。