訳者あとがきで村上春樹さんは「彼は本当にオリジナルだったのだ。それは彼にしか描くことのできない世界であり、それは彼にしか用いることのできない言葉だった。彼はその世界と言葉を、自らの人生を絞りきることによって体得したのだ」と語っていた。例えば、タイトルの作品では、突然の事故で子どもを失った夫婦と、人生が破滅したパン屋の主人が、さまざまな局面を迎えた末に、寒々しい冬の夜、パン工房の小さなテーブルを囲みながら、果てしなく続くかのように思われた空腹を満たすように焼き立てのロールパンを食べ、しずかに語り合い、魂を交わらせていく様子が描かれている。救いなんてどこにもない話なのだけど、それでも生きるしかない人間たちの裸の魂がただそのまんまに描かれていて、それが読み手にとってある種の救いになるような温かさを感じた。きっとそれは著者の人間的な温かさであって、それらがストーリーの隅々にさりげなく散りばめられてるような短篇集だった。私にとっては、それが意味のあることだったし、出会えて本当に良かったと思った一冊でした。
今夜は豚肉と高菜のにゅうめん、春菊のお浸し、納豆とモヤシナムルの和えものなど。
