皆さんは、大相撲の「初代若乃花」(敬称略:以下同じ)をご存じでしょうか。兄弟横綱で「若・貴」として大人気だった「三代目若乃花」と「二代目貴乃花」の叔父にあたる人で、戦後最軽量でありながら横綱になり、栃錦とともに「栃若時代」を築いた名力士です。「土俵の鬼」と呼ばれていました。

 初代若乃花は、私がまだ幼かったころに活躍していたので、私はリアルタイムでこの方の取り組みを見たことがありません。そんな私が、なぜ初代若乃花のことを話すのかと言えば、それはある時偶然見たYouTubeの映像にあります。

 それは「第45代横綱 若乃花」と題した映像で、私はその映像を「ものすごい足腰の強さだな」と思って見ていたのですが、その映像の途中に流れたある技のところで目が釘付けになってしまいました。それは「呼び戻し」という技で、通称「仏壇返し」と呼ばれています。若乃花が繰り出すこの技を見て、私は「これは力だけで投げているのではない」と思いました。確かに、鍛え上げられた大きな体を持ち日々激しい稽古を積んでいる力士を投げるのには、足腰を中心とした強靭な力が必要だと思いますが、初代若乃花の「仏壇返し」を見た時に、「それだけではない。これは合気道の技に似ている」と思ったのです(余談ですが私は合気道を二十数年稽古しました)。

 まず、以下の映像を見ていただけるでしょうか(1分30秒あたりからです)。

 

 

 スローモーションのところを見ると、一瞬引いて小さく円を描くようにして前に投げているのが分かります(通常の映像では早すぎて見えません)。

 

 合気道の鍛錬方法に「呼吸法」というものがあり、また技としては「一教」、「呼吸投げ」がありますが、私は、初代若乃花の仏壇返しは、これらの合気道の技と共通する「理合い」を持っていると思います。全ての合気道の技に共通しているのは、「腕力」ではなく「呼吸力」で技を掛けるということです。この「呼吸力」というものは言葉での説明が難しいのですが、自分の経験からお話しすると、この力がうまく出ると、相手の抵抗力を全く感じることなく勝手に相手が倒れる、ということになります。この力を出すのは非常に難しく、体に少しでも力みがあるとうまくいきません。長年稽古をしていても本当に難しいです。

 

 

 

 

 初代若乃花の仏壇返しの映像を見ると、強靭な足腰の力があることはもちろんですが、力だけで投げているのではなく、一瞬のうちに相手の身体が浮き上がっているのが分かります。 

 体格的には劣っている初代若乃花が、日々の厳しい稽古の中で体で会得した技なのだと思いますが、私は若乃花の仏壇返しを見て、「どのような武道であっても、極めれば同じ境地にたどり着くのだな」と感慨深く思いました。

 

 私が尊敬する若き合気道家の「白川竜次」先生がアップされているYoutTubeの映像に「220kgの元力士に合気道は通用するのか?」というものがあり、とても興味深いです。

 

 

※ Xに画像を投稿しました(2024.6.3)

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