Vol.81【藤子・F・不二雄の「劇画・オバ」①】の続きです。

 この作品「劇画オバQ」は、楽しく過ごした少年時代から15年経ち、大人になった正ちゃんたちのところに、昔と変わらないQちゃんが訪ねてくる物語です。大人になり「生活」をしなければならなくなった正ちゃんたちと、昔と変わらず夢の中で生きているQちゃんとの対比で、心の中に子供時代の夢を封印して生きて行かねばならない、人生の残酷さを静かに描いています。

 以下、あらすじの続きです。

 やることがなくヒマなQ太郎は、「そうだ!15年前に住んでいた家に行ってみよう!」と、空を飛んで出かけます。しかし、正太の家があったところには大きなマンションが建っており、Q太郎がタマゴから生まれた雑木林はゴルフ練習場になっていました。Q太郎がしょんぼり歩いていると、後ろから声がかかります。「よっ!オバQじゃないか!」。Q太郎が振り返ると、そこには大人になったゴジラ(ドラえもんのジャイアンのようなキャラクター)が立っていました。ゴジラは実家の家業を継いで、今では乾物屋の主人です。ゴジラは言います。「生きてたか、こん畜生!。そうだ、仲間を集めておくから、今夜おれんちに来いよ!」。

 その夜、ゴジラの家にこどもの頃の仲間が集まりました。キザ夫は相変わらずキザな雰囲気です。可愛かったよっちゃんは二人の子のお母さんです。ちょっと遅れて正太も来ました。「あとはハカセだけだな。あいつは頭はいいけど、ついでに人までいいから失敗ばかり・・」とゴジラは言います。「要するにガキなんだよ。早くおとなにならなきゃダメなんだよ!」とキザ夫は言います。

 その時、部屋の外で「ワン!」という声がして、犬が嫌いなQ太郎は「キャア!」と飛び上がります。ハカセでした。「このとおり子どもっぽくてすみませんね。若ハゲは進行したけどね」と言っています。

 ハカセは「今日はいいものを持って来たんだ」と言いながら、ポケットから何かを取り出します。それは、こどもの頃みんなで無人島に行って、「僕たちだけの島だ!」とそこに立てた旗でした。子供時代の思い出話で盛り上がります。ひとしきり話が終わって、その旗を見て正太はつぶやきます。「大人になるにつれて、いろいろな夢が一つ、また一つと消えて行って・・」。それを聞いて、酔って顔を真っ赤にしたハカセが突然大声で言います。「そこだ!なぜ大人になったからと言って、夢を消さなきゃならないんだ!僕は嫌だ!たとえ失敗しても後悔しないぞ!」

 やはり酔って顔を真っ赤にしたゴジラが、それを聞いて泣きながら言います。「いいこと言うぞ、このハゲ!おめえはまだ立派なこどもだぜ!」。やはり酔っている正太が言います。「ハカセ、僕は卑怯者だった!君の計画に参加させてくれ!妻にはつべこべ言わせない!」。

 ほかのみんなも口々に「参加させてくれ!」と言い出します。「この旗に集え、同志よ!俺たちは永遠のこどもだ!ニューボがなんだ、会社がなんだ!」と大騒ぎです。

 翌朝、正太は二日酔いの頭を抱えて起きてきます。奥さんが「あなた、話があるの」と言って、話し出します。奥さんの話を聞いた正太は、Qちゃんに言います。「聞いたかQちゃん、僕にこどもができるんだ!」。そして、張り切って会社に出かけます。

 Q太郎は思います。「そうか、正ちゃんにこどもがね・・。ということは、正ちゃんはもうこどもじゃないってことだな・・」。そして、Q太郎は誰にも告げずにオバケの国に帰って行きます。空を遠ざかっていくQ太郎の姿がだんだん小さくなります。

 私は、黒澤明監督の映画「生きる」の葬儀の場面で、酒に酔った市役所の職員たちが「明日からは本当の仕事をするんだ!」と口々に言っていたことを思い出しました(翌朝にはみんな元のとおり無気力な仕事ぶりに戻るのですが)。

 

※ ツイッターに画像を投稿しました(2023.11.22)。

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