私は、春や秋のよく晴れた日に、家庭菜園での作業が一段落した時に、畑の片隅で小さな折畳みイスに座り、暖かい日差しや涼しいそよ風を感じながらぼーっとしているのが好きでした。

 春には、リーフレタス・小松菜・ラディッシュなどがどんどん大きくなり、支柱を立てて苗を植え付けたきゅうり・ミニトマト・ピーマン・なすなどは少しずつ大きくなり、前の年の9月に植え付けた玉ねぎは丸く大きくなり、3月初めに植えたジャガイモは旺盛に葉を茂らせています。そのような畑の片隅に座っていると、それらの野菜から生命の力が押し寄せてきて、自分も元気になるようでした。

 秋には、だいぶ成長したたまねぎの苗を定植し、種を播いた大根や白菜が芽を出し少しずつ大きくなり、ねぎは深い穴を掘って植え替える時期です。作業を終えて汗をかいた体には、涼しい風がとても心地よいのです。

 私は、近所にある貸農園で小さな区画を借りて家庭菜園をしていたのですが、去年の3月でやめました。貸主さんの都合でその貸農園がなくなることになったのは大きな理由ですが、他の貸農園を探すということもできたのです。それでもやめたのには、もう一つの理由があります。

 その理由と言うのは、ここ数年顕著になって来た天候の不順です。だんだんひどくなるような気がします。例えば、だんだん暖かくなる季節の4月~5月になっても真冬のような気温の日が続き、6月になってようやく気温が上がったと思えば、毎日雨が降り続き、7月の終わりごろようやく晴れ間が出てきたと思ったら、今度は連日30度を超える猛暑の日がやってくる、という具合です。私は、8月になると、ベランダでポットにキャベツの種を播いて、畑に移植するまで育てていたのですが、ある年の夏に連日の猛暑で全滅したことがあります。そんなことは初めてでした。それ以来、ベランダで苗を育てることを諦めました。秋になると、9月の始めに大根の種を植え付けるのですが、苗が少し大きくなった頃に、連日のように台風のような風が吹き荒れ、苗が全滅したこともありました。

 私は、ビニールシートなどで覆ったりすることが好きでないので(仕方ないので最小限の囲いはしましたが)、あくまで地植えで野菜を育てていたのですが、このような天候の状況で畑を続けていた時、ふと自分の気持ちを顧みて「畑をやっていて楽しくない」と思っていることに気づきました。なにか、野菜たちに苦痛を与えているような気がしたのです。春や秋の日に、畑に座って時間を過ごすようなことも無くなりました。そんなうららかな日がないんですから。

 今年(2022年)は、10月の終盤から、昼間は9月中旬のような温かい(むしろ暑い)日がしばらく続きました。天気がいいのはいいんですが、この季節にこの天候はやはり異常だと思います。10月の後半が冬のように寒くて、その後暖かい日が続いたことから、白菜や大根たちが春が来たと勘違いしないといいんですが。宮城県の柿農家の方のところでは、例年の半分しか柿が実らず、そのうちの8割がいびつな形で、「40年やっていて初めて」だそうです。

 日本の季節が変わってしまったように思います。昔は、冬が終わりに近づくと、それとなく風に春の香りが混じり出し、少しづつ暖かくなり、桜が満開になることには、昼間は良い天気で、時折汗ばむような日もありますが、夕方からはまだ冷え込むという日が続きます。そのうちに梅雨の季節になって恵みの雨が降り続く日が続きます。7月の初め頃になると梅雨が上がって、次第に太陽が元気を増し夏になります。真夏には、午後になると入道雲がモクモク出てきて、夕方になるとザーッを雨が降ります。しかし1時間もするとピタッと止み、涼しい風が吹いていました。時折台風もやってきて大雨を降らせます。やがて秋が近づくと少しずつ気温が下がっていって、とても天気が良い日が続き(秋の長雨の年もありますが)、ふと空を見ると、絹雲やうろこ雲が涼しげに流れています。そのうちに、だんだん寒くなり本格的な冬を迎えます。そして、3月の始めごろになると、また春の気配が感じられるようになります。

 このようにして日本の四季は毎年過ぎていたのですが、最近は、最も過ごしやすい春と秋がなくなってしまったように思います。極端に寒い日が続く期間と暑い日が続く期間、極端に雨が降り続く期間と乾燥が続く期間が繰り返されているように思います。

 世界的にも気候の不順が顕著になっていますが、来年(2023年)の夏の天候がどうなるのか、とても心配です。