吉田拓郎さん(以下「拓郎さん」と言います)が引退してしまいました。

 拓郎さんは、アルバムとしては2022年6月29日に「ah-面白かった」をリリースし、マスコミへの出演としては2022年7月21日にオンエアーされた「LOVELOVEあいしてる最終回・吉田拓郎卒業SP」に出演して、音楽活動を終了しました。

 

 

 私は、遅れてきた、そして、不真面目な、拓郎さんのファンです。ただ、私は、若い頃、拓郎さんの歌に救われたと思っています。もう50年も前のことです。私は、中学3年の終わりごろに博多から仙台に引っ越して、仙台の生活になじめず心を病んでいました。その後、東京で大学生活を送りながらもウツウツとしていました。そんな時耳に入って来た歌が、拓郎さんの「まにあうかもしれない」でした。拓郎さんの歌と言えば、すでに大ヒットしていた「結婚しようよ」や「旅の宿」などしか聞いたことのなかった私には衝撃でした。「・・だけど理由もなく滅入った気分になるのはなぜだろう・・まにあうかもしれない今なら、今の自分を捨てるのは今なんだ・・」。貸レコード屋でアルバム「元気です」を借りてきて(なぜ買わなかったんだろう)、カセットテープにダビングして、毎日のように聞いていました。この曲を聴くとなぜか元気が出たんです。ともすれば壊れそうになる私を救ってくれた拓郎さんの歌はいっぱいあります。「まにあうかもしれない」、「今日までそして明日から」、「たどり着いたらいつも雨降り」、「どうしてこんなに悲しいんだろう」、「祭りのあと」などなど・・。

 

 

 

 

 

 

 拓郎さんは、「僕の歌をどう解釈しようとそれはその人の勝手だ。僕は他の人の人生まで責任は持てない」と言っていましたが、若い頃の私は、拓郎さんの歌によって支えられていました。拓郎さんの歌がなければ、その後、バイクで北海道や九州を旅したり、資格試験に挑戦したりするパワーを持つことはできなかったと思っています。

 拓郎さんは、デビューした時から、フォークソングに政治的メッセージを求める旧来のフォークソング信奉者からは批判されていました。1971年に開催された第3回中津川フォークジャンボリーでは「帰れコール」を受けています。その後、徐々にですが、拓郎さんの、個人的な視点から紡ぎ出される骨太で多彩な歌は、新しいフォークソングとして支持されていきます。

 しかし、1972年1月にリリースされた「結婚しようよ」が大ヒットしてから状況が悪化します。1972年4月に日本武道館で開催された「フォーク・オールスター夢の競演・・」に出演した拓郎さんがステージに立つと、客席から激しい「帰れ!帰れ!」というヤジが飛び、ビール瓶なども投げ入れられるという大変な騒ぎになりました。「結婚しようよ」で一躍人気者になった拓郎さんは、「フォークソング」の信奉者から見たら、軟弱な歌を歌う裏切り者と見えたんでしょうね。

 

 

 そのようなこともあってか、拓郎さんがテレビなどに出演することはめったにありませんでした。そして、いつしか拓郎さんは、悔しいけれど私の目には「過去の人」になったのかな・・と映るようになりました。

 1994年にNHK-BSで「BSフォークソング大全集」という番組が放映されました。この番組は、アルフィーの坂崎幸之助さん(以下「坂崎さん」と言います)が司会を務めて、数々の日本のフォークソングの名曲の貴重な映像を写したり、普段はテレビに出ない伝説のシンガー(高田渡さんや早川義夫さんなどなど・・)が坂崎さんと生で歌を歌ったりする番組でした(今でもYouTubeで見れます)。この番組の続編で「日本フォークソング大全集」という番組があり、この番組に、なんと、マスコミ嫌いの拓郎さんがゲストで出演しました。坂崎さんは拓郎さんの曲は完全にコピーしているほど拓郎さんに心酔しているので、その熱意にほだされて拓郎さんは出演したのではないかと思います。その2年後の1996年に「「LOVELOVEあいしてる」が始まります。この番組は、拓郎さん、KinKiKidsのお二人、篠原ともえさんがメインの出演者となり、毎回豪華なゲストを呼んで、ライブの演奏をするという番組で、大人気の番組となりました。この番組のレギュラーとして坂崎さんが毎回出演していました。ゲストとお話ししたりする以外はバックでギターを弾いているだけで、特に目立ったことをするわけではありませんでした。私が勝手に思っているだけかもしれませんが、豪放な印象とは裏腹に繊細な心を持つ拓郎さんにとって、自分の音楽を本当に理解してくれている坂崎さんがそこにいることがどうしても必要だったのではないかと思っています。(続く)

 

※ ツイッターに画像を投稿しました(2022.8.5)。

https://twitter.com/sasurai_hiropon

 

(以下次回→不定期)