6、初めての挫折(4)
陽一と恵は、夜のヴェルニー公園のベンチに座っていた。
「そうかあ、いよいよ試合なんだね」
「うん。だけど、嫌な予感がするんだ」
「大丈夫だよ。無名校でしょ?」
「うん・・・ただ・・・去年は絶対的なエースの速見さんがいたんだよ。立ち上がりにこそ点を取られるピッチャーだったけど、そんなに大崩れはしなかったんだよ。それは速水さんのハートが強かったからなんだ。清志朗はその点未知数なんだよ」
時同じく、淳紀は横須賀駅のホームにいた。
すると一人寂しげに帰る、清志朗の姿を見つけた。
「大谷君」淳紀が声を掛けると、清志朗はぶっきらぼうに「おお・・・山野」と言った。
「大谷君家何処なの?」
「平塚」
「一緒に帰らないか?」
「ああ」
そして二人は電車に乗った。
「大谷君中学どこなの?」
「箱根学園」
「俺、鎌倉二中なんだ」
「そうか・・・」
まるで以前の陽一と恵のように二人の会話は続かなかった。
その時、陽一からメールが届いた。
「あっ・・・徳永さんだ・・・」淳紀がそうつぶやくと、清志朗が「なんだ、お前徳永さんからメール来るのかよ」と言った。
「うん。徳永さんは姉ちゃんの彼氏なんだよ」
「なっ、なんだと!お前、恵さんの弟かよ!」
「ねえちゃんの事知ってるの?」
淳紀はキョトンとした目で清志朗を見つめた。
そして金曜日がやってきた。
待ちに待った練習試合だ。
古屋監督は、試合前にレギュラーを発表した。
「1番サード文麿、2番ショート修二、3番センター陽一、4番レフト真、5番キャッチャー高瀬川」
「やっぱりだめだったか・・・」淳紀はそうつぶやいて下を向いた。
それを見ていた恵は「仕方ないよね」と心の中で思って微笑んだ。
さらに古屋監督はスターティングラインナップを言い続けた「6番ファースト裕輔、7番ライト慎太郎、8番ピッチャー清志朗、9番セカンド利根川。以上だ」
そして試合が始まると、清志朗は燃え上がるように「おりゃ!」と声を出して投球し続けた。そして三振に打ち取ると、その場で仁王立ちまでした。
速見は黙々と投げ続ける投手だったが、清志朗はリズムと気力で投げる投手だった。
そして3回裏、遂に陽一の3ランホームランが飛び出した。
生徒達からは大歓声が上がった。
これで3―0となった。
しかし古屋監督の表情が今ひとつさえない。
よくわからないが、去年と違って何かが足らないのである。
5回裏1アウト2塁3塁で、今度は真のタイムリー2ベースヒットが出た。
これで5―0となった。
古屋監督は、それでも喜ばなかった。
何だろう・・・何かが欠けている。
実は古屋監督と同じように、それを感じていた者が一人いた。
陽一だった。
何だろう?
去年とは何かが違う・・・。
なんか暗い・・・。
6回表、その嫌な予感が的中する。
清志朗も点こそ取られないが、リズムに乗り切れなくてイライラしていた。
キャッチャーの高瀬川俊介とリズムが会わないのである。
「俊介、ここはビーンボールだろ?」
「清志朗ダメだ。スライダーだ」
「こいつ・・・やりづらい」
そんな感じで、お互いぎこちなくアイコンタクトを送り続けていた。
そして清志朗が次に投げた一球を、ジャストミートされてしまったのだ。
レフトフェンスオーバーのホームランだった。
このホームランを期に、清志朗は一気に崩れだした。
そしてその回一気に8点も失い清志朗は、マウンドで肩を落とした。
生徒達も呆然としていた。
これが夏の大会準優勝高なのかと・・・。
レギュラーもほとんどが健在なのにどうして?
そして淳紀は心配そうに、清志朗の姿を見続けた。
「清志朗君・・・」
5―10で港南学院高校は無名の横浜商船高校に敗北した。
清志朗と淳紀はその後一緒に帰った。
横須賀線の車内の中、何も喋らない清志朗を心配して「清志朗君、次は大丈夫だよ」と言って、ニッコリと笑った。
淳紀は笑うと、恵に少しだけ似ていた。
それを見て清志朗は「お前、笑うと恵さんによく似てるよな」と言って、珍しく笑った。
「よく言われるよ。あのさあ一つ聞いていい?」
「なんだよ」
「今日あの場面でビーンボールをなんで投げなかったの?」
「投げる場面が俊介と違うんだよ」
「場面・・・」
「カウントだよ。あいつビーンボールを捨て球に使うんだよ。決まって2―0のカウントだ。それじゃ打者が読んでしまうよ。ビーンボールってのは初球にいきなり投げるんだよ」
「そうなのか・・・」淳紀は下を向いた。
「なんだよ下向いて」
「いや・・・なんでもない」
俺、清志朗君とバッテリー組んで見たい。
俺も清志朗君と同じ考えなんだよ。
ビーンボールは初球に投げれば、その打者にはずっと有効なんだ。
でも、仕方ない。
レギュラーじゃないし・・・。
次の練習試合も、港南学院は敗北した。
そしてその次の試合も敗北した。
いずれも清志朗が後半に崩れたのだった。
しかもその後に、どのピッチャーが投げても、打たれるのである。
なんと3連敗。
選手達の心の中に暗雲が立ち込めた。
そして生徒達から「徳永はキャプテン失格」とまで陰口を叩かれるようになってしまった。
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