フォーエバー・フレンズ -214ページ目

20、それぞれの道(4)

次の日、茜が西宮へ旅立つ日がやってきた。

恵は茜を見送りしようと思い、新横浜駅のホームにいた。

そして眠る真理を抱く茜と一緒に、ホームの椅子に座っていた。

「いよいよお別れなんだね」恵は少し涙ぐんだ。

「そんな事ないよ。高校の通教の授業もまだあるし、たまには横須賀へやってくるよ」

「茜、西宮でも頑張ってね」

「うん。恵もいい料理人になるんだよ」



700系 - 写真素材
(c) しんいちK写真素材 PIXTA


すると列車到着のアナウンスが鳴り出した。



やがて品川方面から、眩しいライトを付けたN700系の『のぞみ新大阪行き』がやってきた。



そして列車がホームに止まると、茜は真理を抱いて乗り込んでいった。

「茜!幸せになってね!絶対幸せになってね!」

「恵もね!私たち絶対幸せになろうね!」

「うん!絶対に幸せになる!私、茜の事大好き!」

そう言うと恵は泣き出した。

新幹線の車内に茜が乗り込むと、茜も泣きながら座席に座ってホーム上の恵の姿を見つめて、必死に手を振った。

恵も懸命に新幹線の中の茜に手を振った。

そして茜を乗せた新幹線は、新横浜駅を出発した。

「茜!元気でね!」

恵は去り行く新幹線を見つめながら、ホームの上で涙を流した。



そして卒業式の日がやってきた。

校長先生は、ステージに立って一人ひとり名前を読み上げていった。

「一ノ瀬文麿」

「はい」

「原司」

「はい」

「遠山真」

「はい」

「手嶋由香子」

「はい」

由香子は車椅子に乗りながら、ステージの下で校長先生から卒業証書を受け取った。

「徳永陽一」

「はい」

「山野恵」

「はい」

一人一人がさまざまな思いを込めて、校長先生からこの卒業証書を受け取った。

今思えば、校長先生は最初野球部設立の一番の反対派だった。

しかし、野球部を支援する側に回ってからは、最大のバックアッパーとなってくれた。

港南学院高校の秘密兵器150キロバッティングマシーンにより、これまであらゆる豪腕投手達を打ち砕いてきた。

野球というものはグラウンドだけでするのではなく、組織の支援というものも大切である。

その役を校長先生は見事に果たしてくれたのだ。



そしてその後、野球部の部室で送別会が行われた。

送別会には野球部員の他に、仁科先生も参加した。

そして簡単なオードブルの盛り合わせを囲んで、みんなが思い出話に浸った。

「あの時、徳永君と遠山君のアベックアーチが出て、それから清志朗君が凄いピッチングを見せたんだよね」司は少し前の甲子園の思い出話をした。

「その前に俺のヒットがあったんだよ。あれでチームが波に乗ったよ」文麿は自画自賛の思い出話をした。

すると真が「あのさ、俺達が今こうやっているのって誰のおかげなんだろうな」と言い出した。

「そりゃあ、みんな一人一人の努力だろう」文麿はそう答えた。

しかし真は「違うよ、陽一のおかげだよ」と言った。

陽一は「えっ?俺?」と言って少し驚いた。

「ああ、お前がたった3人の野球部を立て直したんだ。そのたった3人の野球部を軌道に乗せたんだよ。そして俺はお前のおかげでプロに行けた。お前がいなければ、俺は今頃とんでもないクズだった」

すると次に司が言った「そうだね。徳永君がいなきゃ、僕はただの野球オタクで終わっていた。徳永君がいたから、僕は力を発揮できたんだ」

文麿も言った「そうだな。俺、あのとき徳永が横浜スタジアムで、俺をスカウトしてくれなかったら、どうしようもない人間で終わっていたと思うよ。お前がいてくれたから、俺、六大学野球に進む事ができたんだ」

次に修二が言った「俺だって高校に入ったら、野球を辞めて遊ぼうと思っていました。でも徳永さんがいてくれて、俺ショートの守備の事を一杯教わりました。徳永さんがいなかったら、俺もつまらない高校生活送っていたと思います」

清志朗も言った「そんなんだったら俺、徳永さんがいなきゃ高校にも行けなかったよ。徳永さんがわざわざ箱根まで来てくれたんだよ。あの時徳永さんと出会えなきゃ俺どうなっていたことか・・・」

淳紀も言った「俺、家で鍋パーティーやった時、徳永さんからキャッチャーの理論を聞いて、それで港南に入ろうと思いました。徳永さんがいなければ、俺、どの学校行っても結局は万年補欠だったと思うし・・・」

陽一は部員一人一人の言葉を聞くと、少しだけ涙ぐんだ。

「やめてくれ。泣きそうだ」陽一はそう言うと、涙が出そうな真っ赤な目を擦って、笑顔を作った。