私は 1985年にヤクルトスワローズに入団した。
1985年といえば、タイガースが21年ぶりのセリーグ優勝で大いに盛り上がった年でもあった。実際、優勝を決めたのも神宮球場で 私はその瞬間を 1塁ベンチの中で見ていた。

その頃のスワローズはというと、万年Bクラスという状況で共に低迷していた大洋ホエールズとライバル関係でそのホエールズに負ければ最下位という低レベルの争いをしていた。

当時のスワローズには 私も含めて「若手」と呼ばれる選手が たくさんいたのだが そんな若手にだってスランプがある。そして何人かが調子を落とすと、当時のコーチ達はきまって「お前ら、足腰が弱いんだ、走れ!」と言い、即興のミニ・キャンプが始まる。

ホームゲームだと早出で13時頃からそのミニキャンプは始まり、ただひたすら、ダッシュである。球場のライトポールからレフトポールまでの往復をインターバルで永遠と走らされるのだ。さらにその途中に腹筋と背筋のトレーニングもこなし、もうバッテッング練習の時にはクタクタでまともにバットが振れない。

16時にはビジターチームに球場を開け渡さないといけないルールなのだが だいたい相手チームは 15時20分過ぎにはレフトポールの入り口から入ってくる。私がポールからポールのダッシュをしていると相手チームが球場入りするのだが その相手の選手から「お気の毒」とか「よう、陸上部」とか言われ、からかわれるのだ。

ただ、そんな中にも親身になって心配してくださるベテランの選手もいらっしゃった。当時、連続試合出場の記録を更新していたカープの衣笠祥雄さんがその1人だ。

衣笠さんからは「トラちゃん、そんなに走ったら 試合に集中できないよ。俺が ヤクルトのコーチに言ってやるよ」と 声をかけて頂いたのに 私が「衣笠さん、それはやめて下さい」とお願いしたのである。すると、「そうだな、お前の立場も あるしな。 でも、何かあったら言ってこいよ」と温かい言葉をかけて頂いた。今でも鮮明に覚えている。

雲の上の存在だった衣笠さんに 声をかけて頂いた事だけでも感激だったが それ以上に私のような新人にまで心配して下さった事に感謝の気持ちで身体が震えた。それ以来、カープ戦ではまず 衣笠さんを見つけて 挨拶する事が 私のルーティーンになり、行くと ニコッと笑う衣笠さんの笑顔を見るのが たまらなく 嬉しかった。

結局、何のお返しもできないまま、今年の4月、71歳という早過ぎる年齢で他界された。悔やみきれない思いもあるが、心から、衣笠さんのご冥福をお祈りいたします。


さて、先週のタイガースは 1勝5敗。交流戦前の5連勝がぶっ飛んでしまった。「打てない」「守れない」「それでは勝てない」だ。

以前のブログにも書いたが、野球はミスをした方が負けではない。ミスを取り戻せない方が負けなのだ。

野球には たくさんのミスがでる。打ちミス・投げミス・走塁ミス、捕球ミスなど たくさんのミスがでる。一番カッコ良いのはミスをした当事者が取り返す事なのだろうが、本人が取り戻せない場合はチームの誰かが取り返せれば良いのだ。このようにミスを取り返す事を「バウンスバック」と言って 要はそれができるチームは強いのだ。

しかし今のタイガースには「ミスをしたらダメだ」という空気が流れていて、まっ、そのような指導もしているのだと思うが、そのせいで選手の動きを硬くしている。そしてその硬さが新たなミスを生み、その事でベンチの空気が悪くなる。

ミスをした当事者に罪悪感が覆い周りにもネガティヴなマインドが支配し、ミスを連鎖させる。つまり、ミスを怖がってミスを犯すのだ。これは最悪の負のスパイラルだ。

私は何も大いにミスをしなさい、と言っている訳ではない。ただ、一生懸命プレーした結果のミスならば、それは ただの「下手くそ」という事で練習するしかないのだ。若トラが犯すミスのほとんどが技術不足によるもので 決してケアレスミスではない。だったら、そのミスを取り返すしかないのだ。

若トラを起用すれば、ある程度のミスを犯すのも織り込み済みではないだろうか。「下手くそ」の要因には「指導力」もある訳で 全て選手に非がある訳ではない。

例えば「外角のボールになる変化球を振るな」と指導しても 振ってしまう事がある。口で言うのは簡単だ。大事なのは その方法論だ。間違った方法論では 何の解決もしない。

「ダブル・プレーは確実に取れ」これも口で言うのは簡単だ。しかし植田 海だって こんなに一軍の試合に出るのは初めてで しかも シーズン当初は 代走要員程度にしか構想に入っていなかった選手だ。そんな選手に懲罰的な交代をしてしまっては 今後の彼のプレーを硬くしてしまうのではないか、と心配している。

そんな中、明るい話題もある。陽川だ。実は彼が チームの雰囲気を変えられるのではないか、と期待している。陽川が加わった事で打線が活発になり、結果、チームを変えられるのではないかと期待しているのだ。

大山・中谷・陽川と右の3人トリオが打ち出せば、まだまだ、優勝は狙える。右投手だろうが左投手だろうが 是非 陽川を起用して欲しい。

起死回生の逆転優勝は 陽川含めた右のトリオ、それに加えて藤浪にかかっている。今週の陽川の活躍を大いに期待し、また、楽しみにしている。