唐突で申し訳ないが、皆さんは「呉 昌征(ご しょうせい)」という人物をご存知だろうか? 

台湾出身の方で巨人軍には1937年~1943年、大阪タイガースには44年~49年、毎日オリオンズには50年~57年に活躍した人で日本球界・台湾球界共に殿堂入りしている。

専門は外野手で俊足・強肩で「人間機関車」と呼ばれた方だ。ただ、46年には 投手としても活躍し、戦後初の「ノーヒットノーラン」を達成した人物で、しかも、実働20年というプロ野球初の偉業も達成した。

ノーヒットノーランを達成した46年には打者として101試合に出場し、打率2割9分1厘25盗塁、投手としては27試合に登板し14勝6敗と、今話題の二刀流の大活躍もしている。

呉さんは台南州立嘉義農林高校出身で高校時代、春の選抜も夏の甲子園にも出場している。台湾の高校で甲子園出場?と疑問に思う方もいると思う。

時は1894年、日本は日清戦争に勝利したことにより、台湾を統治する事になった。つまり、1895年から日本が戦争で負ける1945年まで台湾は日本だったという事になる。因みにその後、1904年に日露戦争に勝利した日本は南樺太や関東州(現在の大連市の一部)も統治し、「朝鮮」「台湾」「満州」からも予選を勝ち抜けば「甲子園出場」のキップを手にする事ができた、という訳だ。

実は呉昌征さんの入学する少し前の1931年、この嘉義農林高校は夏の甲子園で準優勝を果たしている。その頃の物語は「KANO 1931 海の向こうの甲子園」という映画が有名で永瀬正敏さんや大沢たかおさんの演技も素晴らしく、涙・涙の感動巨編に仕上がっている。

さて、その決勝当日、地元台湾はラジオ中継に狂喜乱舞する人達はもちろん、 日本国内でも 野球ファンが固唾を呑んで見守り、甲子園球場は超満員だったという。監督は愛媛県松山商業を初の全国大会優勝に導いた近藤兵太郎氏で弱小チームだった嘉義農林高校をスパルタ教育で甲子園の決勝戦へ導いた名将だ。中京商業に敗れはしたものの、嘉義農林高校の奮闘する姿に人々は感動し、その健闘を称し「天下の嘉農」と絶賛される。

「負けても泣くな、勝っても泣くな」と近藤兵太郎氏に厳しく指導を受けていたナインは「僕たちは いつ 泣いたら良いのですか」と号泣してしまうシーンで映画はクライマックスを迎える。

こんな嘉農の事はご存知の方も多いだろう。ただ、嘉農に限らず、他の統治されていた地域からの高校も素晴らしい活躍をしていた。台北一中は1929年(昭和4年)にベスト4入り、釜山商は1921年(大正10年)に、京城中は1926年(大正15年)にベスト8入り、を果たしている。

大連商に至ってはベスト4入りが なんと3回。1926年(大正 15年)には 準優勝まで果たしている強豪校だったのだが、ラジオの野球中継が始まったのが翌1927年からということもあり、その活躍はあまり知られなかったのが残念である。

過去も現在も野球の発展にマスコミは欠かせない存在だ。改めて、マスコミのありがたさが分かるエピソードだ。ただ、ありがたいだけに近年の試合終了を待たずに中継を終えてしまうケースは残念である。マスコミさんには是非ともプレーボールからゲームセットまできっちり放送して欲しい。

話は逸れたが、呉昌征さんの話に戻そう。戦争も激しさを増した1945年、なんと甲子園球場は芋畑になってしまう。その際、そのまま野球場の土壌では芋が育たないとのことで土壌改良を手がけることになる。そこで、呉昌征さんに白羽の矢が立った。

嘉義農林高校時代の経験を甲子園球場の土壌改良に登用されたのだ。ほどなくして、その年8月15日に終戦を迎え、甲子園で栽培された芋が結局どうなったのかは記録がない。アメリカ軍、はたまた日本人のだれかの胃袋に収まったのか、分からないのだが、甲子園の土の色が今でも黒々としているのはそんなお芋畑だった名残があるのかも知れない。


さて、今週のタイガースは 2勝3敗、中でもジャイアンツに3連敗とは残念でならない。特に気になるのが調子の悪い選手は調子を落としたまんま、という事だ。

「下手くそ」なら仕方ない、頑張って上手くなるまで待つしかないと、選手を信じ前向きに考える事もできる。しかし、 元々、力を持った選手が調子を落とし、長らくずっとそのまんま、というのは応援する側も先行きが見えず前向きにはなれない。

藤浪の制球難はいつの間にか重症化してしまった。高山は新人時代のバットコントロールの良さが無くなった。梅野は 思いっきりの良さを失い、大山は引っ張る事ができなくなり、鳥谷はどこか精彩を欠いている。

そして2月のキャンプでは 誰もが認めた最強助っ人ロサリオは 今では欠点ばかり目立つ選手に変貌してしまった。

これが指導力の問題なのか、組織としての問題なのか、個人的な問題なのか想像の域を出ない。確かなことはこれら調子を落としている選手が復調しなければ優勝はあり得ないという事だ。

1日も早く、調子を取り戻す事を願ってやまない。終わった事は仕方がない。それを取り戻す為に何をしたら良いのか 冷静に判断して欲しい。彼らが努力を怠ってない事は分かっている。一生懸命練習していると理解している。

しかし、努力には正しい努力と間違った努力があり、間違った努力からは何の解決も得られない。
今一度、その点をしっかりと自問自答し、正しい修正法を選択して欲しい。

 
まだまだ、始まったばかりだ。勝ち負けに右往左往する事よりチームを立て直す事が先決だ。最後まで信じているファンがいるという事を忘れてはならない。今週のタイガース、大いに期待している。