2018年、3月30日、プロ野球が開幕した。

プロ野球のシーズンのことを「ペナントレース」と表現するが それは優勝チームに贈られる長三角旗(ペナント)を争うことに起因する。そんなペナントレースの待ちに待った「開幕」なのに、不思議と野球に集中できない私がいる。1月4日の星野仙一さんの訃報から、いまだに立ち直っていない。心の中にポッカリと穴が空いているようで 野球に対し どことなく無気力な自分がいるのだ。

星野監督に最後にお会いしたのは 昨年の12月、大阪で行われた氏の「殿堂入りパーティ」である。私は 星野仙一さんがどんな立場になられても、「監督」と呼んでいる。パーティが始まる50分ぐらい前、星野監督に お祝いとご挨拶をする為に控え室へ入っていったのだが そこは もう長蛇の列で 仕方がないので 私も最後尾に並んだのだ。

控え室といっても とても広い部屋で 小学校の教室ぐらいあった。もう、2・3人で私の番になる時、ふと、後ろを振り返ると既に私が並んだ時より長く、列は 控え室から外の廊下の方へ出ていた。

「あらら、凄いわ」と思いながら 時計を見ると もう パーティが始まる30分前であった。ツーショット写真を撮る者もいれば、話し込む人もいる。何しろ、滅多に会えない人だ、その気持ちはよく分かる。しかし、パーティが始まる時間が決まっている以上、後ろの人達まで 大丈夫なのか、心配だった。

せっかくの おめでたいパーティで、星野仙一に会いたい、お話ししたい、写真を撮りたい、と思う人が大勢いる事は想像できた。しかしひとりが多くの時間を費やせば 他が機会を失う。あまり 時間を占領しないでと、心の中で願いながら順番を待っていた。

ようやく、私の番になり 「監督、おめでとうございます」と言うと星野監督が「おぅ、トラか、よく来てくれたな」と返事が返ってきた。私は 後ろの人達の事を考え、お辞儀をして その会話だけで列を離れた。

大学の後輩で、監督と選手という立場だった私などが多くの時間を占有してはいけない、という思いだった。しかし、あれが 星野監督と交わした最後の言葉になってしまった。今思えば、遠慮なんかせず、色々、話をすれば良かったと思う。

プロ野球の話はもちろん、指導論、島岡監督(明治大学の名物監督)の思い出話や今のタイガースの話、野球少年の育成や普及の話などちょっと考えただけでも尽きない。将来、オリンピックでの野球という競技はアマチュアの人達で実現を、という話もしたかった。プロはWBC、オリンピックはアマチュアの最高峰の大会にするという星野監督と私の共通の願いについても話す事はできず、無念である。

3月28日のお別れ会では金本監督が「必ず、優勝してウイニングボールを墓前に供える」と涙ながらに弔辞を述べた。もし実現したら 本当に素晴らしいことである。是非、叶えて欲しい。そんな事を夢見ながら 今季のタイガースを応援したい。


さて、先週末からの開幕3連戦だが 結果は1勝2敗。3試合ともタイガースは先制したので 2敗は逆転負けである。中でも悔やまれるのは土曜日の試合である。

監督の仕事の中で一番難しいのが「投手交代」だと私は思う。結果論だが、土曜日の試合は 藤浪の交代のタイミングを誤った。

交代のタイミングは3度あった。1度目は 6回表、先頭の糸原が出塁し 次打者の梅野が送りバントを決め、1死 2塁となった場面だ。4-0とタイガースがリードし、藤浪もジャイアンツ打線を0点に抑えていたとはいえ、 その乱調ぶりは目に余り 「良い所で交代」と思った人も多いハズだ。

あの場面で藤浪に代打を送って欲しかった。「藤浪の将来を考えて続投」と思う人もいるかもしれないが 現在の藤浪は病み上がりなのだ。心の病から やっと復帰しようとしている状態なのである。成功体験を重ねる事が彼を立ち直らせる唯一の「薬」なのだ。
今回の結果は また 悪いイメージを持って次の登板を迎えさせる事になる。残念である。

2度目は 6回裏、先頭の岡本にレフト前ヒットを許した所、3度目は無死1塁で 長野に四球を与えた所である。無死 1・2塁で藤浪を交代しなかった理由は見つからない。

4回裏もバントのケースでストライクを取ることに四苦八苦していた。あの様な場面でバントが決まってから登板交代をする事は多々ある。しかし、それは四球を心配しないで良い投手の場合だけである。藤浪の場合、その前の6回表の攻撃では 塁に出ていたし、ましてあのコントロールだ。投手交代は 明々白々に思える。

結果、無死満塁となり ジャイアンツに逆転の機運を与えてしまった。非常に残念な試合になってしまった。収穫のある敗戦もある。また、何にも残らないどころか後に引きずってしまう敗戦もある。「藤浪の復活なくしてタイガースの優勝なし」と思うファンも多い。私も そのひとりだ。

私は 藤浪の復活は 急いでは失敗する、と思っている。ゆっくり時間をかけて完治させる、というのが良策だろう。あくまで 私の考えである。

ただ、この意見はあくまでも結果論である。我々が知り得ない内情もあろう。「荒療治」という言葉もある。この屈辱が藤浪を復活させる事だって充分にあり得る。

信頼してくれた監督の気持ちに発奮する事もあるだろう。この1敗が10勝に繋がるような、そんな収穫の1敗になってくれる事を祈っている。