まずは 広島カープ並びにソフトバンクの選手、その関係者の皆さん、そして 何より 両チームのファンの皆さんにお祝いを申し上げます。

18日の試合、カープのマジックが「1」となって迎え、タイガースが どんな試合をするのか、期待を込めて観戦していたが、結果さほど期待外れでもなく、かと言って、意地を見せたという訳でもなく、淡々とカープ優勢で試合が進んだ。

あろうことか、9月に入って カープとジャイアンツには 1試合も勝っていない。8月もカープとジャイアンツには負け越し、ペナントレースの終盤に この2チームに対して良いところがない。成績は71勝57敗と貯金は15あっても 内容的に言えば、チーム状態の悪い スワローズやドラゴンズに勝っているだけという現状である。

それに、このスワローズとドラゴンズ、両チーム合わせて借金が何と「61」ある。スワローズの勝率.333に至っては 本当に恥ずかしい成績である。

昔、タイガースが暗黒の時代と言われた頃は 「PL学園より弱い」と酷評されたが 今のスワローズは 花咲徳栄高校や広陵高校より弱い、と謗られても仕方がない。そのくらい弱い。まっ、スワローズの話はさておき、タイガースには 今後 カープとジャイアンツに いかに勝ち越すかを考えて欲しい。それが逆転日本一の道に繋がるのは自明の理だ。

ところで、この時期になると 選手やコーチ・監督の引退、異動の話もチラホラ聞こえてくる。中でも掛布二軍監督の退任は 非常に残念である。

「電撃 解任」なんて書いてあるモノもある。「辞任」なら仕方がない。「辞任」は 自らの意志で辞める事である。人それぞれ事情があるだろう。しかし、解任は 辞めさせられるという事で なぜ 掛布さんがそんな事になるのか理解できない。

私にはマスコミ報道以上の事は分からないが そんな文字が出る事自体、残念でならないのだ。掛布さんは指導者としても才能に溢れていた。だいたい、一流の選手が指導者になるとまず自分が上手くなった方法を教えたがる。

「これで自分は上手くなったんだ」という実体験と自信があるから、当然のようにその方法を他の選手にも強要する。もちろん、それで上手くなる選手はいるかもしれない。しかし、人間、十人十色だ。自分が上手くなった方法と他人が上手くなる方法は 必ずしも 一緒だとは限らないのだ。

同じ指導だけでは伸びる選手と伸び悩む選手が出てきてしまう。指導者とは 過去に何本 ヒットを打ったとか、何百勝したとかではなく、教える事が上手な人がなるべきなのである。その点、掛布さんは現役時代の成績は 言うまでもなく、教える事にも大変優れた方だった。そんな方が辞められるのはつくづく、残念である。

話は変わって、ここで、毎度の事だが 私の昔話もしておこう。

私が引退して 2・3年経ったある日の出来事だ。その頃ちょうど、大阪の堀江にある有名なパン屋さんの「くるみパン」にハマっていた。 そのお店の「くるみパン」が 特に美味しく評判の店で、若い子たちが行列を作る程だったので、いつもは誰かに頼んで買って来て貰うのだが たまたま その日は暇だったので自分で買いに行ったのだ。

大きな図体のオッサンが 若いお嬢さん達と同じ列に並んで 順番が来るのを待っていた。目立ちに目立って恥ずかしいのだが、2、30分してようやく店の中に入る事ができて お目当ての「くるみパン」の中でも一番 くるみが入っていそうなパンを物色していたら、若い店員の女の子が声を掛けてきた。

「えっ!  もしかしたら野球選手ですよね」と。

このような雰囲気の中、そのような声を掛けられると、火が出るほど、恥ずかしい思いになる。早くやり過ごそうと、照れながらも「昔ね」と手短に答えると「えっと、えっと、そうだ、ピッチャーですよね」と、しつこく質問してくる。

若い女性だし、野球のポジションをあまり理解していないのだろう。こちらは恥ずかしいので、とっさに「違いますよ」と優しく答えた。それでも、店員は引き下がらず 必死に私の名前を思い出そうとしている。

私は 早く 「くるみパン」を買って その場から逃げ出したい思いだった。やがて周りのお客さんも ジロジロ 私を見だす。パン屋で並ぶお嬢さんたちだ。野球などにはさほど興味があるはずもなく、私が誰なのかは分からない様子だった。

いよいよ私の「恥ずかし度」がMAXになった時、突然、店員が言い放った。

「分かった、安藤さんだ!」

拍子抜けもいい所だ。 「違います」と笑顔で言って 会計を済まそうとすると、続けざまに「私の彼が安藤さんのファンなんです。一緒に甲子園に応援に行った事もあります」と大きな声で言うもんだから 再び「安藤では ありませんよ」と、半ば引きつった笑顔で答え、逃げるようにパン屋さんから出て行った。

それにしても、安藤と間違えられるとは、イラっとしてしまう。いくらなんでも自分では 安藤よりは男前だと思っている。

その話を後日、安藤に話すと今度は安藤が「広澤さんに間違えられるなんて ガッカリですよ」と言い返してきた。

加えて「僕は もっと 男前で、しかも 広澤さんより 15歳も下ですよ」ともはや半分 怒っている。

「バカな!安ちゃんは老け顔だし、俺の方が男前だ」と言い返したのだが 安藤は「傷ついた」と言って落胆してしまった。もちろん、今では笑い話である。

普段は私は安藤の事を「安ちゃん」と呼んでいる。安ちゃんは素晴らしい人格者だ。投手と野手、選手とコーチという関係だったが ウマがあった。マウンドでは ポーカーフェースを貫き、ユニフォームを脱げば 実に優しい人格者だった。

昨年は 50試合にも登板していたのに今年に入っては 1試合も登板していない。どんな理由があったのか分からないが 引退会見を見ている限りでは やりきった表情だった。

今後の人生も 安ちゃんなら心配ない。指導者になったとしても、フロント入りしたとしても立派にやっていくだろう。今は ただ 「ご苦労様でした」と声を掛けてあげたい。


さあ、ここからのタイガースに消化試合など存在しない。そんな意気込みで最後の最後までファンの期待に応える為に頑張ってほしい。