時の経つのは早いもので 今週で9月になる。

ペナントレースも終盤で セリーグのチームは 残り 30試合を切るチームがほとんどになった。カープにはマジックが付いたり消えたりだが、28日 現在、マジック「19」が点灯している。

タイガースの優勝は ほぼ 絶望的だが 完全に消滅した訳でもない。最後の最後まで 頑張って欲しい。

先週のタイガースは 3勝3敗、カープを追いかけるチームとしては 物足りない成績である。それだけならまだしも、先週は首をかしげるプレーが 3つもあった。

まずは 22日、神宮でのヤクルト戦、8回裏、先頭打者の藤井がヒットで出塁し、中村の初球、バスターエンドランが決まり、無死 1・3塁になった場面。

1塁走者のスタートにつられて 遊撃手の北条が2塁のベースカバーに入ってしまった。中村の打球は 北条の動きの逆を捉え、レフト前へと抜けて1・3塁となった。

このプレー、高校野球なら よく見るシーンだ。盗塁やエンドランの時、走者につられて野手が動き、動いた反対方向に打球が飛び、1・3塁になるというもの。

これをアナウンサーや解説者は打者や作戦が上手くいったと賞賛する。しかし、本来ならこれは高校野球レベルだと怒ってもいいシーンである。

しかし、最近では、残念ながらプロ野球でも見かけるようになり、挙句、解説者が「野手の動きを読んだ素晴らしいエンドランでした」などとコメントしているのを聞く。

私の現役時代は、春のキャンプの段階で、このシチュエーション、ニ・遊間の選手は 盗塁やエンドランの時、走者につられて、早くベースカバーに行かないように練習をしたものだ。

極力、カバーに行くスタートを遅らせ、打者が空振りや見逃しをした時にようやく2塁ベースへ入る練習をしていたものだ。

早過ぎると逆を取られるし、遅すぎるとベースカバーが間に合わなくなる。絶妙なタイミングが問われるプレーなのだ。

私がヤクルトにいた頃は池山隆寛や土橋、笘篠などといった選手が このプレーの練習で居残りの特守をしていた。プロの二塁手や遊撃手ならば、エンドランや盗塁で走者につられて早くベースカバーに入る事は「恥ずかしい事」だと教育されたものである。

もちろん、そこには野村克也監督の影響も色濃い。いつもこういうプレーに関しては細部に至るまで口酸っぱく、指導していた。

当時、二塁手の名手と言えば 西武ライオンズの辻さんで守備範囲の広さは もちろん ベースカバーの入り方や中継の入る位置といった細かい所までまさに一流だった。

この時代、西武ライオンズやヤクルトスワローズの二・遊間が走者に吊られて早くベースカバーに入るなんて1度も見た事が無い。しかし今となってはタイガースに限らず、キャンプでこのような練習をしているチームを見る事が無くなってしまった。

知らない事は できないし、教えられない。あの時代の二遊間をもう誰も知らなくなってしまったのか。

実は このプレーの前にも ちょっと 触れたいことがある。この試合の7回裏、2死 1・2塁、リベロのセンターへの打球を俊介がファインプレーしたシーンだ。

このプレーにも同じような事が言える。4対4の同点、終盤の7回で センターの俊介は レフト寄りの深い位置に守っていた。この場合、2塁走者をホームへ返さないのなら前進守備が基本で、1塁走者をホームへ返さないシフトなら 右中間寄りの深めに守る事が基本である。

俊介がキャッチしたプレーは 素晴らしいことである。しかし、もともと基本に則っとった守備位置にいたならば すんなり キャッチできた。その証拠に俊介がダイビングしてキャッチした位置は 「そんな所でダイビングするの」という位置であった。

コーチの指示で レフト寄りの深い位置に俊介が居たのか、俊介自身の考えであの位置に守っていたのかは 私には分からないが もし 俊介の考えで守っていたならば、ベンチから守備位置を変えるように指示があるべきなのだ。

結果だけ見て、俊介のファインプレーを「良かった、良かった」で終わらせてしまってはいけない。結果こそ違えど、あのポジショニングは二・遊間が逆を取られるのと同様に 幼稚な野球なのだ。

そして極め付けが27日の巨人戦だ。7回裏に1点を先制され なお 1死 1・3塁の場面だ。バッターボックスには 小林が入った。

この時、相手チームの考えられる作戦は大きく3つの動きが想像できた。スクイズ、セーフティ・スクイズ、そしてエンドランである。

このうちエンドランに関しては 非常に確率が低い。それならば小林を自由に打たせる方が確率が高いくらいだったろう。となると、スクイズかセーフティ・スクイズしか残されない。

ここで タイガースのベンチが考える事、またバッテリーが考える事は 色々 ある。野手も 当然の事ながら相手チームが 取るであろう作戦に備えるのである。

初球、小林のセーフティ・スクイズも試みがファウルボールになった。この時点で 次の作戦はスクイズの可能性も残るが、続けてセーフティ・スクイズの可能性が高くなり、その次は「1球 様子を見る(何もしない)」の順になる。

ここで内野手は どんな作戦にも対応できるように 自分の動きを頭の中で確認する。外野手も 自分の入るカバーを確認する。

迎えた2球目、小林がバントの構えをするのが早かった。野手は とっさにセーフティ・スクイズと分かっただろう。小林のセーフティ・スクイズが転がった瞬間、野手は頭の中で準備した動きをする。

1塁手は 前へ、遊撃手は2塁ベースカバーへ、ライトは1塁ベースカバーへ センターは2塁ベースカバー、投手は セーフティ・スクイズでは 1塁側へ行く事が多く1塁側へスタートし、捕手は マスクを外し、的確な指示を出す準備をする。

ここで 一番 難しいのが二塁手である。通常1塁のベースカバーへ行くのだが 万が一、投手と一塁手の間を打球が抜けた場合、自分が取りに行けるように 用心しながらベースカバーへ行くのだ。

ただ、27日のこのケースは それほど難しくなかった。難しくなる場合というのは 打者走者に脚力がある時だ。ここでの打者走者は さほど脚力のない小林で しかも 右打者である。打球の強さや方向を充分 理解する時間があったのだ。

しかし、二塁手の森越は 一目散に1塁ベースへ入ってしまった。結果、投手と一塁手の間を抜かれるバントで大量点に繋がってしまった。森越が用心深く 打球を見ていれば 打球を処理する事は難しくなく、ベースカバーに入った投手(桑原)にトスすれば 確実に小林をアウトにできた。そして、あの場面は 失点は2で 収まった可能性が高い。

確かに野球はわからない。同じように大量点になったかもしれない。

ただ、試合結果は ともかく、このプレーも春のキャンプでは 何十回と練習するものである。この練習にどんな意図があり、どんな場面で使用するのか、はっきり理解した上で練習をするのか、意味も分からず なんとなく練習しているのか、では 大違いなのだ。

あの場面、「簡単に セーフティ・スクイズをさせた」とか 「投手は 桑原ではない方が良かった」とかは 戦略・戦術の問題である。これは 人それぞれ、考え方があるだろう。しかし、あくまで基本は 一つなのだ。

若トラ達は 打つ事や守る事は 目を見張るほど成長したと思う。しかし、肝心の基本を理解していない。スモール・ベースボールを貫くのなら バントやエンドランをする事だけではなく、まず野球の基本を知る事である。

細部にわたって野球の基本を理解する事がスモール・ベースボールであって、短打やバントで得点する事が必ずしもスモール・ベースボールの全てではないのだ。

何度も言うが、知らない事はできないし、教えられない。

もちろん、理解しているからといって できない事もある。しかし、同じできないでも 理解してるのとしていないとでは 大違いなのである。

先週の若トラ達の失敗が正しく理解していたものなのかどうなのか、それは 私には断言できないが、基本というものを逸脱してしまった事だけは事実である。

さぁ、今週のタイガース、終わった事は仕方がない。バウンスバックだ。藤浪も戻ってきた事だし 対戦相手も ヤクルトと中日の下位球団だ。6戦 全勝と パッと行こう!!