とかく無死3塁や1死 2・3塁など外野にフライを上げれば1点という場面で、
「ここは 最低でも外野フライが欲しいですね」
というコメントを耳にする。確かに、その思いは理解できる。

試合が拮抗していればいるほど 1点の重みは重い。だが、この「最低でも外野フライ」とするには一体どう打てばよいのか?これは実は簡単なことではない。

わたしは常々評論家と解説者は違うと思っている。極端な話、評論家は誰にでもなれる。その意見が支持されようが、されまいが、自分の考えさえ主張すれば、その人は立派な評論家なのだ。

野球好きな魚屋のオジさんでも、居酒屋で飲んでる野球好きなお父さんでも、彼らの持論を展開すれば それで評論家である。

しかし、解説者はそうはいかない。きちんとプレーを説明し、正確な情報を正確な言語で伝えていかなくてはならない。評論家の様に意見さえ言っていればよいわけではない。

ある番組で 野村克也さんとご一緒させて頂いた時、私が ボールの反発係数や野球のルールを説明した時にアナウンサーの人が「よく ご存知ですね」と私をよいしょしてくれたのだが、野村さんが「そんなの調べれば分かることだ」と間髪入れずにコメントを入れた。

これはまったく、その通りなのだ。調べれば分かることを言うのが解説者で持論を言うのが評論家だと私は思っている。

こと評論家に関してはあくまでも持論を展開するわけだから、その人物の過去の実績がモノを言う。つまり、評論家ならば、実績があればある程、説得力や信頼度が高まるのだ。王さんや野村さんの持論ならば誰でも耳を傾けるだろうし、その意見にはそれだけの値打ちはあるというものだ。

同時に、評論家の方の中にはバッターボックスやベースの大きさ、塁間の長さやマウンドの高さを正確に知らない人が多い。野村さんの言うとおり、これらは調べればわかることだし、実際そういう細かいことは知らなくても2千本安打や、200勝投手になってしまうのだからなにも文句は言えない。こういう方々はいろいろと調べて解説者になる必要はないのかもしれない。

さて、とはいえ解説者としては「最低でも外野フライ」をどう打つのか、放っておくわけにはいかない。いつも疑問に思ってしまうのだ。

たとえば、内角や外角の打ち方、或いは高めの球や変化球の打ち方なら 私にも説明する自信がある。しかし、最低でも外野フライとなるような打ち方となると、どのような打ち方をすればよいのか答えが出ない。

そもそも、そのような打法が存在するなら、3塁にランナーがいる、いないに関わらず、どんな場面でもそれで打てばいいのではないか。「最低でも」という事は それよりちょっとでも良ければシングルヒットや2塁打、最高でホームランになる訳でそんな打法があるなら今、打撃で悩んでいる高山や原口も直ちに習得したいだろう。

そもそも、ゴロの打ち方とフライの打ち方の違いは何なのか、それすら 理論付けられていないのだから、確実に外野フライが打てる打ち方など、難題過ぎるのだ。

ボールを上から叩きにいけば確実にゴロが打てる訳でもなく、アッパースイングでバットを振ったら確実にフライになる訳でもない。

ボールも球体だし それを捉えるバットの表面も球面なのだ。どんな打ち方だろうが、結果的にボールの中心より上にバットが当たればゴロになるし、下に当たればフライになるのである。

一般的なホームラン角度といわれる25度に打ち出そうと思えば、バットの球面の中心から約7ミリ上にボールが当たらなければならない。それだけではない。加えて、バットの芯と呼ばれる 長さ 約5~6センチの範囲に当たらなければならないのだ。

要するに、外野フライを打つということはバットの芯こそは外しても、バットの球面の中心から 7ミリから8ミリ 上の範囲でボールを捉えなければならない、ということだ。そこに、150キロに近いストレートや右にも左にも曲がったり、落ちたりする変化球をバットの中心からミリ単位でアジャストするなどという事は言うのは簡単だが、実際にはそうはいかない。

そんな事を常時できる技術があるのなら、それは神業の領域なのだ。

つまり、「最低でも外野フライを打って欲しい」という願いはあっても、そんな事が確実にできる確立された打法は存在しないというのが現時点での結論だ。

この話をより合理的に考えれば、そんな神業的な打法を身に付ける努力よりもヒットを打つ打法を身に付ける事の方が現実的だ、ということだ。バットの芯で捉える事に集中してそこに最大の努力を費やすのが最も理に叶っている。

その結果はホームランかもしれないし、三振かもしれない。だが、その努力の上で、無死三塁外野へ大飛球が出たのなら、それは「最低」でないことは確かなのだ。


さて、今週のタイガースにはとんでもない事が起こった。9点差を逆転したのだ。

もちろん、そこには四球や失策、投手起用の失敗など 複合的な要因はあったのだが 9点差をひっくり返したのだ。こんな痛快な事はない。

これで 首位に立てたし チームも乗っていけるだろう。しかし、投手起用の失敗と言っても、ここまでお粗末な投手起用はこれまでに見た記憶がない。

5日の4点差を逆転したのも 6日の9点差を逆転したのも 逆転できた最大の理由は 相手監督の下手な投手起用だった。

本来、投手を代える時には何らかの「基準」があると思う。それが投球数だったり、打者との相性、好不調だったり 色んな「基準」に基づいて、それが 各監督のポリシーというか特徴となっていく。そして、それが 監督自身の評価になるのだが、この二日間の広島にはどう考えてもその何らかの「基準」が見当たらない。

よく これで昨年優勝できたな、とすら思えてしまい、改めてセリーグのレベルを考えさせられた。

ただ、これでセリーグに 強いチームはない「0強」状態であるという事は ハッキリした。逆に「何弱」かに関しては コメントを控えるが、今のところ、玄人を唸らせるような野球をするチームはセリーグには存在しない。

まっ、相手チームの事はともかく、私は、タイガースがいずれ玄人を唸らせるチームになっていく様を見たい、と思っている。そしてそんな真のプロ集団が完成した時、私がタイガースをとやかく言うことはなくなり、晴れて卒業するのだろう、と思っている。

その「時」がいつ来るかはわからないが、今週も ファンを魅了するゲームをして欲しいと願っている。