野球ファンの皆さんの中にはプロ野球各球場のマウンドの形状は それぞれ違うと思っている方が多いのではないか。現に投手たちも「この球場は 投げやすい」とか「この球場のマウンド傾斜が好きではない」などとコメントしているのを聞く。

実のところ、ルール的にはマウンドの形状は きっちり決まっており 各球場も そのルールに従って作っている。

半径 9フィートの円、高さは 10インチ、円の中心より18インチ後ろに横 24インチ縦 6インチのプレートを置き、そのプレートからホームベース五角形の頂点まで 60.6フィートになるように作ってある。

これを日本のルールブックではインチやフィートを メートル法に直してあるので どうしても 半端な数字になってしまう。おさらいしておくと、1 フィートは 30.48cm、1インチは2.54cm なので先ほどの数値を日本流に表現すれば半径 2.7432mの円で 高さは 25.4cm、円の中心より45.72cm後ろに 横 60.96cm 縦 15.24cmのプレートを置き、そのプレートからホームベースの五角形の頂点まで 18.4404mになるようにマウンドを作るということだ。

つまりプロ野球チームのフランチャイズ球場のマウンドの高さは 全て 25.4cmで、また、勾配も1フィートにつき1インチと決まっており 全てが同一なのだ。

甲子園球場を管理する阪神園芸さんも この寸法を厳格に守っており自分達の仕事に誇りを持っている。これは他の球場整備の人達も 同様に違いない。

では、「違う」と言っている投手達が勘違いをしているのか、というと、これは土の色や硬さ、細かさなど 微妙な違いによって彼らに違和感を覚えさせるのだろう。

ファンの方の中には「マウンドの高さは25.4cmだ」というと 「えっ、そんなに低いの」と驚く方が多い。ご家庭にある30cmの物差しを立ててもらい 球場のマウンドを想像した時 確かに「こんなに低いのか」と驚く方もおられるかもしれない。しかしこれは実際に 25.4cmなのだ。

むしろ私が驚くのは それとは別に 18.4404mや25.4cmといった細かさの方である。18mと44cmだけならまだしも その先に.04cmがある。果たしてこんなに細かいところまで的確に測り作っているのだろうか?

高さも25.4cmというが、スパイクで歩いただけでも.4cmのところは変わってしまうだろうと、思ってしまうのだ。

仮に甲子園球場がコンマの単位まで正確に作っていたとしても 本当に他の球場も寸分狂わず 同一なのだろうか、と思ってしまう。高さ25cmなら何とかなりそうだが、その先の4㍉まで 「手作り」しているのならそれはもはや神の領域なのではないだろか、と考えてしまう。

プロの投手が 各球場のマウンドの違いを訴えるのは この細かさが原因の一つかもしれない。しかし、投手もプロなら整備する人もプロである。

各球場で誠心誠意 球場を整備されているのだと思う。雨の日も風の日もカンカン照りが続いても一生懸命、選手が良いプレーができるように、そして そのプレーを見たファンが喜ぶように整備しているに違いない。

そう思うと、ただただ感謝をするとともに この場を借りて 改めて彼らに敬意を表したい。これからも 選手の為に ファンの為に頑張って頂きたいと切に願う。


さて、今週のタイガースは 4勝1敗、3つの勝ち越しだ。中でも クローザーのドリスが4セーブと安定している。

ドリスは 昨年 11月、タイガースから契約を解除された。右肘手術の為だ。肘の手術をすると一般的に復帰までには最低 3・4ヶ月はかかり、術後の経過次第では 手術前と同じようなパフォーマンスができないケースもある。タイガースもそれを危惧した契約解除の判断だった。

ところがドリスは12月初旬に手術を受け、たった40日で90マイルを投げるまでの回復を見せた。驚異の回復である。これを知った日本の複数の球団やデトロイト・タイガースが獲得に乗り出したが、ドリス本人が「阪神タイガースでプレーしたい」と熱望し、今年2月の沖縄キャンプでタイガースの入団テストを受ける事になったのだ。

他のチームなら 確実にリリーバーの契約をしてもらえたであろうに あえて 合否の分からないタイガースの入団テストを受けたわけだ。

結果は 知っての通り合格だった。しかしタイガースサイドは この時すでにメッセンジャー、マテオ、そしてメンデスと3人の外国人投手と契約をしていたので 彼らが怪我などのアクシデントがない限り 2軍スタートである事を通達し、それでも良かったら契約するという条件を提示した。そしてそれをドリス側が承諾し契約となったのだ。

ドリスは タイガースが大好きなのだそうだ。代理人も怪我からの回復の目処がついた時に 他のチームへの契約を勧めたのだが、ドリスは どうしてもタイガースでのプレーを熱望し、この「再」入団に至ったのだ。

そんなドリスの魅力はまず本塁打を打たれないことだろう。昨年 彼は1本も本塁打を打たれていない。もちろん、今年もまだ被本塁打は無い。この調子だと セーブ王のタイトルも獲得できるかもしれない。

そして、何より 前述の再入団エピソードからわかるように「タイガース愛」に満ちた外国人選手がクローザーというのも面白い。

藤川球児の火の玉ストレートは伝説になったが、ドリスの動くボールも 相当なクセ球だ。これからも 素晴らしい活躍をしてくれるだろう。

他球団を蹴り、テストを受けまでして、タイガースに入団した外国人選手が、優勝の瞬間、マウンドに立っている。そんなシーンが見られたら、なんともオツなものである。そうだ、これはまさしく浪花節だ。ドミニカから来た浪花節投手、ドリスをこれからも応援したい。