バッティングは 予測である。しかしひとえに予測と言っても 相手バッテリーの配球を予測するという意味ではない。目から得た情報に基づき、予測する、という意味だ。

投手プレートからホームベースまで18.44メートルある。投手がボールをリリースしてから この18.44メートルの間のどこかで必ず 打者は打つ、打たないとか 球種はストレート、変化球とか そもそもストライク、ボールとかを予測し、 判断する場所がある。

打者にとっては とても重要な場所で ここでの判断を誤れば 打てる事はない。こんなに大事な場所にも関わらず 呼び名がなかったので数年前 私が「フォーカスゾーン」、すなわち、「Fゾーン」と名付けたのだ。

この「Fゾーン」で得た情報から ホームベースを通過する時はこんな風に来るだろうと予測をしてバットを出す出さないを決めるのだ。もちろん、予測にはそこからの 減速率や降下率などの瞬時の判断も含まれる。

例えば、球速が140㌔の場合、投手がボールをリリースしてから約0.5秒ぐらいでキャッチャーミットにボールが収まる。「Fゾーン」は だいたい 投手と捕手の中間にあるはずなので「Fゾーン」からキャッチャーミットまでは おおよそ 0.25秒といったところだろう。

つまり、打者は、約 0.25秒前に目から得た情報に基づき 減速率や降下率を即座に計算し バットを出すわけだ。これが、バッティングは予測のスポーツであるという訳である。

0.25秒というのは140㌔前後のスピードの場合であり、150㌔となればFゾーンからキャッチャーミットまでは 0.2秒ぐらいしかない。因みに人間の瞬きの時間は 0.3秒ぐらいだそうだ。これよりも短い時間の中で減速率や降下率を考え、その時間に間に合うようにバットを振るのだ。

これは神業の域である。変化球も時代とともに多種多様になっている。バッティングがスポーツで一番難しいと言われる所以である。

そんな中、この「Fゾーン」が ホームベースに近けりゃ近いほど 良い打者という事になる。彼らは 0.25秒より短い時間で予測・判断している事になる。

ボール球を振ってしまう打者とそれを見逃せる打者の違いは 「Fゾーン」の位置が 0.01~0.02秒ぐらいホームベース寄りか否かで決まる、という訳である。簡単なボール球に手を出すバッターを見て嘆かれる方もこの説明で如何にバッティングが難しいか分かってもらえたと思う。

さて、皆さんは ジャイロボールというのをご存知だろうか?ジャイロとは物体が自転回転をする時に姿勢が乱されにくい現象を指すそうだ。ライフル銃から発射された球の回転がジャイロで直進性の高い回転という事だ。

ジャイロボールを変化球だと記憶している人もいるようだが ジャイロボールは変化はしない。ピストルの球が伸び上がったり大きくカーブしてもらっては困る訳で 何しろ 真っ直ぐ進む為に適した回転という事だ。

アメリカンフットボールのクォーターバックの投げるボールが まさに ジャイロボールである。野球の投手のストレートのようにバックスピンをかけてしまうと浮き上がろうとする揚力が働き実のところ直進性を失ってしまう。

つまり、物体を真っ直ぐ進ませたり、減速しない為の最適な回転がジャイロという事になる。だったら、野球の投手も ジャイロボールを投げれば 減速率の低い直進性に優れたボールが投げられるのではないか、と思う方も大勢いると思う。

しかし、これが難しい。アメリカンフットボールのように ボールが楕円形なら正確なジャイロボールは投げられる。しかし、野球のボールみたいに真ん丸なボールにジャイロの回転を与える事は至難の技なのだ。

楕円ボールと同じ様に回転をかけると、逆に、変な回転を与えてしまい ツーシームみたいなボールになってしまったので「ジャイロボールは変化球」と誤解の原因となってしまった。

もし、本物のジャイロボールが投げられたら 120㌔台でも充分 通用すると思うのだが 今のところ、これを進んで習得しようとする投手はプロ野球界では皆無だ。

その理由としては、まずオーバーハンドスローの投手が投げるボールにジャイロの回転を与える事は 到底 無理な話なのだ。多くの投手が該当するスリークォーターでも無理だろう。

しかし、唯一アンダーハンドスローの投手には それが出来る可能性がある。ロッテ時代の渡辺俊介や西武の牧田和久の良い時は ストレートがジャイロボールになっていた。意識してか無意識かは 分からないが 彼らが 絶好調の時のストレートはジャイロボールである。

8月28日、甲子園でのヤクルト戦、ヤクルトの投手、山中浩史の投げるストレートはジャイロボールだった。これは 去年から気付いていたのだが 彼の武器は減速しないジャイロボールなのだ。

ただのアンダーハンドスローのストレートだと思って打ちに行ったら打てる事はない。つまり、タイガースの打撃陣は 「Fゾーン」で得た情報を修正する必要があるのだ。

減速率や直進性を計算し直し、ホームベース上では こんな感じでくる、と正しく予想し直す必要があるのに、それに気付かず、いつまでも 従来の方法で山中を攻略しようとするから同じようにフライアウトを繰り返すのだ。

球種で的を絞ったり、打つ方向を決めたり、高めのゾーンに手を出さないように、と従来の攻略法を考える前に ジャイロボールであると認識し「Fゾーン」の修正を行わなければ山中を攻略できる事はないだろう。

もちろん、山中が調子を落とせば攻略する事が出来ると思う。しかし、それはあくまで山中が調子を落し、ジャイロボールを投げられない時、に限られる。

次の山中との対戦で、タイガースの選手がどんな対策をするのか危惧している。山中の投げるストレートは ジャイロボールであると認識する事が攻略の糸口となるだろう。同じ投手に同じようにやられるのは プロとしては残念である。次回こそ、山中を攻略して欲しい。

さて、先週は ベイスターズに3タテして 意気揚々と久しぶりの甲子園に戻ったのだけど、ヤクルトに3連敗。改めて、タイガースを応援するという事は 非常に疲れることを痛感した。

今週は 元気のないドラゴンズと相性の良いベイスターズとの5試合だ。今週は 愉快な一週間になる事を願っている。