連日、熱戦が繰り広げたリオ五輪が終わった。

この間、夏の高校野球もあり、昼は高校野球、夕方からプロ野球、そのあとは リオ五輪と、24時間中TVをつけていた時間は 20時間ぐらいあったと思う。

連日、一喜一憂していたわけだがオリンピックや高校野球が終わってしまい胸にポカンと穴が開いたような寂しい思いになった。しかしこれだけ楽しませてもらったのだ。リオ五輪や高校野球の選手はもちろん、監督やコーチ、そして、その関係者の皆さんに 改めて感謝の意を表したい。


さて、私は 現役を退いてからは野球というスポーツを物理的や理論的に考える事にしている。ところが野球には「感覚」や「感性」は大切なものがあるので、どうしてもフィーリングの話になってしまう。しかしそれでは人には上手に伝わらない。従って、野球の解説や選手を指導する時など「あんな感じ」や「こんな感じ」といった表現を極力避けるようにしている。

ボールを遠くへ飛ばしたり速いボールを投げるには 物理的な要因がある。これはなかなか一言では片づけられないのだが、野球中継やスポーツ紙の評論には時間や文字数が限られている。

そこでどうしたら短い時間や限られた文字数で、それらを説明できるのか、あれこれ考えているうちに、失敗してしまうなどということもある。これを限られた環境で如何に上手く説明するかは私に与えられた大きな課題である。

幸いブログには文字制限がない。従って、今回は その名誉挽回の意味も含めて、遠くへ飛ばしたり速いボールを投げるエネルギーについてたっぷりと物理的なお話しをしたい。

皆さんも リオ五輪は ご覧になったと思う。ご存知だと思うが、そのリオと日本の位置は ちょうど地球の真反対にあり、時差が12時間ある。

地球の周囲の長さは 赤道付近で 約4万㌔あるので リオと東京は 約2万㌔離れている事になる。という事は、地球は自転しているので12時間で2万㌔移動している事になるわけだ。これは時速に直すと 1667㌔になる。

つまり、地球の自転スピードは 1667㌔という事になり赤道付近にいる人は1667㌔というもの凄いスピードで移動しているのだ。これは 民間の旅客機の約2倍のスピードだ。音速は 秒速340メートルで、時速に直すと1225㌔だ。

要は 音速よりも速いスピードで地球は回転している事になるのだ。遊園地のクルクル回る乗り物や公園の回転する乗り物が1667㌔で回転していたら その乗り物に乗っている人にはもの凄い遠心力が働き、吹っ飛んでしまうと思う。

では、なぜ、我々は吹っ飛ばされず この地球で暮らしていけるかと言えば、それは その遠心力よりも強い地球からの重力に引っ張られているからだ。そしてこの重力こそが遠くへ飛ばしたり速いボールを投げたりする事に大きく関わる。

体重が60㌔の人は 地球から60㌔で引っ張られ、体重が100㌔の人は 地球から100㌔で引っ張られている。例えば、5メートルの高さから 体重が60㌔の人と100㌔の人が飛び降りた時、地面に落下した時のエネルギーは100㌔の人の方が数段に高い。

その反対に、地球から引っ張られてる反対の方向へ動く時も同様に100㌔の人の方がエネルギーを要する。つまり、60㌔の人は60㌔のエネルギーしか地球から得られないし、体重100㌔の人は 100㌔のエネルギーを地球から得られる。

ボールを遠くへ飛ばしたり、速いボールを投げるには、地球から引っ張られる反対のエネルギーを使う。これを反射エネルギーと言うのだが、この地球から受ける反射エネルギーを利用して 遠くへ飛ばしたり、ボールを投げるのである。

という事は、反射エネルギーの大きな人の方が遠くへ飛ばしたり速いボールを投げるには有利になるという事だ。ただ、これには限界もある。例えば、一般的にベンチプレスは体重の2倍、スクワットは体重の3倍が限界と言われている。

従って、ベンチプレスで200㌔を持ち上げようとすれば 単純に体重を120㌔ぐらいに増やせば 持ち上げられるし、逆に体重が70㌔の人には 200㌔のベンチプレスを持ち上げる事は物理的には不可能ということになる。スクワットも同様で すべて 地球からの反射エネルギーが関わるのだ。

長い説明になってしまったが、これらのことを単純に言えば、一般に「パワー」というものは 体重のある人の方が有利という事なのである。

柔道やボクシングのように体重別の競技があるのは全て、地球からの反射エネルギーが左右するから細かく階級を分けるのである。このように、地球上で生きている限り 重力とは無関係ではいられないのだ。

しかし、今のプロ野球界には物理に反する不思議な現象が起こっている。ヤクルトの山田哲人である。体重70㌔そこそこの山田がホームランを量産できるのは この物理の法則から考えると非常に不思議な現象なのである。

絶対的に不利な状況にも関わらず体重の軽い山田がホームランを量産している現象は ボクシングで言えば フライ級のボクサーがヘビー級のボクサーと戦ってパンチ力で勝ってしまうようなもの。

そんなことは物理的には不可能であり、私程度の物理学知識では到底解明できない。まさに 不思議なホームランバッターと言える。

投げる方でも江川卓さんやかつての藤川球児みたいに浮き上がるようなストレートを投げるられる不思議な投手がいる。本来、物理的にはボールが重力に反して浮き上がるなどあり得ないことである。彼らもまた不思議な投手と言える。

物理的視点で野球を観ていると、いろいろと理に叶っていることを発見できるのだが、稀に物理学では説明できない極めて不思議な光景を目の当たりにすることがある。こうした物理の概念を超越した人間の力を見るということは楽しいものである。


さて、先週のタイガースは 1勝4敗、手負いのドラゴンズに快勝して 「もしかしたら」と良い方向へ確変に淡い期待をしていたのだが、カープやジャイアンツに惨敗してしまった。

特に印象的だったのが 陽川の2軍降格だ。陽川が既に3拍子 揃っている選手ならば1軍で活躍しているだろう。何か問題があったから2軍で調整していたわけで そのような選手をたった一つのエラーで2軍降格とは 感情が優先された人事と言わざるを得ない。

しかも、あの場面は、1死 1・2塁で 阿部のセンター前ヒットで センター中谷が3塁へ送球した時に投手の青柳は 3塁のベースカバーを怠っていた。

1・2塁の場合、投手は打球判断をし 捕球した外野手が本塁へ投げても3塁へ送球しても良いように 3・本間に行き、その送球を見て 本塁へ行ったり3塁へ行ったりとするのだが 青柳は この時本塁のベースカバーへ行ってしまった。そこに3塁へ送球されたボールを陽川が後逸、ボールが転々とする間にホームインされたのだ。

つまり、陽川がボールを後逸しても青柳がしっかり 3塁のカバーリングをしてれば無駄な失点は防げたのだ。もちろん、陽川にも過失があったが過失の割合は 陽川が6で青柳は4、というところだろう。

従って、当然、青柳にも何らかのペナルティが与えられても良いハズだが 陽川のみ2軍降格で事が収まった。

陽川は横田同様、もうチャンスがないかもしれない。しかし、あれだけの逸材を たった一つのミスで2軍へ降格させるのは「育成」という観点から見ても もったいない。

若い選手には ミスを怖がらずにプレーをして欲しいのだが、ミスをすれば2軍降格というペナルティが常態化してしまったら 思い切ったプレーなど出来るハズがない。

2度も3度も 続いたミスならペナルティを課せられるのも仕方ないが 1軍へ昇格後、最初の先発で 一度のミスで降格させられた陽川の気持ちを思うと可哀想で仕方がない。

「育成」と「我慢」は ワンセットだと思う。また、陽川にチャンスを与えて欲しいと祈るばかりである。