私は常々、野球には 打つ・守る・走るといった見える力と「運」とか「勢い」「流れ」といった見えない力があり、試合を左右するのは その見えない力だと言ってきた。

しかし、見えない物だけに これを使いこなしたり見極める事は非常に難しい。だからこそ、運を良くする為に げんを担いだり、勢いを止めると言われる軽率なミスしないように注意を払ったり、流れを相手に渡す不用意な四球を出さないようにと心掛けるわけである。

それゆえに解説者といわれる人達は 流れや勢いを無くすプレーが起こると、これ見よがしに厳しく指摘してきたわけだ。

私も その一員だが、しかし最近、その流れや勢いについて根本的な疑問が出てきた。本当に 勢いや流れは試合を左右するのか、と。

長年、野球界で言われてきた事がある。例えば、負け試合でも 9回の最後の攻撃で良い結果が出れば「明日に繋がる」とか、好プレーは流れを引き寄せるとか、バントを一球で決めたり、相手の攻撃を自軍の投手が簡単に3人で打ち取れば「これで攻撃のリズムが良くなります」なんて事が いつからかは分からないが言われてきた。

しかし、何気なくよく使われてるこれらのワードだが、果たして本当なのか、と疑問に思い始めた途端、つじつまの合わない事が多くある事に気がついた。

4月1日のDeNA戦、1-0とリードし 9回裏を迎えた場面、先発の能見は好投し、8回までDeNA打線を 3安打、無得点と完璧に抑えていた。

前日のヤクルト戦でクローザーのマテオを3イニング投げさせた都合でこの日は使えない状況もあって、ベンチとしては能見に9回を投げ抜いて欲しい場面でもあった。

9回裏、先頭打者の筒香に本塁打を打たれ同点とされ、その後、ヒットと四球で2死 1・2塁とピンチを迎え、能見から歳内に変わった2球目に下園にサヨナラ打を打たれてしまった。

こんな負け方をすれば 、従来言われてきた流れや勢いを鑑みれば次の試合は ほどんど 勝てない、というのが球界の常識だろう。しかし、タイガースは 翌日 5-0で DeNAに勝利した。

もちろん、岩貞の好投がDeNAの勢いや流れを止めた、という解釈もできよう。1回裏、2死、1・3塁で 筒香の盗塁死がなかったら、どうなっていたかは分からない。岩貞の好投や筒香の盗塁死が前日の勢いや流れを変えたという見方もあるが DeNAから見れば、前日の快勝にもかかわらず その流れや勢いを活かせず、翌日の試合は完敗だったのである。

8日、今シーズン初めての甲子園での公式戦をタイガースは 劇的なサヨナラ勝ちをした。誰もが この勢いや流れを翌日へ、と思ったであろう。しかし、結果は 2-6の逆転負けである。しかも、この試合では 9回表、1死、1・2塁、2-2の同点の場面で、カープの松山の打球を福留が、2死後 會澤の打球を江越が もの凄い好プレーを見せたのだ。

にもかかわらず 勝てなかった。仮に タイガースが勝利していたら 勝因をこのプレーにあげる解説者は多かったであろう。だが、立て続けに起こった好プレーでも試合の勝敗にまったく影響を与えなかった。

これでは、流れとか勢いって なんなんだろう?って疑問に思うのも私だけではないはずだ。何の疑問もなく、固定観念や先入観に縛られている人は私の話は退屈だと思う。しかし、野球を語る上で 流れや勢いは欠かせない。この問題に無頓着ならば解説者失格である。

私の持論だが、評論家は 誰にでもできる。的を射ていようがなかろうが主観を言えばいいだけだ。従って、野球ファンのほとんどは ある意味、野球評論家と言えよう。

一方、解説者は難しい。誰にでも できるわけではない、というのが私の持論である。そして、かく言う私もまだ解説者に成りきれていない。

勢いや流れが 本当に試合を左右するのか、そして、勢いや流れとは どんなものなのか、もっと勉強して それらを解説できる人間になりたいと思った一週間であった。

さぁ、明日から6連戦が始まる。4月、5月は6連戦が多い。10日のカープ戦、9回裏の3点が 明日からのDeNA戦に 何の影響も与えないかもしれない。はたまた良い影響を与えてくれるかもしれない。

タイガースがゲームの流れや勢いをものにし、そして、運も味方につけられる事を願っている。