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名演の応酬にお腹いっぱい
(C)2019「ひとよ」製作委員会
ひとよ
子どもたちへの暴力が絶えない夫を轢き殺したこはる(田中裕子)は「15年後に帰ってくる」と言い残して出頭する。15年の間に、大樹(鈴木亮平)は結婚するも妻と不仲で別居中、園子(松岡茉優)は夢だった美容師をあきらめ地元のスナックで働き、雄二(佐藤健)は東京に出てライターの仕事をしていた。15年が経ったある日、こはるがふらっと帰ってくる。
(C)2019「ひとよ」製作委員会
人のために意を決して行動した。ところが、その人に伝わっていなかったり、違うように汲みとられたり、意図せず圧をかけてしまったり。想いが伝わらない…自暴自棄になったり落ち込む必要はない。そんなことはよくあることなのだから。
劇作家桑原裕子の舞台作品を映画化。親に縛られ続ける子世代の苦悩。そんな子どもたちを目の当たりにする親の苦悩。殺人事件、介護、反社会…さまざまな場面で親と子の関係に苦悶する群像劇を初見。芝居巧者たちの演技力に圧倒される。
(C)2019「ひとよ」製作委員会
演技力重視なのがいかにも舞台劇。親のせいになんかしたくないのに、今の不遇の原因をどうしてもそこに求めてしまう。クライマックスの雄二の叫びに震える。一方で「後悔してはいけない」母の慟哭。本作中最難関の演技表現だ。
認知症の母への複雑な想いや元反社の家族の怒り。正すべきは社会である。一人で太刀打ちできないから、社会に受け入れられない行動をとった者への責任転嫁となる。落としどころのないラストは問題提起。舞台らしくはあるがモヤモヤは残る。
(C)2019「ひとよ」製作委員会
他作品のレビューでも書いているが、佐藤健の闇を抱えた演技は絶品だ。鈴木亮平のキャラ造りは安定領域。どんなキャラにもなりきれる巧者である。松岡茉優は矛盾する複数の感情を小出しにする難役。もう「演技派」と呼んで異論なし。
佐々木蔵之介、音尾琢磨、筒井真理子らが実力を発揮して脇も濃厚。ダメ押しで本作の主演の一人と言っていい田中裕子。お見かけすることがずいぶん減った気はするが、まだまだ健在である。いや、歳相応の深みは増し増しではないか。
(C)2019「ひとよ」製作委員会
登場人物の抱えるケースが特化していてリアリティは薄い。共感型の作品ではないのだが、こういう家族は身近にいてもおかしくない。「もしも近くにいたら、あなたは寄り添うことはできますか?」…そんなメッセージなのでしょうか。
新旧演技派俳優の演技合戦は、お腹いっぱいなくらいに堪能できる。ただし、決して観終わってスッキリする作品ではない。心に余裕がある時の視聴がベストだが、余裕がない時に観てしまったら共感側に回ろう。辛くても「一人じゃない」と。
DATA
監督:白石和彌/脚本:髙橋泉/原作:桑原裕子
出演:佐藤健/鈴木亮平/松岡茉優/音尾琢真/筒井真理子/浅利陽介/韓英恵/MEGUMI/大悟/佐々木蔵之介/田中裕子
hiroでした。