ポケット | ヒロピーのとやまからこんにちわ(仮)

ヒロピーのとやまからこんにちわ(仮)

 ★LGBT支援Gr. [ レインボーハート富山 ] 所属
 ★著書 [どこまでも続く、この空のように]
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「雪も だいぶ溶けたね」


『うん』


日も射し、一月としてはやや暖かかったが、頬にあたる風は冷たかった。


ふうっと吐いた白い息は光の中へと消えていった。



雪解けも進み、レンガ造りの歩道には所々に水たまりができていた。


僕は嬉しくて、歩道の脇にまだ残っている溶けかかった雪を見つけては飛び跳ねて靴で踏み、その感触を楽しんでいた。


彼はそれを見ながら、微笑んでいた。






初詣。


三が日も過ぎ、お寺に来てる人もまばらだ。


カランカラン


お賽銭を入れ、二人並び、ぱちっぱちっと手を合わせた。




――彼に出会わせてくれてありがとうございます。


僕は、心の中で お礼だけ伝えた。




「何お願いしたの?」


僕が聞くと、


『ひみつ』


彼が答えた。




「仕事のこと?」


『違うよ』



「お金のこと?」


『ん~ん (・_・ 三・_・)』



「僕たちのこと?」


『言ったら願いが叶わなくなるっていうじゃ~ん』



「あはは。そっか。ごめん」


二人は笑った。今年初めて見る彼も、僕には眩しく見えた。

彼が着た大きなコートの中は、とても温かそうだった。





『おみくじ しますか?』


「ん~~。いや、いいよ」



おみくじで占わなくても、今が十分幸せだから。


こんなにすぐ近くに、僕の大好きな人がいる。

彼の丸い顔、優しくて温かい笑顔。



おみくじを引いて、こっちを向いて何か言ってる。


彼の手をとって、彼の上着のポケットに一緒に入り込んだ。


ポケットの中で絡み合う手と手。


見つめ合った僕ら。


まだ冷たい二つの手は、しだいに暖かくなっていった。




「お雑煮食べた?」


『はい』


「お餅何個食べた?」


『……個かな』


「このあと、一緒に……」



体を寄せ合いながら歩いていく二人の声は、しだいに遠くに消えていった。






街には、車の音も正月休みなのか滅多に聞こえてはこなかった。


静かで穏やかな街並みに、僕と彼の足音が響いていた。