今の会社に勤めて4年半が経った。
僕がこの会社に入る事を決めた理由は
たった1つ。
仕事の制服がポロシャツだった事。



僕は高校を卒業して進学はせずに就職をした。
この会社を辞めたら2度と
こんな大手には入れないだろうと思う
そんな誰もが聞いたことのある会社に
高卒の就職枠で入ることができた。

大手で将来安泰だろう。
そんな気持ちが一番大きかった。

ホルモン注射を始めたのは25歳と
かなり遅い方だった僕は
当然当時は女子として入社をしたのだった。

会社の制服はあったけれど
女子の事務職で入社した僕に
用意されていた制服はもちろん、
女性の事務服で
いかにもらしい
グレーのブレザーとスカートだった。

それ以外の部署に配属される人は
仕事柄、男女関係なく
作業着が用意されていた。

入る前から分かってはいたものの
いざとなると苦痛で仕方がなく
周りから見れば
どう見ても女子にしか見えない容姿でも
短髪でサッカーをしていたと話すと

「事務職に無償で配られる制服は
この事務服だけど嫌だったら
自腹になっちゃうけど
作業着に変えても大丈夫だよ」

と、入社をして少し経った頃
僕の教育担当が教えてくれた。

その言葉を聞いた翌日には
作業着を買い、スカート生活を即辞めた。


たくさんの人が働いている
会社ではあったけど 
圧倒的に男性が多い職場だったこともあり
着替える場所が女子ロッカーだった僕は
なるべく人がいない時間を狙って
人がいたら周りを見ないように
そして自分の着替える姿を見られないように
誰も何も気にしていないその空間で
ただ1人葛藤を繰り返していたのだった。

トイレで着替えていたこともあったが
不審な目で見られているような気がして
普通のレールから
踏み出すことのできなかった
僕は人のいない女子ロッカーで
普通に着替えるという手段を選んだ。


その後その会社に2年弱勤めた後
とある訳があって
辞めざるを得ない状況になった。

次に働いたのは某居酒屋チェーン店。
僕はその後
このチェーン店で20-24歳の
約5年弱フリーターの身ではあったけど
週6、自分の意思で法律で定められている
ギリギリの時間まで働いた。

この居酒屋で働くと決めた理由は
時給と、男女一緒の制服だということ。

その後僕は今勤めるこの会社に入る前に
営業職として入社した会社で
3ヶ月もたずに辞めたことがある。
その会社には僕の全てを打ち明け
それでも受け入れてくれ、入社をした。
でもそれが僕の足を引っ張ることになった。

名前はビジネスネームを使わせてくれ、
何不自由ない生活だと最初は思えた。
けれどある日状況が一変した。
営業職だった僕は
毎日飛込みや電話、
チラシ配りなどをしていた。

そんなある日、
ある病院に飛込みをした先に
高校時代のあまり仲の良くない
知り合いが働いていて
高校卒業以来に会ったのだった、

初めはそのことが全くわからなかった。
というのも、
僕が飛込みをして挨拶をしたのは
その子ではなく違う受付の女性に
パンフレットなどを渡したからだ。
そのパンフレットには僕の
顔写真もついていた。

飛込み営業なわけだから
アポイントなど取ってる訳もなく
入口で門前払いは当たり前。
でも他のお客様や病院なら患者さん、
見ている人がいれば
一度は受け取ってくれたフリもされる。

少々お待ちくださいと言われ
10分近く待たされて
出てきたのは
その同級生だった。
その同級生はニコニコなのか
ニヤニヤなのかわからないけど
とりあえず終始笑っていた。

その出来事が起きたすぐ後に
また別の場所飛び込んだお客様から
ある日電話が掛かってきた。
その相手先は居酒屋だった。

僕の勤めたその会社は週末休みだったけれど
電話が掛かってきたのは
土曜日か日曜日。
話の内容はこうだった。

「あなたさ、背も低いし声も高いし
どう見ても女の子にしか見えないよね。
僕の嫁にも見せたけど
これ、女の子だよね?って言ってたよ。
昨日来たお客さん達にも見せたんだけど
全員女の子だって言ってたけど
やっぱり女の子なんじゃないの?」


僕の心はその瞬間
完全に砕け散ってしまった。



僕は、真面目な方だ。
そして負けず嫌い。
頭は良くないから
人より出来ないところから
始まる事が多かった。
その分、失敗を繰り返して
できるように努力するしかなかった。


その会社では新人は週300件、
月〜金の5日間で1日60件の
アタックがノルマだった。

入社をして研修を終え営業活動を始めてから
ずっと当たり前のようにクリアしていた
そのノルマをその日の翌日には
40件、その翌日には20件と明らかに減り
上司も異変にすぐに気がついた。

僕はその時、
人の目を見て話すこと、
電話を取ること、
そして外で顔を上げて
歩くこともできなくなっていた。

そうして休養するように言われて
1ヶ月間の休暇を与えてくれた。

僕はその1ヶ月引きこもり状態になって
呆気なく去ることになったのだった。

そして僕はフリーターで働いていた居酒屋に
お願いをして出戻りをして
少しずつ普段の自分に戻っていった。



きっと僕は心が弱いのだと思う。
けれど弱いとう事実を
認められていなかったのだと思う。


僕の意思と
周りの環境とのギャップ、
甘えてしかなかったのかもしれない。

でも僕は男、女と分けられる環境から
いつもいつもいつも逃げてきた。

それなのにどうして
スーツを着て普通に働きたいとなんて
思ってしまったのだろう、
そんな風に初めからわかりきっていた
理由を言い訳に逃げ出した。

だから、
同じ失敗をしないために
僕はスーツを着ない、
男女で着る服装の違わない
そんな会社を探した。

理由としては
そんなくだらないこと。
でもあの時の僕にとっては
それが何よりも一番大切なことだった。


続く