新品の包丁も使い続けると、まな板との衝撃や摩擦で刃先が潰れていずれ切れなくなります。
鶏の皮が切れなくなるとか、トマトが滑って潰れてしまうとか、玉ねぎを切ると涙がでるとか、包丁の切れ味が悪くなるといろんな支障が出てきます。
そんなときには、シャープナーや砥石で包丁を研ぎなおし切れ味を復活させます。
現在、実家を離れ京都に下宿状態なので、実家でこれまで使っていた砥石の多くは置いてきたままです。スペースの制約もあり、京都へはキッチンの棚に置ける最低限の砥石に絞り込んでいる状態です。
これまでは、あれやこれやの砥石と包丁の組み合わせで研ぎ味を試すことが多かったのですが、こちらに来てからは、逆に「研ぎを趣味にするというマニアではなく、一般の方が一本だけしか使えないならどの砥石を使うのがよいのか?」ということを考えるようになりました。
そしてあれやこれやを試した結果、現時点では「包丁を研ぐならこちらの砥石がよいだろう」という結論に至りました。
メーカー:キング砥石株式会社
製品名:キングホーム砥KW-65(HT-65)#1000/6000
使用してすでに2年ほどは経っていますので使用感はありますが、左から「説明書」「砥石本体」「研ぎ台」「パッケージ」の商品構成です。
説明書には、一般的な包丁研ぎの方法が記載されています。この砥石は使用前に水に漬けて水を吸わせるタイプです。
砥石の粒度は1000番と6000番、表と裏の両面砥石です。
粒度は砥石の目の細かさで、数字が小さいほうが荒く、数字が大きいほうが細かくなります。
1000番は中研ぎ用の中間の細かさ、6000番は仕上げ用の細かさになります。
通常、包丁では「刃の欠け」などがなければこの1000番と6000番があれば研ぐことができます。
よって、よっぽど手荒に包丁を扱うか、不注意などにより刃を欠けさせることがなければ、この2種類の粒度の両面砥石が一本あればたいていの包丁に対応できるということです。
また、この商品には「研ぎ台」が付属しています。
裏には滑り止めのゴムがついています。
包丁を研ぐときに、砥石がガタガタと動くと正確に研ぐことができないので、「研ぎ台」があると助かります。
こちらが1000番の面です。茶色です。
こちらが6000番の面です。クリーム色ですが、前回研いだ時の鋼の黒い粉が付着しています。(理由があり、わざと付着したまま保管しています。)
この砥石は、1000番のほうは少しやわらかめで減りやすい感じはありますが、研いでいて研ぎ面の状態に神経質な点がなく安心感があります。
それに対し6000番のほうは適度に硬さがあり、よく包丁の刃先が研げている感触が伝わります。
これだけの良質な砥石のセットが通販ではわずか3000円ほどで手に入るというのはあらためてすごいことだと思います。
切れなくなった包丁を3000円出してそのたびに買いなおすよりも、3000円の砥石で新品以上の切れ味に研いで使い続けるほうが、なんだかいい暮らし方のような気はします。
たしかにそれはそうなのですが、実は砥石もメンテせずにいつまでも使えるというわけではありません。
先ほどの説明書に「トイシ面にゆがみが出来た場合は」というくだりがありました。
砥石で包丁を研ぐと、包丁の刃があたる部分の砥石が削れてしまい、特によくあたった部分がいびつにへこんできます。(だいたい 砥石の端よりも中央がへこむことが多いです。)
そうなると、「片刃」という形式の包丁(和包丁に多い)はもちろんですが、「両刃」という形式の包丁(洋包丁に多い)でも、砥石が正確に刃先に当たらず包丁を切れ味よく研ぐことができなくなります。
砥石の表面は、常に「平面」でないとちゃんと研げない、ということです。
そこで登場するのは、「砥石を研ぐ砥石」つまり「面直し」用砥石です。
なんだか変な感じですが、これは非常に大事なことなので、これを面倒くさがらずにやることが必要です。
逆に言えば、これさえしっかりとやれば、少々研ぎの技術がまずくても包丁くらいなら誰でもよく切れるように研げると思います。
「面直し」の原理としては、砥石の表面同士をこすり合わせてお互いのでっぱりを削り、平らな平面を作ります。
専用の「面直し」用砥石というものもあるので、それを使うのももちろんよいのですが、ものによっては普通の砥石よりも値段が高かったりするので、マニアでない一般の方にはなかなかおすすめしにくく思います。
そこで、もっと手軽で安価なものを使っていただきたいと思い試してみました。
100円ショップで購入できる研ぎ目の粗い「荒砥」(あらと)です。
写真のものは「セリア」で購入しましたが、その他のお店でも同様のものが入手できると思います。
パッケージの裏面には、研ぎ方が一応載っていますが、通常の手入れのためにこの砥石で包丁を研ぐことは避けたほうがよいと思います。
特に刃先に欠けがない場合は、この砥石で研ぐと余計に刃先を傷つけてしまうほどの粗さです。
こちらは240番の面です。茶色ですね。
側面の状態。
こちらは120番の面です。さきほどよりさらに粗いです。こげ茶色ですね。
240番・120番いずれの面も平面はしっかりと出ているようです。
それでは、この100均の砥石を使ってキング砥石の1000番の面の「面直し」をします。
あらかじめ水に漬けておいた砥石を研ぎ台にセットします。
鉛筆で模様を描きます。面直し用砥石とすり合わせてこの模様が消えるところまで削れればOKです。(実はこの面は中央が少しへこんでいます。)
100均砥石の120番の面とすり合わせます。左右の角も写真のように落とします。
しばらく擦り合わせると、中央部の模様だけが残ってきました。
さらに擦り合わせると模様は消えました。
これで1000番の面は平面になりました。
続いて6000番の面です。鋼の粉が全面に付いたままで保管していましたので、鉛筆の模様は書きません。
100均砥石の240番の面と擦り合わせます。
しばらくすると平面になりました。
側面から見た写真です。
このように砥石の面直しは、少なくとも包丁を一本研ぐごとに行うと常に平面が確保できて包丁研ぎが簡単になります。
面直しをすると砥石が無駄に削れてもったいない気がしますが、歪な砥石で包丁を研いで砥石を削っても包丁に決して良い刃は付きませんので結果的に面直しをしない方が無駄になります。
面直しは「毎回」「絶対に」です。
では砥石の平面が出たところで、試しにフレキシブルナイフというタイプの包丁を研いでみます。まだ切れ味はそれほど落ちていないので、6000番の仕上げのみ行います。
先ほど包丁を研ぐと砥石の中央がよく削れると書きました。それは包丁を研ぐときに刃先をストロークすると往復運動になるので、中央部分が一番刃先が通過する回数が多くなるためです。
それを避けるためには、できるだけ砥石の表面の全面を均等に使うという方法が適切です。
やりやすいのは、写真のようにまずは砥石の奥半分だけで刃先を研ぎます。
そのあと砥石の手前半分だけで刃先を研ぎます。
そうすると中央だけを研ぎすぎることなく砥石の全面をある程度均等に使って研ぐことができます。
最後はコピー用紙がひっかかりなく軽く切れるかチェックします。
以上、もし一本だけ持つならおすすめの砥石と砥石のメンテの方法のご紹介でした。
包丁の研ぎについては、また別の機会にご紹介したいと思います。(100均の包丁を研いでみて、どれだけ長く切れ味が続くかなどもいちど試してみたいです。)