スウェーデン人の奥さんが3メートの段差から
落ちて病院に運ばれた。
頭を強く打っていて、
助かりそうな感じではない・・・。
子供も一緒に落ちたことに気づき
病院に連れて行く私。
子供は体が柔らかいからか、
大事には至らなかったよう・・・。
病院通いがつづくこの家族の力になれと
義母が言う言葉に
イライラしてしまう私。
できる限りにことはやっているつもりだが
この事件でストレスを感じていた私は
人から色々なことを指図されることに
我慢できなくなる・・・。
心が狭いとはこのこと・・・
しかし、相手が望んでいないことを
無理やりするのは
私の流儀に反する。
基本おせっかいではあるものの
こういうデリケートなことには
欧米人のようにズカズカ入っていくのは
難しいのだ。
それに、他人の子供の面倒を見ることは
とてもじゃないけど
あのときの私にはできることではなかったと思う。
一見、引き受ければカッコいいのはわかっていた・・・
しかし・・・
実際は育った環境も、国も、文化もぜんぜん違う子供。
何をどうしていいのかわからない。
他人の子供を預かることは
この子に責任を持つこと。
命を預かること。
ちょっと遊びに来るのとはわけが違う。
12時間以上この子の面倒を見ることになるのだ。
ほぼ一緒に生活するようなもの。
他人の子供だからこそ、何かあってはいけないと
いつも以上に緊張する・・・。
そうじゃなくても母親があんなことになったんだ・・・。
他人の私にどうこうできるレベルではない。
それに、偏食が多い外国人の子供に
どうやってご飯を食べさせればいいのか、
何がアレルギーなのか、
何が苦手なのか、
何をしてはいけないと言われているのか
何が彼らの中で常識なのか・・・。
まったく見当もつかない。
何となく見当がつく日本人の子供を預かるのとは
わけが違うのだ。
簡単に「私に任せて」とは言えない自分もいた。
しかし、旦那さんも追い詰められている・・・。
そんなことはわかっている。
だから、自信はないけど
一応声はかけてみた。
しかし、やはり信用できる人に
子供を見てもらえるほうが
安心できるし、気兼ねがない・・・。
そんな理由から
この子供をイギリスに送る出す旦那さん・・・。
近所のおばちゃんが丁度イギリスに変える予定があったので
一緒に便乗して帰ったらしい・・・。
今考えても旦那さんのこの判断は正しかったと思う。
なぜなら、この後、母親である彼女の目が覚めない日が
延々と続いたからである。
彼女が目を覚まさない間、
旦那さんは警察で事情聴取をされる。
奥さんの事故の原因があまりにも不自然なので
ドメスティックバイオレンスや家庭不和による
自殺ではないかと
警察は疑っていた。
違うことを何度も説明するものの
ぜんぜん理解してもらえなかった様子・・・。
後にバーの警備員の証言により
飲みすぎによる事故と断定された。
旦那さんには余計なストレスだったこの事情聴取・・・。
旦那さんの怒りの矛先は
このバーのオーナーに向けられた。
「このバーの横に手すりがあったら・・・
妻はこんなことにはならなかった・・・。」
そう思っていた旦那さん。
安全面で最善の配慮をしていない
このバーの責任を追求し始める。
イギリスでは
安全面の多くのことが事細かに法によって決まっている。
そんなものは、ここにはない。
特に、イスラムの国で酒を飲める環境に
安全面での法が整備されているわけはない・・・。
法が整備されてなくても、
バーの入り口のすぐ横が
3メートルの段差で柵がないのは
異常である。
裁判を起こせば
きっとこの旦那さんは勝つ。
しかし、そんなことは望んでいないこの旦那さんは
バーの横の段差の部分に落ちないような柵をすることを要求。
もう2度と同じようなことが起きないように・・・。
そして、訴えない代わりに、
奥さんの医療費を負担することを要求した。
この条件を渋々飲んだバーのオーナー・・・。
時間がかかったが、旦那さんの要求は通った・・・。
後は、彼女の目が覚めるのを待つのみ・・・。
彼女の命が助かった理由・・・
それは彼女が太っていたこと。
彼女のお肉が、体の衝撃を最小限にしてくれたよう。
そして・・・・
彼女が酔っ払っていたことも助かって原因のよう。
お酒が回っていた状態だったので
ショック死することはなかったそうな・・・。
しかし、頭を打ち、かなりの重症で
意識が戻らない状態は
多くの症状を引き起こしていた。
肺に水がたまり始め、
水分をうまく体の外に逃せないのか、
水があちこちでたまり、
手や足がムクレ・・・
自力で呼吸できないときもあった。
長い通院通いをする旦那さん・・・。
学校では事務方で重要なポジションにいるため
そんなに長くは会社を休めない。
会社と病院を往復する旦那さん。
毎日毎日、彼女に話しかけながら
彼女の目が覚めるのを待つ。
いつ会っても死にそうな顔の旦那さん・・・・
もし、彼女を失ったら・・・
そう思うと
とても不安だったのかもしれない。
そんな彼を励ますため、
私は度々家に招待し、
晩御飯を一緒に食べるようにしていた。
子供がイギリスに行っていなくなった今、
私にできることはこんなことしかない。
そして・・・
もうひとつ私にできることは・・・・
お見舞いに行かない事。
元気な患者さんとは違い、
危篤・・・
しかも、集中治療室にいるのに
小さい子供をつれてお見舞いにいくと
周りに迷惑をかけて大変なことになる。
それに、きっと他人には自分のこんな姿は見られたくなかったと思う。
私が彼女なら・・・多分来て欲しいとは思わないと思う。
だから、あえて行かなかった。
私なりの気遣い・・・・。
多分他人にはイマイチわからないかもしれないが
これが私の相手を思いやる考え方。
まあ、彼女も後にそう言っていたので
これで正解だったと思う・・・。
来て欲しくなかったとハッキリ言ってたし・・・。
(ヨーロッパ人の友達は行った・・・後にこれで問題になる)
そして
あの事故から3ヵ月後・・・
毎日旦那さんが通った成果なのか・・・
彼女はようやく目を覚ましたのだった。
つづく