アカデミー賞を受賞した映画は、「なるほど、こういう映画が外国人受けするのか」と思わせるストーリーであった。原作者が世界的に著名な村上春樹さんであったことも受賞に大いに寄与しているのであろう。
これはやはり原作も読んでみなけばと思い、文庫本を手に取った。
3時間近い長編映画であったが、原作の「ドライブ・マイ・カー」は「女のいない男たち」という短編集の6作品の中の一作品に過ぎない。
短編集の各作品の主人公は、「ドライブ・マイ・カー」は演出家の家福、「イエスタディ」は浪人生の木樽、「独立器官」は美容整形外科医の渡会、「シェラザード」は引きこもり?の羽原、「木野」は脱サラしてバーを経営する木野、そして表題作の僕は著者自身を思わせる。
いずれも独立したストーリーを持つ、別の作品である。それぞれに個性的というか、かなり変人の主人公たちが登場するが、いずれもかけがえのない女性を失った喪失感に苛まれていて、そこに救いは見いだせない。いかにも村上さんらしい短編集である。
映画の脚本は、「ドライブ・マイ・カー」と「木野」の主人公の喪失の物語を合算し、それに「シェラザード」のエピソードを加え、さらにいくつかのシーンを掘り下げ、加えた上で、その舞台を東京から風光明媚な瀬戸内と雄大な北海道に移したものだった。かなり加筆・修正されているのだが、それでいて、全体のトーンは、原作の短編集と同じ佇まいをしている。
映画では、主人公の家福のみならず、家福の車を運転するみさきの内面にも踏み込んでいた。同じような喪失感を抱えた親子ほども歳の違う二人の心のふれあいと、その再生について描かれていた分、映画の方は救いはあるかな。
余談だが、日本アカデミー賞新人賞を受賞したみさき役の三浦透子さん、NHKの朝ドラ「カムカムエブリバディ」や大河ドラマ「鎌倉殿の十三人」にも出演、まったく違った味を出してて、楽しみな女優さんだ。
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