「ザリガニの鳴くところ」(ディーリア・オーエンズ) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

ザリガニの鳴くところ

 

ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。

6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。

しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。

全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。(「BOOK」データベースより)

 

昨年の「このミス」翻訳部門の2位作品だが、ミステリーというカテゴリーでは収まりきれない、すごい小説だった。

両親に見捨てられ、地域住民からは差別されて、学校にも通わず、湿地と共にひっそりと、しかし逞しく生きる孤独な少女、カイアがヒロイン。

1969年に起きた青年の不審死の捜査と、その17年前から始まるカイアの悲惨な少女時代の物語が交互に展開さる。

やがてこの湿地の少女が、女たらしの被害者チェイスを殺害した容疑者となることは、最初からほぼ予想がつく。

でも、それ以上に、湿地の自然と、そこで生きるカイアの物語が生き生きとしていて、この本の一方のテーマが殺人事件であることを忘れてしまう。

 

やがて、チェイスが結婚前にカイアが男女の関係にあったこと、カイアがチェイスに贈り、チェイスが結婚後も肌身離さず付けていた貝殻のペンダントが遺体からなくなっていたことから、状況証拠だけでカイアが逮捕されてしまう。

ここから先は一転してミステリー、物語は法廷闘争に場面を移す。

差別と偏見からカイアを犯人と決めつける判事に対し、カイアについた正義の辣腕弁護士が、判事側の言い分がすべて確証のない状況証拠だということを論破して、無罪を勝ち取る。

このパートは勧善懲悪風に書かれており、読者の誰しもが、カイアの無罪を信じ、トム弁護士を応援しながら読むことになる。

カイアは初恋のテイトと結ばれ、湿地の研究者、著作家としても成果を上げるのだが、著者は最後にもう一つ、思いもよらない山場を用意していた。

 

湿地のみずみずしい自然の中で展開される生命の営みと、その適者生存、自然淘汰。そんな中で育った少女の逞しさ、用心深さ、激しさ。

この物語では、殺人事件も、そんな湿地の少女の生き様の脇役でしかない。